「そろそろ会社の先行きを考えなければ」——そう思われたとき、多くの経営者様が最初に直面されるのが、「この話を、いったい誰にすればよいのか」という問題です。従業員には言えない。取引先にも知られたくない。家族にもまだ切り出せない。かといって、一人で考えていても答えは出ない。

実際、後継者不在は多くの中小企業に共通する課題です。帝国データバンクの2025年の調査によれば、後継者不在率は50.1%とされています。同じ悩みを抱える経営者は決して少なくありません。それでも相談が進まないのは、相談先の選択肢とそれぞれの性格が、あまり知られていないからだと感じています。

本稿では、M&Aや事業承継の相談先として代表的な4つ——顧問税理士、金融機関、事業承継・引継ぎ支援センター、M&A仲介会社・FA——について、それぞれの特徴と向くケースを整理します。あわせて、相談の順序の考え方と、何より大切な秘密保持の観点をご説明します。

相談先を選ぶことが、M&Aの最初の意思決定

相談先によって、返ってくる答えは変わります。これは、それぞれが立っている位置と、得意とする領域が異なるからです。

税務の専門家は税務の観点から、金融機関は融資と取引の観点から、公的機関は制度と中立性の観点から、そしてM&A支援の専門家は「相手を見つけて成約させる」という実務の観点から、同じ相談に応じます。どれが正しいということではなく、いま自分が何を知りたいのかによって、適した相手が変わるということです。

したがって、最初にご自身に問いかけていただきたいのは、次のような点です。

  • まだ「M&Aという選択肢がありうるのか」を知りたい段階なのか
  • 「自社はいくらくらいで売れるのか」という金額の目安を知りたいのか
  • 「税金や手取りはどうなるのか」を確かめたいのか
  • すでに譲渡の意思が固まっており、「相手を探してほしい」段階なのか

この見極めができれば、相談先の選択はぐっと楽になります。

4つの相談先の特徴を比較する

代表的な相談先を、いくつかの観点から比較すると次のようになります。

相談先強み留意点費用の考え方
顧問税理士・
公認会計士
自社の財務と実態を最もよく知る立場。決算内容や株主構成の経緯を踏まえた助言が受けられる。税務面・株価評価の相談ができ、心理的にも相談しやすい。 M&Aの相手先探索や交渉の実務までは対応範囲外の場合がある。M&Aの取扱い経験は事務所により差がある。 顧問契約の範囲内で相談できることが多い。実務支援は別途。
金融機関
(銀行・信金)
地域の企業情報と資金の流れを把握しており、譲受候補先の心当たりがある場合がある。買い手側の資金調達に強い。融資取引を通じた長期の関係がある。 借入や取引への影響を気にして相談しにくいと感じる経営者もいる。M&A専門部署の有無や体制は機関により異なる。 相談は無料の場合が多い。実務支援は所定の手数料。
事業承継・
引継ぎ支援センター
(公的機関)
国が全国に設置する公的な相談窓口。中立的な立場から、承継の選択肢全般について無料で相談できる。譲渡・譲受のマッチング支援や、民間支援機関の紹介も行う。 公的機関としての性格上、価格交渉を積極的に主導する立場ではない。案件の性質によっては民間機関の活用を勧められる。 相談は無料。
M&A仲介会社・
FA
相手先の探索から条件交渉、契約・クロージングまで一貫して対応する実務の専門家。譲受候補先のネットワークを持ち、企業価値の目線や進め方を具体的に示せる。 会社ごとに得意分野・手数料体系・契約条件が異なる。契約前に条件を確認し、複数社を比較することが望ましい。 初回相談は無料の会社が多い。成功報酬中心の体系が一般的。

なお、M&A仲介とFA(ファイナンシャル・アドバイザー)は、売り手・買い手の双方を支援するか一方のみを支援するかという点で立場が異なります。この違いについては「M&A仲介とFA(ファイナンシャル・アドバイザー)の違い」で詳しくご説明しています。

