買収する会社に借入がある場合、前経営者の個人保証をどうするかは必ず論点になります。売り手は外したい。銀行は代わりを求める。買い手は引き受けたくない。この三者をどう着地させるかを整理します。
保証は自動では外れない
まず前提です。株式を100%取得しても、前経営者の個人保証は自動的には消えません。
保証は、前経営者と金融機関の間の契約です。株主が代わっても、その契約は残ります。
したがって、金融機関との個別の交渉によって解除する必要があります。この交渉は、クロージングの条件として設計するのが通常です。「後で何とかする」で進めると、売り手が最後に署名を拒むという事態が起こります。
売り手にとっては死活問題
買い手側として理解しておくべき点です。
売り手のオーナーは、会社を離れるのに数億円の保証だけが残るという状態を絶対に受け入れられません。
実務では、保証の解除が最終契約の前提条件(クロージング条件)として書かれます。解除されなければ取引は実行されません。
買い手としては、この条件が満たせるかどうかを、早い段階で金融機関と確認しておく必要があります。デューデリジェンスの後で「解除できません」となれば、そこまでの費用が無駄になります。
買い手は何を求められるか
金融機関は、保証を外す代わりに次のいずれかを求めることが一般的です。
① 買い手企業の法人保証。親会社が子会社の借入を保証する形です。もっとも多いパターンです。
② 買い手の代表者個人の保証。オーナー企業の場合、求められることがあります。
③ 担保の追加。不動産などの担保提供です。
④ 何も求めない。買い手の信用力が十分であれば、無保証で継続することもあります。
どれになるかは、買い手の財務内容と金融機関の方針次第です。
ガイドラインの考え方
経営者保証に関するガイドラインには、事業承継時の取り扱いに関する特則があります。
示されている主な方向は、前経営者と後継者から二重に保証を取ることを原則としないこと、後継者に当然には保証を求めないこと、保証の必要性を検討したうえで判断することです。
金融庁の公表では、経営者保証に依存しない新規融資の割合は2024年度上期で52%に達しています。
「保証は当然のもの」という前提で交渉に入らないでください。状況は変わってきています。
借換えという選択
保証の交渉が難航する場合、借換えが有力な選択肢になります。
買い手が自社のメインバンクから調達し、クロージング時に対象会社の既存借入を一括返済する形です。
利点は、前経営者の保証が確実に消えることと、条件を自社で設計できることです。金利や返済期間を有利にできる場合もあります。
課題は、調達の手当てが要ることと、対象会社の既存の取引金融機関との関係が切れることです。地域企業の場合、地元金融機関との関係が事業に影響することもあります。単純な損得では決められません。
買収資金の調達との関係
買収資金そのものにも保証の論点があります。
買収資金を借り入れる場合、その借入に対して買い手の代表者の保証を求められることがあります。とくに、買収のための特別目的会社(SPC)を作って調達する場合です。
SPCには実績も資産もないため、親会社の保証や、対象会社の株式・資産への担保設定が求められるのが通常です。
「対象会社の借入の保証」と「買収資金の借入の保証」は別の話です。両方を整理して、全体としてどれだけの保証を負うのかを把握してください。
いつ交渉を始めるか
タイミングの設計が重要です。
早すぎる。案件が固まっていない段階で金融機関に相談すると、情報が広がるリスクがあります。
遅すぎる。最終契約の直前では、金融機関に検討の時間がありません。稟議には時間がかかります。
実務では、基本合意の前後で、対象会社の借入状況を把握したうえで打診を始めます。買い手・売り手・仲介が同席して金融機関を訪問することもあります。
売り手のオーナーが同席すると、話が早く進むことが多いのが実感です。長年の関係があるためです。
契約書にどう書くか
最終契約では、次のような形で扱います。
クロージング条件として。「売主の個人保証が解除されること」を実行の前提条件に置きます。
努力義務として。解除が確約できない場合、買主が解除に向けて協力する義務を定めます。
補償の取り決めとして。万一クロージング後も保証が残った場合に、買主が売主を補償する(求償された額を負担する)という定めを置くことがあります。
どの形にするかで、リスクの所在が変わります。弁護士と条項を詰めてください。口頭の了解で済ませないことが肝心です。