会社売却を控えた時期に注意すべきなのは、実は「何もしないこと」よりも「余計なことをしてしまうこと」です。売却直前の大きな変化——大型投資、急な役員報酬の変更、資産の急な処分、決算の見栄えの調整——は、たとえ善意によるものでも、企業価値の評価を下げたり、買い手からの信頼を損なったりする原因になります。
なぜなら、買い手はデューデリジェンス(詳細調査)の過程で、直近の数字の変化に必ず目を留めるからです。説明のつかない変化は「何かを隠しているのではないか」という疑念に直結し、疑念は価格の引き下げや取引の破談につながります。本稿では、売却直前に避けるべき行動を5つに整理し、それぞれ「なぜダメなのか」を理由から解説します。あわせて、迷ったときにどう判断すればよいかの基準もお伝えします。
結論:「よかれと思って」の行動が、価値と信頼を壊す
売却直前のNG行動には、共通する構図があります。それは、経営者の「よかれと思って」が、買い手の視点では逆に働くということです。
- 会社を立派に見せようとした大型投資が、「使い道の合わない資産」と評価される
- 利益を大きく見せようとした報酬カットが、「実態の分からない決算」という不信を生む
- 身辺整理のつもりの資産処分が、「事業に必要なものまで動かした」という混乱を招く
M&Aにおける企業価値は、「継続的に稼ぐ力」と「数字の信頼性」で評価されます。直前の急な変化はどちらも毀損しやすいのです。以下、具体的に見ていきます。なお、より長期的な視点で価値を損なう行動については「会社の価値を下げてしまう行動」もあわせてご覧ください。
NG1:大型の新規投資・急な事業拡大
「売る前に設備を新しくしておけば高く売れるだろう」という発想は、自然なようで危険です。理由は3つあります。
- 投資額がそのまま価値に上乗せされるとは限らない:企業価値の評価は収益力が軸であり、設備の取得価額がそのまま評価に反映される保証はありません
- 買い手の構想と合わない可能性がある:買収後の統合方針によっては、その設備・拠点が不要になることもあります。買い手からすれば「相談してくれれば」という投資です
- 借入が増えれば財務は重くなる:投資に伴う借入の増加は、承継する負債として交渉の論点を増やします
本業の維持に必要な更新投資まで止める必要はありません。判断の分かれ目は「維持のための投資か、拡大のための投資か」です。売却を視野に入れた段階での大型投資は、実行前に仲介会社や専門家へ相談し、場合によっては買い手候補との協議に委ねるのが賢明です。
NG2:役員報酬・経費の急な変更
売却直前に役員報酬を大幅に下げて利益を大きく見せる、逆に「今のうちに」と大幅に引き上げる——どちらも避けるべき行動です。
買い手やその専門家は、決算書を数期分並べて分析します。直前期だけ役員報酬が大きく変動していれば必ず気づき、実態ベースの収益力(正常収益力)に引き直して評価します。つまり、報酬カットで作った「見かけの利益」は、評価上はほぼ巻き戻されるのです。それどころか、「見栄えを整えようとする売り手」という印象を与え、他の数字への信頼まで揺らぎます。逆方向の急な引き上げは、会社資金の流出として交渉の場で問題視され、価格調整の対象になり得ます。
経費についても同様で、私的経費の急な整理や、逆に駆け込みでの経費計上は、変化として目立ちます。整理すること自体は望ましいのですが、「いつ・なぜ・どう変えたか」を説明できる形で、計画的に行うことが大切です。
NG3:在庫・資産の急な処分や付け替え
売却前の「身辺整理」のつもりで、在庫を投げ売りしたり、会社名義の資産を親族や個人へ移したりすることも、トラブルの種になります。
- 在庫の急な処分:直前期の粗利率が不自然に変動し、収益力の評価を難しくします。不良在庫の整理自体は健全ですが、実行の時期と説明の準備が重要です
- 資産の付け替え・名義変更:事業に使っている資産を売却直前に動かすと、事業継続に必要な資産の範囲が曖昧になり、買い手の調査工数と警戒心を増やします。程度によっては、意図的な資産の流出と受け取られかねません
- 帳簿と実態のずれの放置:処分したのに帳簿に残っている、あるいはその逆——こうしたずれはデューデリジェンスで必ず表面化します
個人と会社の資産の線引きを整理すること自体は、むしろ推奨される準備です。ポイントは、仲介会社や税理士に相談のうえ、適正な価格・手続で、記録を残しながら行うことです。
NG4:従業員・取引先への軽率な情報共有
「長年支えてくれた従業員には早く伝えたい」という気持ちは、経営者として自然なものです。しかし、検討段階での軽率な共有は、次の連鎖を招くおそれがあります。
- 先行きへの不安から、キーパーソンが退職してしまう
- 噂が社外へ広がり、取引先や金融機関が動揺する
