全株を取得すれば、株主間契約は要りません。必要になるのは、売り手が一部を持ち続ける場合や、複数の株主で会社を持つ場合です。何を決めておくべきかを整理します。
なぜ必要なのか
会社法と定款だけでは、株主同士の関係は十分に決まりません。
議決権は持株比率で決まりますが、「配当をいつ出すか」「役員を何人指名できるか」「相手が第三者に売ろうとしたときどうするか」といったことは、法律には書いてありません。
これらを当事者間で決めておくのが株主間契約(Shareholders Agreement、SHA)です。
揉めてから作ることはできません。関係が良好なうちに、悪くなった場合を想定して作るものです。
議決権と役員の指名
まず決めるのは、誰が経営を握るのかです。
持株比率に応じて役員を指名する、というのが基本形です。買い手が過半数を持つなら、取締役の過半数を指名します。
加えて、少数株主側に一定の保護を置くことがあります。重要な事項(定款変更、増資、多額の借入、事業の譲渡、解散)については、少数株主の同意を要するという定めです。
買い手としては、この拒否権の範囲を広げすぎないことが重要です。範囲が広いと、日常の経営判断まで相手の同意が要ることになり、動けなくなります。
配当方針を書く
売り手が株式を残す場合、配当が唯一の収入になることがあります。
配当を出すかどうかは株主総会の決議であり、過半数を持つ買い手が決められます。だからこそ、契約で方針を書いておく意味があります。
「当期純利益の○%を配当する」「ただし、借入の返済や設備投資に必要な場合は取締役会の決議で減額できる」といった形です。
買い手側としては、硬すぎる約束を避けてください。業績が落ちても配当義務が残ると、資金繰りを圧迫します。条件付きの定めにしておくのが実際的です。
譲渡制限と先買権
相手が第三者に株を売ることを、無制限に認めるわけにはいきません。知らない相手が株主になるためです。
譲渡制限。定款にも置きますが、契約でも相手方の事前承諾を要する旨を定めます。
先買権(First Refusal)。第三者に売る前に、まず自分に同じ条件で買う機会を与えるという権利です。
この2つで、株主構成が意図せず変わることを防ぎます。買い手にとっては、将来の完全子会社化への布石にもなります。
タグアロングとドラッグアロング
用語として出てくるものを整理します。
タグアロング(Tag Along、売却参加権)。多数株主が第三者に売却する際、少数株主も同じ条件で一緒に売れる権利です。少数株主を守る条項です。
ドラッグアロング(Drag Along、売却請求権)。多数株主が第三者に売却する際、少数株主にも売却を強制できる権利です。多数株主を守る条項です。
買い手としては、ドラッグアロングを入れておく実務的な意味は大きいと言えます。将来、会社を売却する場面で、少数株主が残っていると全株を揃えられないためです。
買取条項をどう設計するか
売り手が残した株の出口を決めておく条項です。
プット・オプション。売り手が買い手に買い取りを請求できる権利。売り手を守ります。
コール・オプション。買い手が売り手から買い取れる権利。買い手を守ります。
どちらも、価格の算定方法を書かなければ意味がありません。「その時の時価」では必ず揉めます。純資産法か、EBITDA倍率か、算式を明記してください。
買い手としては、プット・オプションを負う場合の資金負担を必ず試算してください。数年後に数億円の買取義務が発生する設計になっていないかを確認します。
デッドロックへの備え
株主が2社で、拒否権の範囲が広い場合、意思決定が止まる(デッドロック)ことがあります。
備えとして置かれるのが、協議の手続き(まず代表者同士が協議する)、第三者の関与(調停や専門家の判断)、そして最終手段としての株式の買取です。
買取の方法として、一方が価格を提示し、相手はその価格で買うか売るかを選べる、という仕組み(いわゆるシュートアウト条項)が使われることもあります。
「そんなことにはならない」という前提で作らないでください。そのために結ぶ契約です。
定款との関係を確認する
最後に実務上の注意です。株主間契約は当事者を拘束しますが、契約に違反した行為が会社法上ただちに無効になるとは限りません。
たとえば、契約で「増資には相手の同意が必要」と定めていても、株主総会の決議として有効に成立した増資の効力を、契約違反だけで覆せるとは限りません。
そのため、重要な事項は定款にも反映させるという設計を取ることがあります。種類株式を使う方法もあります。
契約と定款の役割分担は、弁護士と設計してください。ひな型をそのまま使うと、実効性のない条項が並ぶことになります。