それぞれの相談先が向くケース

比較表を踏まえ、どのような状況でどの相談先が向くのかを整理します。

顧問税理士が向くケース

「そもそも自分の会社に価値があるのか」「株を譲渡したら税金はどうなるのか」といった、財務・税務の入り口を確かめたい段階です。自社の数字を熟知しているため、話が早く、守秘の面でも安心して切り出せます。近年はM&A支援に積極的な会計事務所も増えており、支援機関と連携して伴走してくれる場合もあります。ただし、税務の取り扱いは個別事情によって異なりますので、具体的な判断は必ず税理士等の専門家にご確認ください。

金融機関が向くケース

借入の返済見通しや経営者保証の扱いが論点になっている場合、また地域内での譲受候補先を視野に入れる場合です。個人保証の解除はM&Aの重要な論点であり、金融機関との調整は避けて通れません。詳しくは「経営者保証は外せるか|M&Aによる個人保証解除の実務」をご覧ください。

事業承継・引継ぎ支援センターが向くケース

まだ方向性が定まっておらず、親族承継・社内承継・M&A・廃業といった選択肢を中立的に比較したい段階です。公的機関であるため費用がかからず、特定の結論に誘導される心配が少ないのが利点です。「まだ売ると決めたわけではないが、話だけ聞いてみたい」という方に適しています。

M&A仲介会社・FAが向くケース

「どのような相手が、いくらくらいで、どのような条件で引き継いでくれる可能性があるのか」という、具体的な相場観と進め方を知りたい段階です。実際の譲受ニーズに接している立場から、自社に関心を持ちそうな企業の類型や、想定される価格帯、必要な期間を具体的にお伝えできます。もっとも、支援機関ごとに得意分野や契約条件は異なりますので、「M&A仲介会社の選び方|失敗しない7つのチェックポイント」も参考に、複数社を比較されることをおすすめします。

まず誰に話すか|相談の順序の考え方

実務でお勧めしている順序の考え方は、次のようなものです。

① 情報が漏れにくい相手から始める

最初の相談は、守秘義務を負い、かつ自社の事情をよく知る相手——多くの場合は顧問税理士——から始めるのが自然です。決算書を見ながら「もし譲渡するとしたら、どのくらいの規模の話になるのか」を確かめるだけでも、検討の解像度は上がります。

② 中立的な立場の意見を聞く

次に、事業承継・引継ぎ支援センターのような公的な窓口で、承継の選択肢全体を俯瞰します。M&A以外の道——親族への承継、従業員への承継——が現実的でないかを確認しておくことは、後の判断に確信を持つうえで意味があります。この比較は「後継者不在の解決策としてのM&A|親族承継・社内承継との比較」でも整理しています。

③ 実務の専門家に具体化を依頼する

方向性が見えてきたら、M&A支援の専門家に相談し、譲受候補先の像、価格の目線、スケジュールを具体化します。この段階で複数社の話を聞き、手数料体系や契約条件を比較したうえで、依頼先を決めます。

もっとも、これは唯一の正解ではありません。すでに譲渡の意思が固まっている方や、時間的な制約がある方が、最初からM&A支援の専門家に相談されるのも、まったく自然な進め方です。大切なのは順序そのものより、それぞれの相談先が何を提供でき、何を提供できないのかを理解したうえで話をすることです。

※ 本稿は相談先の一般的な特徴をご紹介するものであり、特定の機関の優劣を示すものではありません。税務・法務に関する具体的なご判断については、必ず税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。

最も大切な前提|秘密保持をどう守るか

相談先の選択と同じくらい——場合によってはそれ以上に——重要なのが、情報の管理です。会社の売却を検討しているという事実は、それだけで極めて機微な情報です。社内に伝われば従業員の動揺を招き、取引先に伝われば取引条件に影響し、同業に伝われば人材の引き抜きにつながることさえあります。