- 情報漏えいにより、買い手候補との交渉自体が壊れる
M&Aの情報は、成約まで徹底した秘密保持のもとで扱うのが原則です。従業員への開示は、成約の目処が立った適切なタイミングで、幹部から順に、処遇の方針とセットで丁寧に伝えるのが基本形です。伝える順序・タイミング・言葉選びは、仲介会社と綿密に設計してください。詳しくは「会社売却と従業員への影響」で解説しています。
NG5(絶対NG):粉飾的な決算調整
最後は、程度の問題ではなく絶対にしてはならない行動です。売上の架空計上や前倒し計上、費用・損失の先送り、在庫の過大計上など、決算を実態より良く見せる操作は、いかなる理由があっても許されません。
理由は明快です。第一に、発覚の可能性が極めて高いこと。買い手は公認会計士等の専門家を入れて財務デューデリジェンスを行い、売上の計上根拠、在庫の実在性、費用の期間対応を検証します。第二に、発覚したときに失うものが大きすぎること。調査段階で見つかれば取引は破談になり、成約後に発覚すれば、最終契約の表明保証条項への違反として損害賠償や補償を求められるおそれがあります。刑事・民事の法的責任に発展する可能性すらあります。第三に、そもそも信頼を裏切る行為であること。会社を託す相手を欺いて始まる承継が、良い結末を迎えることはありません。
業績に自信がないときこそ、正直さが武器になります。赤字や業績悪化には必ず理由があり、理由と改善の道筋を説明できる会社は、数字が完璧に見える会社よりも信頼されることさえあります。
迷ったときの判断基準|「隠す」のではなく「説明できる状態にする」
ここまでのNG行動には、裏返しの原則があります。それは、「買い手に説明できないことはしない。すでにあることは、説明できる状態に整える」という基準です。
| 迷いがちな場面 | 推奨される考え方 |
|---|---|
| 設備投資をすべきか | 維持に必要なら実行。拡大投資は仲介会社・専門家に相談し、買い手との協議も選択肢に |
| 役員報酬・経費をどうするか | 急な変更はせず現状維持が基本。整理する場合は時期と理由を記録に残す |
| 不良在庫・遊休資産がある | 隠さず開示し、処分するなら適正な手続で計画的に。判断に迷えば現状のまま開示 |
| 従業員に伝えたい | 開示の時期・順序・伝え方を仲介会社と設計してから。それまでは秘密保持を徹底 |
| 業績の弱点がある | 操作は絶対にしない。理由と改善の見通しを言語化して、先に仲介会社へ共有する |
要するに、売却直前の時期にすべきことは「会社をよく見せる工作」ではなく、「ありのままの会社を、正確に説明できる準備」です。何が価値評価に影響し、何がそうでないかの見極めは、個別の状況によって異なります。判断に迷う行動があれば、実行する前にご相談ください。当社プラチナパートナーズの無料相談では、売却前にやるべきこと・やってはいけないことを、貴社の状況に即して整理してお伝えしています。
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売却直前に設備投資で立派に見せる、役員報酬を下げて利益を大きく見せる、資産を親族に移す——経営者の「よかれと思って」が、買い手の目には逆に働きます。5つのNG行動と、迷ったときの判断基準「隠すのではなく、説明できる状態にする」を解説。詳しくはコラムへ。
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売る直前の、よかれと思って。これが、会社の価値と信頼を壊します。経営者がやりがちな、5つのNGです。
設備を新しくしても、取得価額がそのまま価値にはなりません。報酬カットで作った見かけの利益は、実態の収益力に引き直され、ほぼ巻き戻される。しかも、他の数字への信頼まで揺らぎます。
検討段階で従業員に話すと、不安からキーパーソンが退職し、噂が外へ出る。そして売上の架空計上などの決算操作は、財務DDでほぼ発覚し、破談どころでは済みません。
物差しは、ひとつ。買い手に説明できないことはしない。すでにあるものは、説明できる状態に整える。直前にすべきは工作ではなく、準備です。
その行動、実行する前に。一度、ご相談ください。
※ 動画は一般的な例で説明しています。当社の手数料は、相談料・着手金・月額報酬0円、基本合意の締結時に成功報酬額の10%を中間金として申し受け(成約時の成功報酬から全額を差し引いてご請求しますが、基本合意後に不成立となった場合の返金はいたしません)、成功報酬は移動総資産レーマン方式(基準額=株式価値+負債総額)・最低2,000万円(税別)です。詳しくは料金体系をご覧ください。
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