買収を検討する段階では、必ずと言っていいほどシナジーが語られます。販路が広がる、仕入が有利になる、間接部門が効率化する。ところが買収の一年後に「結局いくら効果が出たのか」と問われて、答えられる会社は多くありません。見込みが検証されないまま流れていくと、次の買収でも同じ見込みを立て、同じ結果になります。本稿では、シナジーを検証できる形にする方法と、差が出たときの対処を整理します。

検証できないシナジーは、検討していないのと同じ

「売上が伸びる」「コストが下がる」という表現のままでは、検証のしようがありません。一年後に売上が伸びていたとしても、それがシナジーによるものなのか、市場全体が伸びたのか、たまたま大口の受注があったのかを区別できないからです。

検証できる形にするには、三つの要素を決めておく必要があります。何が、どれだけ、いつまでに——です。「自社の顧客に対象会社の商品を提案することで、年間◯件の受注、粗利で◯円を、買収後◯か月以内に」という水準まで分解して、はじめて後から確かめられます。

この分解は、買収前にやっておくのが理想です。価格を組み立てる段階でシナジーを織り込んでいるなら、その中身は具体的に説明できるはずだからです。説明できないシナジーを価格に織り込んでいるとすれば、それは根拠のない上乗せということになります。

とはいえ、買収前に分かることには限りがあります。DDで得られる情報は限定的ですし、現場の実態は入ってみないと見えません。買収後の早い段階で、あらためて分解し直す機会を持つことをおすすめします。

シナジーを四つの型に分けて整理する

整理の切り口として、次の四つに分けると担当と期限が決めやすくなります。

内容の例実現までの時間
売上シナジー相互の顧客への提案、商品の組み合わせ、地域の相互補完長い。相手のある話で読みにくい
原価シナジー仕入の集約、外注の内製化、設備の共同利用中程度。取引先との交渉が要る
販管費シナジー間接部門の共通化、システムや事務所の統合、広告の集約比較的短い。自社で決められる
体制シナジー人材の相互活用、ノウハウの移転、採用力の向上長い。数字にしにくい

この分類で見ると、実現が早いのは自社の意思だけで進められるもの、遅いのは相手の判断が必要なものだという傾向が見えます。売上シナジーは最も期待されがちですが、顧客が買うかどうかを決めるのは顧客であり、こちらの都合では動きません。

したがって、返済計画や投資回収の計算に織り込むなら、実現の確度が高いものに限るべきです。販管費の削減は比較的読みやすく、売上シナジーは上振れ要因として扱う——この使い分けが実務的です。

体制シナジーは数字にしにくい領域ですが、長期的には最も大きな価値を生むことがあります。数字にならないからといって軽視せず、定性的な目標として別に管理するとよいでしょう。

担当者と期限を決め、実績を測る

分解したシナジーには、必ず担当者と期限をつけます。「両社で協力して進める」という書き方では、誰も動きません。買い手側の誰と、対象会社側の誰が、いつまでに何をするのかを書きます。

測り方も事前に決めておきます。たとえば相互の顧客への提案であれば、提案した件数、見積を出した件数、受注した件数、その粗利。仕入の集約であれば、対象となる品目、単価の変化、数量。測り方が決まっていないと、後から「効果はあったと思う」という定性的な報告で終わります。

測定は、月次の管理に組み込むのが効率的です。別の資料を作るのではなく、毎月の報告のなかに項目として置いておけば、自然に追いかけられます。買収後の月次管理の立ち上げについては「買収後100日プランとは|PMI初期にやるべきことの優先順位」もご参照ください。

なお、シナジーの効果を測るときは、コストも合わせて見る必要があります。システムの統合には費用がかかり、仕入の集約には交渉の手間がかかり、人材の相互活用には教育の時間がかかります。効果だけを足し上げると、実態より良く見えます。

遅れているとき、何を見極めるか

期限が来ても実現していないシナジーが出てきたら、原因を三つに分けて考えます。①まだ着手できていない、②着手したが進んでいない、③そもそも前提が違っていた——です。

①の場合、原因は多くが人と時間の不足です。統合の初期は、日常業務に加えて契約の巻き直し、システムの移行、報告体制の整備といった作業が重なります。優先順位をつけ直し、後回しにするものを明示的に決めるほうが、全部が中途半端に止まるよりましです。

