「全部売るのは寂しい。何割か残せないか」。実際にあるご相談です。形としては可能ですが、少数株主になるとは何を意味するのかを理解したうえで判断する必要があります。

なぜ一部を残したいのか

理由を伺うと、おおむね三つに分かれます。

① 会社への愛着。完全に手を離すことへの抵抗です。

② 将来の値上がりへの期待。買い手のもとで成長すれば、残した株の価値も上がるという期待です。

③ 一度に全額を受け取らず、税負担を分散したい。

どれも理解できる動機ですが、それぞれ実現の確度が違います。順に見ていきます。

少数株主に何ができるか

まず前提を正確に押さえます。過半数を失った時点で、会社の経営には関与できません。

持株比率で得られる権利はおおむね次のとおりです。3%以上で会計帳簿の閲覧請求、1%以上で株主提案(取締役会設置会社では6か月の保有要件もあります)、それ以下では株主総会での議決権と、定められた場合の配当を受け取る権利が中心になります。

つまり、「見ていられる」ことと「口を出せる」ことは違います。10%残しても、方針を変えることはできません。愛着のために残すなら、この点を先に理解してください。

配当は約束されない

②の値上がり期待と関連しますが、配当を出すかどうかは、買い手が支配する株主総会で決まります。

買い手が「当面は内部留保を厚くする」と決めれば、無配が続きます。少数株主にこれを覆す手段はありません。

買い手が親会社に管理料や経営指導料を支払う形にすれば、利益そのものが減り、配当の原資がなくなるということも起こり得ます。違法とは限りません。

残した株から継続的な収入を期待するなら、配当方針を株主間契約で明記する必要があります。口頭の約束では担保になりません。

売りたくなったとき、売れない

ここが最大の論点です。非上場株式の少数持分には、市場がありません。

買い手が買い取ってくれなければ、現金化できません。第三者に売ろうにも、少数株主の持分を買う人はまずいません。加えて、多くの会社は定款で譲渡制限を設けています。

相続が起きれば、その株は相続財産として評価され、換金できないのに相続税がかかるという事態になります。実務でよく見る困りごとです。

したがって、残すなら出口を契約で決めておくことが必須です。

将来の買い取り条項をどう書くか

株主間契約に、次のような定めを置きます。

プット・オプション。一定期間の経過後、売り手が買い手に対して残株の買い取りを請求できる権利です。売りたいときに売れる状態を作ります。

価格の算定方法。「その時の時価」では揉めます。純資産法か、EBITDA倍率か、算式を書いておきます。

期限。いつからいつまで行使できるか。

買い手の資金。買い取り義務があっても資金がなければ実行されません。ここが一番の弱点です。親会社保証を取るなど、実効性の担保を考えてください。

買い手はどう見るか

買い手の側から見ると、少数株主が残ることは基本的に歓迎されません。

意思決定に一手間かかる、組織再編(合併など)の際に手続きが増える、将来の出口(買い手自身が売却する場面)で全株を揃えられない、といった理由です。

その結果、一部譲渡は、全株譲渡より価格が下がることがあります。買い手にとっての使い勝手が落ちるためです。

「何割か残したい」という希望は、交渉の条件として値段に跳ね返ることを理解しておいてください。

税務上の注意

③の税負担の分散について。株式を分けて譲渡すれば、譲渡益の実現時期は分かれます。ただし税率は譲渡所得20.315%で変わりません(2026年9月時点)。

注意すべきは、2025年分から適用されているいわゆるミニマムタックスです。特別控除3.3億円・税率22.5%で計算し、通常の所得税額を上回る場合に差額を申告します。2027年分からは1.65億円・30%へ強化されます。

金額が大きい場合、いつ・いくら実現させるかで負担が変わり得ます。必ず税理士にご確認ください。ミニマムタックスも参考にしてください。

残すなら、目的をはっきりさせる

整理します。一部を残すことには、実務上の制約がついて回ります。経営には関与できない、配当は保証されない、売りたくても売れない。

それでも残す意味があるのは、買い手と組んで事業を伸ばすという明確な目的がある場合です。役員として残り、数年後により高い価格で残株を売る、という設計であれば筋が通ります。

逆に、「なんとなく寂しいから」という理由で残すのはお勧めしません。換金できない財産が手元に残り、相続の際にご家族が困ることになります。目的を先に決めてください。

※ 本稿は一般的な考え方をご紹介するものであり、個別の法務・税務アドバイスではありません。実際の取り扱いは会社の状況や契約の定めによって異なります。専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.形としては可能です。ただし過半数を失った時点で経営には関与できず、配当は買い手が支配する株主総会で決まり、売りたくなっても非上場株式の少数持分には市場がありません。出口を契約で決めておくことが必須です。
A.できません。3%以上で会計帳簿の閲覧請求、1%以上で株主提案(保有期間の要件が付く場合があります)といった権利はありますが、方針を変えることはできません。「見ていられる」ことと「口を出せる」ことは違います。
A.買い手が買い取らなければ現金化できません。株主間契約にプット・オプション(一定期間後に買い取りを請求できる権利)、価格の算定方法、行使期限を定めてください。買い手に資金がなければ実行されないため、実効性の担保も必要です。
A.下がることがあります。買い手は少数株主が残ることを基本的に歓迎しません。意思決定に手間がかかり、組織再編の手続きが増え、将来の出口で全株を揃えられないためです。
A.譲渡益の実現時期は分かれますが、譲渡所得の税率20.315%は変わりません(2026年9月時点)。ただし2025年分から適用のミニマムタックス(3.3億円控除・22.5%、2027年分から1.65億円・30%)の影響があり得るため、税理士にご確認ください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら