M&A仲介会社を選ぶとき、多くの方が「手数料はいくらですか」と尋ねます。ところが、この質問への答えは「譲渡価格によります」にならざるを得ません。成功報酬は取引の規模に応じて計算されるためです。
では、どう聞けば意味のある見積もりが得られるのか。本稿では、見積もりを依頼するときに伝えるべき情報、出してもらうべき資料の形、契約前に確認する項目を、実務に即して整理します。手数料の交渉については「M&A仲介手数料は交渉できるのか」もあわせてご覧ください。
「いくらかかりますか」だけでは見積もりにならない
成功報酬はレーマン方式で計算されるのが一般的で、金額は取引の規模によって決まります。したがって、規模の前提を置かずに金額を尋ねても、料率表を見せられて終わります。料率表を並べて比べても、基準額の取り方が違えば意味がありません。
たとえば、株式価値だけを基準とする方式と、株式価値に負債総額を加えた移動総資産を基準とする方式では、同じ料率表でも報酬額が大きく変わります(「レーマン方式の3つの基準」)。さらに最低報酬が設定されていれば、小〜中規模の案件ではそちらが実質的な支払額になります。
つまり、意味のある見積もりを得るには、①自社の規模の前提を伝え、②その前提での支払総額を出してもらうという手順が必要です。
見積もりを依頼するときに伝える情報
正確な試算のために、次の情報を伝えられると精度が上がります。守秘義務契約を結んだうえで開示するのが基本です。
- 直近期の売上高・営業利益:規模感の把握に最も効きます。
- 純資産額:直近の貸借対照表の数値。
- 負債総額:移動総資産を基準とする方式では、報酬額に直接影響します。借入金だけでなく負債全体です。
- 役員借入金・貸付金の有無:整理の要否が価格にも影響します。
- 不動産の有無と概要:含み損益が価格に反映されることがあります。
- 株主構成:株主が複数の場合、集約の要否が工程に影響します。
- 希望する条件:譲渡価格の希望、従業員の雇用、引き継ぎ期間、譲渡したい時期。
すべてが揃っていなくても構いません。ただし、負債総額を伝えずに見積もりを取ると、後で金額が大きく変わることがあります。基準額の取り方によっては、負債が報酬額を左右するためです。
出してもらうべきは「総額シミュレーション」
依頼すべきは料率表ではなく、自社の前提を置いた支払総額の試算です。次の形で出してもらうことをおすすめします。
- ①前提となる譲渡価格:複数のケース(高め・中間・低め)で出してもらうと、価格が動いたときの影響が分かります。
- ②基準額の計算過程:何をどう足して基準額としたか。
- ③料率の適用過程:段階ごとの計算。
- ④最低報酬との比較:計算額と最低報酬のどちらが適用されるか。
- ⑤支払いの時期ごとの内訳:着手金・月額報酬・中間金・成功報酬が、いつ、いくら発生するか。
- ⑥手数料以外の想定費用:専門家報酬や実費の目安(「仲介手数料以外にかかる費用」)。
- ⑦税引後の手取りの目安:可能であれば。税額は税理士の確認が必要ですが、概算の考え方は示してもらえます。
当社では、ご契約前に貴社の場合の手数料総額の目安を必ず書面でご提示しています。口頭の説明だけで契約を求める会社があれば、その点自体が判断材料になります。
契約前に書面で確認する項目
金額の試算とあわせて、仲介契約の条件を確認します。次の項目は、必ず契約書の条文で確かめてください。
- 報酬基準:成功報酬の料率を掛ける対象は何か(株式価値か、負債を含む移動総資産か)。
- 最低報酬:金額と、税別・税込のいずれか。
- 着手金・月額報酬:有無、金額、成功報酬から差し引かれるか(「着手金がある会社とない会社」)。
- 中間金:発生の時期、金額、成功報酬から差し引かれるか、破談時に返金されるか(「M&Aの中間金とは」)。
- 契約期間と更新:期間、自動更新の有無、中途解約の可否と条件。
- 専任条項:他社への同時依頼が制限されるか、その範囲。
- テール条項:契約終了後、どの期間、どの相手との成約に手数料が生じるか(「専任契約とテール条項」)。
- 秘密保持:情報の取り扱いと、開示先の範囲。
- 利益相反に関する説明:仲介として双方から報酬を受けることの明示があるか。
中小M&Aガイドライン(第3版・令和6年8月)は、これらの条件について依頼者に明示・説明することを支援機関に求めています。書面での説明を求めること自体は、まったく不自然な要求ではありません。
複数社を比べるときに揃えるべき前提
複数の会社から見積もりを取る場合、前提を揃えなければ比較になりません。次の点を統一してください。
- 同じ想定譲渡価格で出してもらう:各社が異なる価格を前提にすると、報酬額の差が価格の差なのか料率の差なのか分かりません。
- 負債総額を同じ数字で伝える:基準額に負債を含む方式では、ここが効きます。
- 成約までの想定期間を置く:月額報酬がある体系では、期間の想定で総額が変わります。
- 破談した場合の負担も並べる:着手金・月額報酬・中間金のうち、戻らないものがいくらか。
そのうえで、金額だけで決めないことも大切です。担当者の経験、案件の進め方、報告の頻度、買い手候補の探し方——これらは金額表には表れませんが、結果を大きく左右します。安さで選んで支援が薄ければ、譲渡価格そのものが下がりかねません。比べるべきは「手数料」ではなく「手数料を払った後に残る金額と、納得できる相手に引き継げたかどうか」です。
まとめ|数字ではなく、条件を比べる
手数料の見積もりは、「いくらですか」と尋ねて得られるものではありません。自社の規模と負債の前提を伝え、その前提での支払総額を、支払時期ごとの内訳とともに書面で出してもらう。これが正しい取り方です。
そのうえで、報酬基準・最低報酬・中間金の返金条件・契約期間・テール条項といった契約条件を確認します。複数社を比べるなら前提を揃えます。当社は相談料・着手金・月額報酬0円で、ご契約前に手数料総額の目安を書面でご提示します。比較検討の段階でも構いませんので、どうぞお気軽にご相談ください。