②の場合、障害がどこにあるかを具体的に特定します。顧客が関心を示さない、価格が合わない、現場が動かない、仕入先が応じない。原因によって打ち手は違います。とくに「現場が動かない」場合は、意義が伝わっていないのか、既存業務で手一杯なのか、抵抗があるのかを見極める必要があります。

③は最も重要な発見です。買収前に立てた仮説が違っていたのなら、その事実を記録し、次の判断に活かすべきです。「自社の顧客が対象会社の商品を求めるはずだ」という仮説が外れたのであれば、なぜ外れたのかを言葉にしておく。これが組織の学習になります。

遅れを責めるだけの会議にしないことも大切です。統合の初期は誰もが余裕を失っています。できていない理由を率直に出せる場でなければ、報告は取り繕われ、実態が見えなくなります。

出なかったシナジーをどう扱うか

見込んだシナジーが出なかったとき、取るべき行動は三つです。あきらめて計画から外す、方法を変えて再挑戦する、時期を後ろにずらす。どれを選ぶにせよ、明示的に決めることが大切です。曖昧なまま残しておくと、「いつか出るはず」の項目が積み上がり、計画が実態から離れていきます。

計画から外す判断をした場合は、それによって投資回収の見通しがどう変わるかを確認します。シナジーを織り込んで価格を決めていたのであれば、回収に要する期間は延びます。その事実を把握しておかないと、「うまくいっている」という感覚だけが残ります。

一方で、当初は想定していなかった効果が出ていることもあります。対象会社の技術が自社の別の事業に使えた、採用の応募が増えた、取引先からの信用が上がった。こうした予想外の成果も記録しておくと、次の買収の検討に活きます。

また、シナジーが出ないこと自体が、統合の進め方に問題があるサインである場合もあります。両社の現場に接点がない、意思決定が滞っている、責任者が兼務で時間を取れない——こうした構造的な原因があるなら、個別のシナジーを追うより先に、体制を直す必要があります。失敗の型については「買収で失敗する典型パターン|事前に潰せる原因」もご覧ください。

まとめ|検証の習慣が、次の買収の精度を上げる

シナジーの検証は、その案件のためだけの作業ではありません。見込みと実績の差を記録し、なぜ差が出たのかを言葉にしておくことで、次の買収での見立てが確かになります。買収を繰り返す会社とそうでない会社の差は、この蓄積の有無に表れます。

検証の頻度は、実現までの時間に応じて変えるとよいでしょう。販管費の削減は数か月単位で確かめられますが、売上シナジーや人材の相互活用は年単位で見る必要があります。短いものは月次に組み込み、長いものは半期や年次の振り返りで扱う——この使い分けが現実的です。

そして、シナジーを返済計画や投資回収の前提に据えすぎないことです。実現の確度が高いものに限って織り込み、不確実なものは上振れ要因として扱う。この慎重さが、想定が外れたときの耐性になります。

当社プラチナパートナーズでは、買収の検討段階でのシナジーの整理から、成約後のご相談まで承っています。買い手企業様のご相談は無料です。お問い合わせは info@platinumpartners.jp または当サイトのフォームからお願いいたします。

よくあるご質問

A.実現の確度が高く、金額と時期を具体的に説明できるものに限るべきだと考えます。売上シナジーは顧客の判断に左右されるため読みにくく、価格の根拠に据えると想定が外れたときの影響が大きくなります。実現が自社の意思で進められる販管費の削減などに比べ、慎重に扱うことをおすすめします。
A.実現までの時間に応じて頻度を変えるのが現実的です。間接部門の共通化のように数か月単位で確かめられるものは月次の報告に組み込み、売上シナジーや人材の相互活用のように年単位で効いてくるものは半期や年次の振り返りで扱う、という使い分けが実務的です。
A.計画から外す、方法を変えて再挑戦する、時期を後ろにずらす——いずれかを明示的に決めてください。曖昧なまま残すと計画が実態から離れます。また、前提そのものが違っていたと分かった場合は、なぜ外れたのかを記録しておくと、次の買収での見立ての精度が上がります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら