買収した会社に、借入が残っている。自社のメインバンクにまとめるか、そのまま続けるか。金利だけで決めると、後から困ることがあります。判断の材料を整理します。
まず、借入の全体像を把握する
判断の前に、一覧を作ってください。
金融機関名 / 借入残高 / 金利 / 返済期日 / 毎月の返済額。
担保。何に、どの順位で設定されているか。
保証。誰が保証しているか。前経営者の個人保証、保証協会の保証。
資金使途。設備資金か運転資金か。
特約。財務制限条項、期限の利益喪失事由、支配権の異動に関する条項。
最後の項目を見落とさないでください。買収そのものが条項に触れる可能性があります。
借換えの利点
自社のメインバンクにまとめる場合の利点です。
前経営者の個人保証が確実に外れる。完済すれば、保証は消えます。交渉が要りません。
条件を自社で設計できる。金利、期間、据置。
管理が楽になる。取引金融機関が減れば、報告も返済も一本化されます。
グループとしての交渉力。まとまった取引になれば、条件の交渉余地が出ます。
資金移動がしやすい。グループ内での資金の融通が設計しやすくなります。
借換えで失うもの
一方、失うものもあります。ここが見落とされがちです。
地元金融機関との関係。長年の取引で培われた信頼です。地域に根ざした事業では、金融機関の紹介で仕事が来ることもあります。
緊急時の対応。資金が必要になったとき、関係のある金融機関のほうが早く動きます。
地域の情報。取引先の動向、次のM&A案件。
従業員と取引先の印象。「取引銀行が変わった」ことは、地域では知られます。会社が変わったという印象を強めます。
有利な条件の借入は残す
実務的な判断基準です。条件が良い借入は、無理に返さないでください。
とくに、制度融資や公的な融資で低金利のもの、長期の設備資金で返済が進んでいるもの。
これらを一括返済して借換えると、条件が悪化することがあります。
また、繰上返済に手数料がかかる場合があります。固定金利の借入では、違約金が発生することも。
借換えの前に、繰上返済の条件を必ず確認してください。
個人保証だけを外す
借換えずに、保証だけを切り替えるという選択があります。
金融機関に対して、前経営者の保証を外し、買い手側の保証または法人保証に切り替えるよう申し入れます。
経営者保証に関するガイドラインには事業承継時の特則があり、前経営者と後継者から二重に保証を取らない方向の考え方が示されています。
これなら、借入の条件はそのままで、保証の問題だけ解決できます。
売り手にとっても、これが最も重要な論点です。クロージングの条件として設計してください。
金融機関への伝え方
買収後、対象会社の取引金融機関には早めに挨拶してください。
持参するのは、買い手の会社概要、決算の概況、買収の目的、今後の方針。
そして、取引を継続する意思を明確に伝えること。
逆に、借換えを考えている場合も、黙って他行から調達して一括返済するのは避けてください。関係が完全に切れます。
「一部は継続し、一部は借換えたい」といった相談の形にすると、角が立ちません。全部を引き上げる必要はありません。
グループ全体での資金管理
複数の会社を持つ場合の設計です。
親会社が一括して借り、子会社に貸し付けるという形があります。交渉力が上がり、管理も一本化されます。
ただし、グループ間の貸付には税務上の論点があります。利率の設定、寄附金とされないための条件。必ず税理士にご確認ください。
また、子会社の資金を親会社に集める(キャッシュマネジメントシステム)という設計もありますが、子会社に少数株主がいる場合は慎重に。少数株主の利益を害する形になり得ます。
財務制限条項を確認する
見落とすと、後から問題になります。
借入契約に、純資産の維持、経常利益の確保、配当の制限といった条項が入っていることがあります。
買収後に、配当で資金を吸い上げる、のれんの償却で利益が減るといったことが起きると、条項に抵触する可能性があります。
抵触すれば、期限の利益を失い、一括返済を求められ得ます。
デューデリジェンスの段階で、借入契約の条項をすべて確認してください。これは法務デューデリジェンスの範囲です。
判断の順序
まとめます。次の順で検討してください。
① 保証を外す。これが最優先。売り手との約束でもあります。
② 条件の悪い借入を借換える。金利が高い、期間が短いもの。
③ 条件の良い借入は残す。制度融資、長期の低利。
④ 関係を残す。全部を引き上げず、一部は継続する。
⑤ 半年〜1年かけて整理する。買収直後に一気に動かさない。
金融機関との関係は、事業の安全弁です。金利の差より、いざというときに相談できるかのほうが大きい場面があります。金融機関への説明も併せてご覧ください。