保険代理店は、この十数年で最も大きく数を減らした業態のひとつです。背景には、体制整備を求める規制の強化と、代理店側の高齢化があります。まずは、業界団体が公表している数字で現在地を確認します。
数字で見る損害保険代理店の現在地
一般社団法人日本損害保険協会が公表した「2024年度損害保険代理店統計」(2025年7月31日)によると、2024年度末における損害保険代理店の実在数は140,138店で、前年度末(150,652店)から10,514店減少しました(△7.0%)。募集従事者数は1,779,201人で、前年度末(1,793,554人)から14,353人減少しています(△0.8%)。
代理店の構成は次のとおりです(同統計)。
| 区分 | 構成比 |
|---|---|
| 専業代理店 | 17.5%(24,554店) |
| 副業代理店 | 82.5%(115,584店) |
| 法人代理店 | 61.6%(86,380店) |
| 個人代理店 | 38.4%(53,758店) |
また、募集形態別の元受正味保険料の構成比は、代理店扱が89.7%、直扱(通信販売など)が9.4%、保険仲立人扱が0.9%です。損害保険の販売において、代理店チャネルが圧倒的な位置を占めていることがわかります。
注目したいのは、副業代理店が全体の8割超を占めるという点です。自動車販売店、修理工場、不動産会社、旅行会社など、本業のかたわらで保険を扱う事業者がこの業界の裾野を形づくっています。代理店数の減少は、この副業層の縮小と密接に関わっています。
生命保険の募集チャネルはどう動いているか
生命保険についても、同様の傾向が見られます。一般社団法人生命保険協会「2025年版 生命保険の動向」によると、2024年度末の数字は次のとおりです。
- 登録営業職員数——241,507名(前年度比100.3%、2年ぶりに増加)
- 法人代理店数——31,339店(同97.3%、9年連続の減少)
- 個人代理店数——43,959店(同95.2%、10年連続の減少)
- 代理店使用人数——914,233名(同98.9%、7年連続の減少)
営業職員数が下げ止まる一方で、代理店の数は長期にわたって減り続けています。個人代理店の10年連続減少という数字は、代理店主の高齢化と、後継者が見つからないまま廃業していく流れを反映していると読むのが自然です。
制度の動き|令和7年保険業法改正と監督指針
制度の面では、大きな変更が進んでいます。「保険業法の一部を改正する法律」(令和7年法律第54号)が令和7年5月30日に成立し、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されるとされています(金融庁)。
金融庁が公表した内閣府令案等の概要によれば、保険募集人・保険代理店に関係する主な内容は次のとおりです。
- 特定大規模乗合保険募集人への体制整備義務の強化——要件の明確化、営業所・事務所ごとの法令等遵守責任者の設置、本店・主たる事務所への統括責任者の配置、苦情処理体制の整備
- 特定大規模乗合損害保険代理店への体制整備義務の強化——兼業業務に係る体制整備、苦情処理体制の整備、内部監査・社内通報体制の整備
- 乗合代理店における適切な比較推奨販売の確保——情報提供に係る規定の改正
あわせて、金融庁は2025年に「保険会社向けの総合的な監督指針」の一部改正を進めました。改正案では、損害保険会社による保険代理店に対する指導等の実効性の確保、保険代理店等に対する過度な便宜供与の防止、不適切な出向の防止などが論点として示されています。業界団体も、便宜供与や出向に関するガイドラインを策定しています。
施行日や適用対象の詳細は、政令・内閣府令によって定まります。自社が対象となるかを含め、実務対応にあたっては必ず所属先の保険会社および専門家にご確認ください。
経営環境の変化|体制整備の負担が規模を求める
これらの制度変更が代理店経営に与える影響は明確です。コンプライアンス体制の整備には、人と時間と費用がかかります。法令等遵守責任者の設置、内部監査、苦情処理体制、記録の保存——これらを少人数の事務所で回すのは容易ではありません。
結果として、次のような選択を迫られる代理店が増えています。
- 体制整備に投資し、規模を拡大して対応する
- 取扱範囲を絞り、負担の軽い形に事業を縮小する
- より大きな代理店の傘下に入る、あるいは事業を譲渡する
- 廃業し、顧客を他の代理店に引き継ぐ
代理店実在数が1年で7.0%減少したという数字は、こうした選択が現実に進んでいることを示しています。
事業承継の観点|委託契約・募集人・顧客基盤
帝国データバンクの2025年調査によると、国内企業の後継者不在率は50.1%です。保険代理店は個人・小規模法人が多く、代理店主の引退がそのまま廃業に直結しやすい業態です。
承継やM&Aを検討する際に整理しておきたい論点は次のとおりです。
- 保険会社との委託契約——どの保険会社と、どの種目で委託契約を結んでいるか。乗合の状況と、経営権の異動に際して保険会社の承諾等が必要かどうかは、最初に確認すべき点です。
- 募集人の登録と体制——在籍する募集人の人数、登録の状況、教育・研修の実施記録。体制整備の要件を満たしているかは、引き継ぐ側にとって重要な確認事項です。
- 顧客基盤——保有契約の件数、種目構成、継続率、契約者の年齢構成。継続率は、そのまま将来の手数料収入の確からしさを示します。
- 手数料体系——保険会社ごとの手数料ポイントや、実績に応じた区分。承継後にどう変わるかは、事前に確認が必要です。
- 個人情報の管理——契約者情報の管理体制と、承継に伴う取扱い。この業態では特に慎重な設計が求められます。
- 副業との関係——本業を持つ副業代理店の場合、保険部門だけを切り出すのか、本業とあわせて承継するのかという設計が論点になります。
顧客基盤の評価の考え方については「顧客基盤の価値」を、乗合契約と顧客の引継ぎに関する実務は「保険代理店のM&A」もあわせてご覧ください。
まとめ|顧客と契約が生きているうちに
保険代理店業界は、代理店数の長期的な減少と、体制整備を求める制度強化という二つの流れのなかにあります。個人代理店は10年連続で減少し、損害保険代理店は1年で7%減りました。この流れが急に反転するとは考えにくい状況です。
代理店の価値は、保有契約と、顧客との信頼関係にあります。どちらも、代理店を閉じてしまえば散逸します。契約が継続し、募集人が在籍しているうちであれば、引き継ぐ相手を探す余地があります。体制整備の負担に悩まれている段階こそ、選択肢を並べて考える好機です。
当社プラチナパートナーズは、成功報酬型のもと、保険代理店を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。委託契約や顧客基盤の整理から、守秘義務を徹底のうえ対応いたします。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。