医療法人の事業承継・M&Aは、株式会社の会社売却とは仕組みが根本的に異なります。医療法人には株式がなく、「出資持分」の有無によって承継の設計そのものが変わるうえ、都道府県の認可をはじめとする行政手続が随所に関わるためです。本稿では、持分あり・持分なしそれぞれの医療法人について、第三者への承継の基本的な考え方を整理します。なお、医療法人制度は類型や地域運用による違いが大きい分野です。本稿は確立された一般論の整理にとどめており、個別の要件・手続は必ず行政の担当窓口および専門家にご確認ください。
医療法人の承継が株式会社と大きく異なる理由
株式会社のM&Aでは、株式を譲渡すれば経営権と財産権がまとめて買い手に移ります。医療法人ではこの前提が成り立ちません。理由は大きく三つあります。
株式が存在しない
医療法人の多くを占める社団医療法人では、意思決定は「社員」で構成される社員総会が担い、業務執行は理事・理事長が担います。ここでいう社員は従業員ではなく、株式会社の株主総会における株主に近い立場です。経営権を引き継ぐには、この社員と理事・理事長を交代させることが基本になります。
非営利性の原則がある
医療法人は剰余金の配当が禁止されるなど、営利を目的としない法人として制度設計されています。株式会社のように「会社の値段」を株価として自由にやり取りする発想がそのまま通用せず、対価の設計に工夫と慎重な検討が必要になります。
行政の監督下にある
医療法人は都道府県の監督を受けており、定款の変更に認可が必要とされるなど、承継の過程で行政手続が発生します。また、理事長は原則として医師または歯科医師から選ぶこととされている(例外には都道府県の認可等の手当てがあります)など、誰が引き継げるかにも制度上の枠組みがあります。後継者側の体制づくりも含めて、制度を前提にした設計が欠かせません。
出資持分「あり」の医療法人|持分譲渡と社員・理事の交代
「出資持分のある医療法人」は、過去の制度下で設立された経過措置型の医療法人で、現在は新規に設立できません。長く運営されてきた医療法人には、この持分あり型が多く残っています。
持分あり医療法人の第三者承継は、おおまかに言えば次の要素を組み合わせて行われます。
- 出資持分の譲渡|現経営者側が保有する出資持分を後継者側へ譲渡し、対価を受け取る
- 社員の交代|現社員が退社し、後継者側の人材が入社して社員総会の構成を入れ替える
- 理事・理事長の交代|理事を入れ替え、後継者側の理事長を選出する
株式会社の株式譲渡に構造は似ていますが、出資持分の譲渡だけでは経営権は移らない点が決定的に異なります。社員総会の議決権は出資額ではなく社員一人につき一つが原則とされるため、持分の移転と社員・理事の交代をセットで設計しなければ、承継は完結しません。譲渡対価の税務上の取り扱いも株式とは異なる論点があり得るため、税理士等への確認が必須です。
なお、持分あり医療法人から持分なし医療法人への移行という制度上の選択肢もあり、承継の検討と並行して論点になることがあります。移行の是非や手続は高度に専門的な判断となるため、専門家にご相談ください。
出資持分「なし」の医療法人|経営権の交代が中心になる
現在新たに設立される医療法人は、出資持分のない類型です。持分なし医療法人には、そもそも譲渡の対象となる持分が存在しないため、承継の中心は社員・理事・理事長の交代による経営権の引き継ぎになります。
ここで実務上の大きな論点になるのが、現経営者側が受け取る対価の設計です。持分がない以上、「法人を譲った対価」を持分の譲渡代金として受け取ることはできません。実務では、長年法人の経営を担ってきた理事長・役員が退任する際の役員退職金など、別の形で対価を設計することが検討されます。ただし、退職金の金額の妥当性や税務上の取り扱いは個別性が極めて高く、過大と判断された場合のリスクもあるため、必ず税理士等の専門家を交えて検討する必要があります。