相談の段階から意識していただきたい点を挙げます。

  • 相談する人数を絞る:検討初期に事情を知る人は、必要最小限にとどめる
  • 秘密保持契約(NDA)を締結する:支援機関に具体的な資料を渡す前に、書面で取り決める
  • 社内で話す場所・方法に注意する:社内での打ち合わせや、社用メール・共有フォルダの利用は避ける
  • ノンネームでの打診から始める:譲受候補先への初期打診は、社名が特定されない形の概要情報(ノンネームシート)で行う
  • 家族・親族への共有も計画的に:株主が複数いる場合、いつ誰に伝えるかは事前に整理しておく

秘密保持の実務については「M&Aの秘密保持|情報漏洩を防ぐノンネーム・NDAの実務」で詳しくご説明しています。また、従業員への開示のタイミングは、成約後の定着を大きく左右する論点です。「会社売却を従業員にいつ・どう伝えるか|開示のタイミングと注意点」もあわせてご覧ください。

相談先を選ぶ際にも、「この相手は、情報の扱いについてどのような体制を持っているか」を確認してみてください。秘密保持の取り決めを書面で交わすか、社内での情報共有はどの範囲に限られるか——こうした問いへの答え方に、その相手の姿勢が表れます。

まとめ|「情報収集の相談」から始めてよい

M&Aの相談先には、顧問税理士、金融機関、事業承継・引継ぎ支援センター、M&A仲介会社・FAといった選択肢があり、それぞれ強みと守備範囲が異なります。財務・税務の入り口なら税理士、選択肢全体の俯瞰なら公的機関、資金と地域内のご縁なら金融機関、そして相手先探索から成約までの実務ならM&A支援の専門家、という使い分けが基本の考え方です。

そして、多くの経営者様にお伝えしたいのは、「売ると決めてから相談する」必要はないということです。近年のM&A件数はレコフデータの調べによれば2025年に5,000件を超えており、事業承継の手段として第三者への引継ぎを選ぶ会社は着実に増えています。まず情報を集め、選択肢の輪郭を知り、そのうえで判断されればよいのです。実際、初回のご相談から実際の検討開始まで、数年を要される方も珍しくありません。

当社プラチナパートナーズでは、「まだ何も決めていない」という段階のご相談を数多くお受けしています。秘密厳守のうえ、譲渡の可能性、想定される価格の目線、進め方とおおよその期間を、率直にお伝えします。ご相談に費用はかかりませんので、情報収集の一環として、どうぞお気軽にお声がけください。M&Aの全体の進み方はM&Aの流れのページでご確認いただけます。

Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら

よくあるご質問

A.いま自分が何を知りたいのかで決まります。税金や手取りの入り口を確かめたいなら顧問税理士、借入の返済見通しや経営者保証が論点なら金融機関、親族承継・社内承継・M&A・廃業を中立に比べたいなら事業承継・引継ぎ支援センター、相手探しから成約までの実務ならM&A仲介会社・FAです。どれが正しいということではなく、知りたいことによって適した相手が変わるということです。
A.検討初期に事情を知る人を必要最小限に絞ること、具体的な資料を渡す前に秘密保持契約を書面で締結すること、社内での打ち合わせや社用メール・共有フォルダの利用を避けること、買い手候補への初期打診は社名が特定されない概要情報で行うこと、株主が複数いる場合は家族・親族へ伝える時期を事前に整理しておくことです。相談先を選ぶ際も、これらへの答え方に相手の姿勢が表れます。
A.迷惑ではありません。相談先を選ぶこと自体がM&Aの最初の意思決定であり、「そもそもM&Aという選択肢がありうるのか」を知りたい段階からで構いません。当社には「まだ何も決めていない」という段階のご相談を数多くいただきます。秘密厳守のうえ、譲渡の可能性、想定される価格の目線、進め方とおおよその期間を率直にお伝えします。相談料・着手金・月額報酬はいただいておりません。

Free Consultation

「まだ決めていない」段階のご相談を、歓迎します。

秘密厳守・成功報酬型。情報収集のためのご相談にも費用はかかりません。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。
メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。

無料相談を申し込む