取引金融機関からM&Aの話を持ちかけられることがあります。「後継者のことを考えられていますか」「ご紹介できる先があります」——長年の付き合いがある相手からの話だけに、断りにくさも感じるところです。本稿では、金融機関が関わる場合に費用がどうなるのかを、関与の形態ごとに整理します。提案の受け止め方は「銀行からM&Aを提案されたら」もご覧ください。
関与の形態を見分ける
まず確認すべきは、その金融機関がどの立場で関わるのかです。形態によって費用の構造がまったく異なります。
| 形態 | 内容 | 費用の発生 |
|---|---|---|
| 紹介 | 仲介会社やFAを紹介するだけ | 紹介先の報酬体系が適用される |
| 仲介 | 金融機関(またはグループ会社)が仲介者として関与 | その機関の報酬体系が適用される |
| FA | 売り手側のアドバイザーとして関与 | その機関の報酬体系が適用される |
| 買い手の紹介のみ | 買い手候補を引き合わせる | その後の進め方で変わる |
ここで大切なのは、「銀行だから安い」ということはないという点です。金融機関やそのグループ会社が仲介・FAとして関与する場合、報酬は民間の仲介会社と同様の体系(レーマン方式、最低手数料など)で算定されるのが一般的です。
したがって、確認すべきことは民間の仲介会社を比べるときと同じです。基準額の定義、料率、最低手数料、成約前の費用の有無——この四点を、必ず数字で確認してください。
紹介にとどまる場合の論点
金融機関が仲介会社やFAを紹介するだけの場合、費用は紹介先の報酬体系に従います。この場合の論点は、紹介という行為そのものに関わります。
確認しておきたいのは、紹介先と金融機関の間に紹介料のやり取りがあるかどうかです。あること自体が問題というわけではありませんが、その存在は知っておくべき情報です。中小M&Aガイドライン(第3版・令和6年8月)でも、支援機関に対して情報の明示が求められています。
また、紹介された先が唯一の選択肢ではありません。他社と比較してから選んでよいのは、紹介経由でも同じです。紹介された会社と契約する義務はありませんし、比較することが失礼にあたるわけでもありません。
実務上お勧めしているのは、紹介先を含めて複数社の説明を聞くことです。相談料が無料であれば、比較の費用は時間だけです。見積もりの取り方は「手数料の見積もりをどう取るか」で整理しています。
融資との関係をどう考えるか
金融機関経由の話で最も気になるのが、断ったら融資に影響するのではないかという点でしょう。率直に申し上げると、この不安は多くの経営者が抱かれます。
まず、M&Aの提案を断ったことを理由に融資の条件が変更されるのであれば、それは本来あってはならないことです。融資の判断は、事業の状況と返済能力に基づいて行われるべきものです。
とはいえ、実際の関係性の中で気を遣われるのは自然なことです。実務的な対応としては、「検討します」と受け、時間をかけて他社と比較するという進め方が現実的です。その場で断る必要も、その場で決める必要もありません。
また、M&Aを進めると借入金や経営者保証の扱いが論点になります。株式譲渡では会社の借入はそのまま残り、保証人の変更には金融機関の同意が必要です。経営者保証に依存しない融資は2024年度上期で52%(金融庁)とされていますが、既存の保証の解除は個別の協議になります。この点は「M&Aを銀行に伝えるタイミング」で整理しています。
情報が広がる範囲を確認する
費用とは別に、確認しておくべき論点があります。金融機関経由で進めると、情報が誰まで届くかです。
金融機関には支店があり、担当者があり、本部の部署があります。M&Aの検討という情報が、どの範囲で共有されるのかは確認しておくべきです。担当者が異動すれば、引き継ぎの中で伝わります。
また、金融機関は買い手候補にとっても取引先である可能性があります。同じ金融機関が売り手と買い手の双方と取引している場合、その立場の整理は明確にしておく必要があります。
秘密保持の観点は、費用以上に重要です。従業員や取引先に知られることの影響は、金額に換算できません。情報管理の考え方は「M&Aの情報漏洩はなぜ起きる」で整理しています。
費用を比べるときに確認する項目
金融機関経由の話を検討する際に、費用面で確認すべき項目をまとめます。民間の仲介会社と比べるときと基本は同じです。
- 関与の形態——紹介か、仲介か、FAか
- 報酬の主体——金融機関か、グループ会社か、紹介先の仲介会社か
- 基準額の定義——株式価値のみか、負債を加えるか
- 料率と最低手数料——自社の数字で試算してもらう
- 成約前の費用——着手金、月額報酬、中間金の有無
- 紹介料の有無——紹介先との間にやり取りがあるか
- 専任期間とテール条項——契約の制約
ご参考までに当社の体系を申し上げると、相談料・着手金・月額報酬は0円、成功報酬は移動総資産レーマン方式(基準額=株式価値+負債総額)で最低2,000万円(税別)、中間金は成功報酬額の10%で成約時の成功報酬から全額を差し引きます(基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません)。ただし、基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。
この水準と、提案されている体系を並べてみてください。数字で比べられる形にすることが、判断の第一歩です。
急いで決めなくてよい
最後に、進め方について申し上げます。金融機関からの提案であっても、その場で決める必要はまったくありません。
M&Aは、会社と従業員の将来を決める判断です。長年の取引関係があるからといって、比較検討を省いてよい理由にはなりません。むしろ、良い関係を続けるためにこそ、納得して決めるべきです。
実務的には、次の順序をお勧めします。①提案の内容を書面で受け取る ②関与の形態と報酬体系を確認する ③他社にも相談し、同じ項目で比較する ④顧問税理士に相談する ⑤時間をかけて判断する。
相談先の全体像については「M&Aは誰に相談すべきか」で整理しています。銀行、税理士、仲介会社、公的機関——それぞれ立場と得意分野が異なります。
当社は、ご相談の段階で費用を頂戴しません。金融機関からの提案を受けている段階でのご相談も承っており、比較の材料として当社の手数料の見込みをお伝えします。ご契約やご決断を急がせることはいたしません。
よくあるご質問
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金融機関からの提案を受けている段階でのご相談も承ります。当社の手数料の見込みをお伝えします。
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