買った会社を、ずっと持ち続けるとは限らない。売る可能性を前提に経営すると、日々の判断が変わります。その考え方を整理します。

なぜ出口を考えるのか

「売るつもりはない」という前提でも、出口を意識する意味があります。

理由① 選択肢が増える。本業に集中したい、資金が必要になった、より良い引き受け手が現れた。売れる状態にしてあれば、そのとき動けます。

理由② 経営の質が上がる。「第三者が見て価値があるか」という視点は、日々の判断を鍛えます。

理由③ 自社に何かあったときの備え。親会社の事情で手放す必要が生じることもあります。

売れる状態にしておくことと、売ることは別です。

売れる状態とは何か

具体的に整理します。買い手が評価する条件です。

数字が出る。月次決算が翌月に出る。部門別・商品別の損益が分かる。

属人化していない。誰か一人が抜けても回る。

書面が揃っている。契約書、議事録、規程、許認可。

取引先が分散している。1社への依存が高くない。

法務・労務の問題がない。未払残業代、係争、簿外債務。

これらは、売るためだけの条件ではありません。そのまま、健全な経営の条件です。

属人化を作らない

最も重要な項目です。買収した会社で、新たな属人化を作らないでください。

よくあるのは、送り込んだ担当者に業務が集中する形です。数字も、取引先との関係も、その人が握る。

これでは、その人が異動すれば、また同じ問題が起きます。

対策は、手順を文書にすることと、複数人で回すこと。

とくに、主要な取引先には複数人で訪問する。一人が窓口を独占しない。

「あの人しか分からない」を作らない。これは、売るためであると同時に、日々の安全策です。

記録を最初から整える

買収の直後こそ、整える好機です。

デューデリジェンスで指摘された点は、次に売るときも指摘されます。

受け取った指摘事項の一覧を、そのまま整備の計画に変えてください。

契約書の不備、議事録の欠落、規程の未整備、労務の論点。

買った直後なら、前経営者に聞けます。時間が経つと、経緯を知る人がいなくなります。

「いつか整える」は、たいてい整いません。1年目のうちに着手してください。

グループとの一体化の程度

出口を意識すると、統合の程度についての判断が変わります。

深く統合するほど、切り離しにくくなります。

システムを統合した、顧客を共有した、間接部門を本社に集約した。これらは、売却時に分離の作業を生みます。

一方、統合しなければシナジーは出ません。

実務的な線引きは、「切り離せる形で統合する」ことです。共通のシステムを使うが、データは分離できる。共同購買はするが、契約は各社。

この設計は、最初にしかできません。後から分離するのは、はるかに高くつきます。

のれんと財務への影響

売却を考えるなら、財務の状況を把握しておいてください。

のれんの未償却残高。売却価格がこれを下回れば、損失が出ます。

子会社株式の帳簿価額。個別財務諸表上の扱い。

グループ間の債権債務。貸付金、未収入金。売却時に精算が必要です。

保証。親会社が子会社の借入を保証している場合、売却時に解除の交渉が要ります。

これらは、売ると決めてから調べると時間がかかります。年に一度、確認しておく価値があります。会計士・税理士にご相談ください。

いつ売るかの判断

売り時の考え方です。

業績が良いとき。当然ながら、評価は高くなります。悪くなってからでは遅い。

キーマンが在籍しているうち。その人が辞めれば、価値が下がります。

業界が注目されているとき。買い手が多い時期。

自社の戦略が変わったとき。本業への集中、別分野への投資。

逆に、赤字になってから、キーマンが辞めてから、業界が縮んでからでは、選択肢が減ります。

「まだ売らない」という判断も、定期的に見直してください。

従業員への配慮

実務上、最も難しい点です。「いずれ売るかもしれない」と、従業員に言うわけにはいきません。

言えば、不安が生じ、離職につながります。

したがって、出口を意識することと、それを社内に伝えることは別です。

ただし、やることは変わりません。数字を整え、属人化をなくし、記録を残す。これらは「良い経営」として説明できます。

そして、実際に売ると決めたときには、誠実に伝えてください。雇用と処遇を条件に入れ、相手を選ぶ。

売ること自体は、悪いことではありません。より良い引き受け手のもとで伸びることもあります。

買うときから考える

最後に、最も重要な点です。出口は、買うときに考えておくものです。

検討すべきは、「この会社を、将来誰が買うか」です。

同業、周辺業種、投資会社、従業員。引き受け手が想像できない事業は、出口が無いということです。

そして、買収の形も影響します。株式を100%取得したのか、一部か。事業譲渡で買ったのか。後から売るときの手間が変わります。

「買って終わり」ではなく、「持っている間に何をして、いつ誰に渡すか」まで含めて設計する。

これが、買収を繰り返す会社と、一度で終わる会社の違いです。

※ 本稿は一般的な考え方をご紹介するものであり、個別の法務・税務アドバイスではありません。実際の取り扱いは会社の状況や契約の定めによって異なります。専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.あります。選択肢が増える(本業への集中、資金需要、より良い引き受け手)、経営の質が上がる(第三者が見て価値があるかという視点)、自社に何かあったときの備えになる、という理由です。売れる状態にしておくことと売ることは別です。
A.月次決算が翌月に出る、属人化していない、書面(契約書・議事録・規程・許認可)が揃っている、取引先が分散している、法務・労務の問題がない、の5つです。これらは売るためだけの条件ではなく、そのまま健全な経営の条件です。
A.深く統合するほど切り離しにくくなります。実務的な線引きは「切り離せる形で統合する」ことです。共通のシステムを使うがデータは分離できる、共同購買はするが契約は各社。この設計は最初にしかできません。
A.業績が良いとき、キーマンが在籍しているうち、業界が注目されているとき、自社の戦略が変わったときです。赤字になってから、キーマンが辞めてから、業界が縮んでからでは選択肢が減ります。
A.「いずれ売るかもしれない」と言えば不安が生じ、離職につながります。出口を意識することと社内に伝えることは別です。ただしやること(数字を整える、属人化をなくす、記録を残す)は変わらず、これらは「良い経営」として説明できます。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら