食品卸は、産地・メーカーと小売・外食のあいだで、多頻度小口の配送、温度帯管理、需給調整、与信という複数の機能を同時に担ってきました。この「同時に担う」構造が、いま二方向から圧力を受けています。ひとつは物流に関する制度と労働時間規制、もうひとつは原材料と人件費の上昇です。本稿では、公表統計で現在地を確認したうえで、制度の動き、経営環境、そして事業承継の観点で何が論点になるかを整理します。

食品卸の現在地|販売額の伸びと価格上昇

経済産業省「商業動態統計」によれば、2025年の卸売業販売額は約478兆円で前年比1.3%の増加、商業販売額全体では約635兆円(同1.3%増)でした。卸売業・小売業ともに5年連続の増加とされています。

ただし食品分野については、金額の伸びの相当部分が価格の上昇によるものと見るのが自然です。総務省「消費者物価指数」によれば、2025年平均の食料の指数は前年比6.8%の上昇、なかでも穀類は21.9%の上昇でした。総合指数は3.2%の上昇です。食料の上昇率が全体を大きく上回っている状況が続いています。

事業所数の規模感としては、総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」で卸売業全体の事業所数は34万8,889事業所とされています。食品卸はそのなかで大きな一角を占めますが、地域密着の中小事業者が多数を占める構造は変わっていません。

現場の実感としては、「取扱金額は増えたのに、資金繰りは苦しくなった」という声が多く聞かれます。単価が上がれば同じ数量でも仕入代金は増え、支払いは先、回収は後という卸の資金構造では、売上増がそのまま運転資金の増加になるためです。

制度の動き|改正物流効率化法と2026年4月

食品卸にとって最も影響が大きい制度は、物流に関するものです。改正物流効率化法は2025年4月に荷主・物流事業者等の努力義務などが施行され、2026年4月には一定規模以上の事業者を「特定事業者」に指定し、中長期計画の提出・定期報告、物流統括管理者(CLO)の選任などを求める規定が施行される予定とされています。

いわゆる「2024年問題」——トラックドライバーの時間外労働の上限規制——を出発点として、荷待ち時間・荷役時間の削減、パレット化、納品回数の適正化といった要請が、いまや荷主側の義務として制度化されつつあります。食品卸は、自らが荷主でもあり、実質的な物流事業者でもあるという二重の立場にあるため、この制度の影響を正面から受けます。

あわせて、商慣行の見直しも進んでいます。農林水産省は、賞味期間を3等分して納品期限を設定する「3分の1ルール」の見直しを働きかけており、同省の公表によれば2024年10月末時点で339の食品小売事業者が納品期限を緩和(または緩和予定)しています。また同省の公表によれば、2023年度の事業系食品ロス量は231万トンで、2000年度比58%の削減とされています。

衛生管理では、改正食品衛生法により2021年6月1日からHACCPに沿った衛生管理が原則としてすべての食品等事業者に義務づけられ、営業許可制度も見直されました。食品卸では、取扱品目に応じた許可・届出の整理が、承継の際の確認事項になります。

経営環境|価格転嫁、温度帯、そして人手

価格転嫁の状況は、中小企業庁「価格交渉促進月間(2025年9月)フォローアップ調査」(2025年11月公表)に示されています。価格転嫁率は53.5%、コスト要素別では原材料費55.0%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%とされています。食品卸は仕入・販売の双方で交渉が発生するため、川上からの値上げを受け入れつつ川下への転嫁が遅れると、その差がそのまま利益を削ります。

温度帯管理も負担の大きい領域です。冷蔵・冷凍の設備は電力を消費し、庫内作業は低温環境での労働になります。設備の更新には投資が必要で、更新時期が経営者の引退時期と重なることは珍しくありません。「あと10年やるなら冷凍設備を入れ替えなければならない。しかし後継者がいない」——この構図が、承継の検討を始める直接のきっかけになる例は多く見られます。

人件費については、厚生労働省の公表によれば令和7年度の地域別最低賃金は全国加重平均で1,121円(前年度から66円の引上げ)となり、全都道府県で1,000円を超えました。令和8年度も、目安どおりに改定されれば全国加重平均は1,176円になるとされています。早朝・深夜の作業が避けられない食品卸では、この上昇はコスト構造に直接効きます。

事業承継の観点|食品卸で何が論点になるか

帝国データバンクの2025年調査では、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。食品卸は地域の商流を支えてきた事業者が多く、経営者の高齢化と設備更新の時期が重なりやすい業種です。

承継を考える際に、まず整理しておきたいのは次の点です。

  • 取引先構成(小売・外食・給食など業態別、上位先への依存度)
  • 取扱品目の構成と粗利率(常温・冷蔵・冷凍の別を含む)
  • 配送体制(自社便・傭車の割合、配送コースと積載効率)
  • 冷蔵・冷凍設備の設置年、更新計画と想定投資額
  • 営業許可・届出の名義と有効期限、HACCPに沿った衛生管理の記録
  • 売掛債権の年齢表と、回収に懸念のある先

