M&A仲介会社からの電話や手紙が、続けて届く。「買いたい会社がある」という内容に、どこまで本気があるのか。判断の材料をお伝えします。当社も同じ業界にいる立場で、率直に書きます。
なぜ自社に連絡が来るのか
まず仕組みを理解してください。多くの場合、個別にあなたの会社を選んで連絡しているわけではありません。
企業データベースから、業種・売上規模・設立年・代表者の年齢といった条件で抽出したリストに、一括で連絡している形が一般的です。代表者が60代以上、後継者の登記がない、といった条件が使われます。
つまり、「御社に興味を持っている買い手がいます」という文面が、そのまま事実とは限りません。これは業界の実態として申し上げています。
その場で答えてよいこと、いけないこと
電話を受けたとき、答えてよいのは公開情報だけです。
会社のウェブサイトに載っている程度のこと——業種、おおよその事業内容——は問題ありません。
答えるべきでないのは、売上高、利益、従業員数、そして「譲渡を考えているかどうか」です。
とくに最後です。「少し考えている」と言った瞬間に、そのリストの中での優先度が上がり、連絡の頻度が変わります。まだ社内で整理できていない段階なら、意思は伝えないほうが動きやすくなります。
「買い手がいます」と言われたら
具体的な買い手の存在を示唆された場合、確認すべきことがあります。
その買い手は、御社を特定して興味を示しているのか。それとも「この業種で探している先がある」という一般的な話なのか。
後者であることが多いのが実際です。それ自体は悪いことではありません。問題は、前者であるかのように伝えられる場合です。
「どの程度、具体的なお話なのでしょうか」と率直に聞いてください。誠実な会社なら、正直に答えます。曖昧にごまかす会社は、その後の説明も曖昧です。
会う場合の心構え
会うこと自体に費用はかかりません。情報収集として面談するのは合理的です。
ただし、資料を持参しない。決算書を求められても、初回で渡す必要はありません。秘密保持契約を結んでからで十分です。
また、その場で契約書に署名しない。仲介契約(アドバイザリー契約)を提示されることがありますが、持ち帰って読んでください。専任条項、有効期間、テール条項、中途解約の扱い。この4点は必ず確認します。
面談で確認すべき5項目
会うなら、こちらから聞くことを決めておきます。
① 手数料の全体像。相談料、着手金、月額報酬、中間金、成功報酬。それぞれいくらか、いつ払うか、返金はあるか。
② 成功報酬の計算基準。株式価値ベースか、移動総資産ベースか。同じ料率でも金額が変わります。
③ 最低報酬額。小規模な案件では、これが実質的な費用になります。
④ 専任かどうか、期間はどれくらいか。
⑤ 中小M&Aガイドラインの遵守宣言をしているか。M&A支援機関登録の状況も含めて確認してください。
ガイドラインが求めていること
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」(令和6年8月)は、支援機関に対して具体的な行動を求めています。
手数料の体系と算定基準を明確に説明すること。専任条項を設ける場合はその内容と期間を明示し、他の支援機関へのセカンドオピニオンを求めることを妨げないこと。テール期間は最長でも2年〜3年以内を目安とし、対象を実際に紹介した相手先に限定すること。
これらに反する説明をする会社は、その時点で判断材料になります。当社の遵守宣言はこちらに全文を掲載しています。
手紙・DMの見分け方
電話だけでなく、書面が届くこともあります。判断の材料になる点を挙げます。
差出人が明記されているか。商号、所在地、担当者名。これが曖昧な書面は、それだけで判断できます。
「御社限定」「特定の買い手から指名」と書いてあるか。一斉送付の文面にこの表現があれば、事実と異なる可能性があります。同業の経営者仲間に「同じ手紙が来たか」を聞けば分かることです。
期限が切ってあるか。「今月中にご返信を」といった期限は、検討を急がせるための設定であることが多いものです。会社を譲るかどうかの判断に、他人が決めた期限を持ち込む必要はありません。
断り方
連絡を止めたい場合、曖昧にしないことが結局は早いです。
「今は考えていません」だけでは、半年後にまた連絡が来ます。「今後のご連絡は不要です」と明確に伝えてください。
それでも続く場合、書面やメールで記録の残る形で通知します。個人情報の利用停止を求めることもできます。
なお、断ったからといって将来の選択肢が消えるわけではありません。数年後に検討を始めるとき、改めて自分で選べばよいことです。
自分から探すという選び方
最後に、視点を変えます。
連絡が来た会社の中から選ぶ、という発想だと、営業力の強い会社の中から選ぶことになります。営業力と実務の力は、別のものです。
検討を始めると決めたなら、こちらから複数社に問い合わせて比較してください。顧問税理士や取引金融機関に紹介を求めるのも一つです。
選ぶ側に回ると、質問の中身が変わります。受け身で聞いているときには出てこなかった論点が、自然に出てきます。仲介会社の見極め方も併せてご覧ください。