持分の有無による違いをまとめると、次のようになります。
| 項目 | 持分あり医療法人 | 持分なし医療法人 |
|---|---|---|
| 新規設立 | 現在は不可(経過措置型) | 可能(現行制度の類型) |
| 承継の中心 | 出資持分の譲渡+社員・理事の交代 | 社員・理事・理事長の交代 |
| 対価の受け取り方 | 持分の譲渡対価が基本 | 役員退職金など別途設計(要専門家確認) |
| 共通する手続 | 社員総会等の法人内手続、役員変更等の行政への届出・認可(内容により異なる) | |
表は基本的な整理です。法人の類型(社団・財団、基金拠出型など)や定款の定めによって取り扱いは異なります。個別の要件は必ず専門家にご確認ください。
事業譲渡という選択肢|病院・診療所単位で引き継ぐ
法人全体の経営権を引き継ぐ方法のほかに、病院・診療所などの事業を単位として譲渡する方法もあります。複数の施設を運営する法人が一部の施設のみを他の医療法人へ引き継ぐ場合や、法人格は残して事業だけを譲る場合に検討される選択肢です。
事業譲渡では、譲り受け側が診療所・病院の開設に関する手続を改めて行うことが原則となるため、開設許可や保険医療機関の指定など、行政手続の段取りが経営権譲渡型よりも複雑になりがちです。診療を止めずに引き継ぐには、手続のスケジュールを行政窓口と確認しながら綿密に設計する必要があります。また、職員の雇用は転籍の形になるため、職員本人の同意を得るプロセスも必要です。
どの方法が適するかは、法人の類型、施設数、後継者側の体制、対価の設計などによって変わります。方法選択の段階から専門家を交えて検討することをおすすめします。
都道府県の認可・行政手続|必ず事前確認を
医療法人の承継では、一般の会社のM&Aにはない行政手続が随所に関わります。代表的には次のような場面です。
- 定款変更が必要になる場合の、都道府県知事の認可
- 役員(理事・監事)の変更に伴う行政への届出
- 事業譲渡の場合の、診療所・病院の開設に関する許可等の手続
- 保険診療を継続するための、保険医療機関の指定に関する手続
必要な手続の内容・順序・所要期間は、承継の方法、法人の類型、そして都道府県ごとの運用によって異なります。手続の見落としは診療の継続に直結しかねないため、検討の早い段階で都道府県の医療法人担当窓口に相談し、行政手続に明るい行政書士・司法書士・弁護士等と連携して進めることが不可欠です。当社のようなM&A仲介会社は、相手探しと交渉の調整を担いつつ、これら専門家と連携して全体の段取りを管理します。
医療法人の承継を進める手順と専門家の関与
後継者不在は医療機関にとっても深刻な課題です。中小企業全体の後継者不在率は50.1%(帝国データバンク2025年調査)にのぼり、地域医療を担う診療所・病院でも、閉院ではなく第三者への承継によって医療機能を残す選択が広がっています。承継の大まかな流れは、一般のM&Aと同様に「準備・相手探し・交渉・契約・引き継ぎ」と進みますが(詳細は「M&Aの流れと進め方」参照)、医療法人では各段階に制度面の確認が挟まる点が特徴です。
- 準備段階|持分の有無・定款・社員構成を確認し、採り得る承継方法を専門家と整理する
- 相手探し|秘密保持を徹底しながら、理念や診療方針の合う承継先を探す
- 交渉・契約|対価の設計、職員の処遇、理事長交代の時期などを擦り合わせる
- 行政手続・引き継ぎ|認可・届出のスケジュールを管理し、診療を止めずに引き継ぐ
患者さまと職員、そして地域の医療を守りながら経営を引き継ぐには、制度の理解と丁寧な段取りの両方が必要です。当社プラチナパートナーズは、医療法人を含む事業承継のご相談を承っています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。税理士・弁護士等の専門家と連携し、秘密厳守で伴走しますので、構想段階からお気軽にご相談ください。