とくに配送コースは、食品卸の価値の源泉であると同時に、買い手が最も具体的に評価する資産です。「どの地域を、どの頻度で、どの温度帯で回れるか」は、新規に構築するには時間がかかります。逆に言えば、コース別の採算が説明できない状態では、その価値を交渉に反映しにくくなります。取引先の集中度をどう説明するかについては「顧客基盤の価値をどう説明するか|取引先の集中度とストック性」もご参照ください。

M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと

食品卸のM&Aで、一般に確認される領域を整理します。なお、業種別の成約件数や価格の水準は公表されたものがないため、ここでは論点のみを挙げます。

領域整理しておきたい内容
許認可取扱品目に応じた営業許可・届出の状況。株式譲渡なら法人の許可は一般に維持されるが、事業譲渡では譲受側の取得が前提になるのが通常。
衛生管理HACCPに沿った衛生管理の実施記録、温度記録、回収時の対応手順。記録の不備は是正コストとして評価に影響しうる。
物流車両の保有・リースの別、傭車先との契約、倉庫の賃貸借条件、パレット・カゴ車の管理。
在庫賞味期限別の在庫構成、廃棄・値引き販売の実績、返品の処理方法。
取引条件リベート・センターフィー等の取り決め、支払サイトと回収サイトの差。
人材営業・庫内・配送それぞれの要員数と年齢構成、免許保有者の状況。

買い手側の視点としては、既存の配送網に接続できるか、温度帯が補完関係にあるか、といった点が重視されます。同業からの関心が寄せられることが多い一方で、案件ごとの事情によって適した相手先は異なりますので、初期の段階で幅を持って検討することをおすすめします。物流の論点については「倉庫業・物流施設のM&A|許認可と取引先契約の引き継ぎ」もご参照ください。

まとめ|物流と衛生の記録が、そのまま説明資料になる

食品卸を取り巻く環境は、2026年4月の制度施行を控え、物流の面で新たな段階に入ります。食料の物価上昇(総務省「消費者物価指数」2025年平均で前年比6.8%上昇)と、価格転嫁率53.5%(中小企業庁2025年9月調査)という数字が示すのは、金額は伸びても利幅は守りにくいという構造です。

一方で、多頻度小口・温度帯管理・地域網という食品卸の機能は、簡単には代替できません。その機能を、配送コース別の採算、衛生管理の記録、設備の更新計画という形で説明できるようにしておくことが、承継の局面ではそのまま交渉材料になります。

設備の更新時期が近づいている、配送を担う人材の確保が難しくなっている——そうしたご事情がある場合は、選択肢が狭まる前にご相談ください。当社プラチナパートナーズは、成功報酬型のもと、守秘義務を徹底して初期の整理からご支援しています。

本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。制度・統計の解釈や個別の適用については、必ず所管官庁および専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.コース別の採算で説明してください。配送コースは食品卸の価値の源泉であると同時に、買い手が最も具体的に評価する資産です。「どの地域を、どの頻度で、どの温度帯で回れるか」は、新規に構築するには時間がかかります。逆に言えば、コース別の採算が説明できない状態では、その価値を交渉に反映しにくくなります。整理すべきは、配送コースと積載効率、自社便と傭車の割合、コースごとの売上と配送原価です。買い手側は既存の配送網に接続できるか、温度帯が補完関係にあるかを重視しますので、常温・冷蔵・冷凍の別も分けて示してください。
A.この構図は、承継の検討を始める直接のきっかけになる例が多く見られます。冷蔵・冷凍の設備は電力を消費し、庫内作業は低温環境での労働になります。更新には投資が必要で、「あと10年やるなら入れ替えなければならない。しかし後継者がいない」という状態のまま時間が経つと、設備の状態と人員の両方が細っていきます。判断の材料として、冷蔵・冷凍設備の設置年、更新計画と想定投資額を具体化してください。そのうえで、自社で投資する場合と、設備を活かせる相手と組む場合を並べて比べるのが現実的です。
A.食品卸は影響を正面から受ける立場です。改正物流効率化法は2025年4月に荷主・物流事業者等の努力義務などが施行され、2026年4月には一定規模以上の事業者を特定事業者に指定し、中長期計画の提出・定期報告、物流統括管理者(CLO)の選任などを求める規定が施行される予定とされています。食品卸は自らが荷主でもあり実質的な物流事業者でもあるという二重の立場にあります。荷待ち時間・荷役時間の削減、パレット化、納品回数の適正化といった要請が制度化されつつあるため、現在の運用と対応余地を整理しておくことが、将来のコスト見通しの説明になります。該当の有無は所管官庁の公表資料および専門家にご確認ください。
A.単価上昇がそのまま運転資金の増加になるためです。総務省「消費者物価指数」によれば2025年平均の食料の指数は前年比6.8%の上昇、穀類は21.9%の上昇でした。単価が上がれば同じ数量でも仕入代金は増え、支払いは先、回収は後という卸の資金構造では、売上増が運転資金の増加に直結します。さらに中小企業庁の同月間フォローアップ調査(2025年11月公表)では価格転嫁率は53.5%で、川上からの値上げを受け入れつつ川下への転嫁が遅れると、その差が利益を削ります。リベート・センターフィー等の取り決め、支払サイトと回収サイトの差、売掛債権の年齢表を整理して示してください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら