最終契約書を誰が作るのか。仲介会社のひな型で進める案件もあれば、双方が弁護士を立てる案件もあります。費用がどう決まるのか、どこまで頼むべきかを整理します。
誰が最初の案を作るのか
実務では、買い手側が第一案(ドラフト)を出すことが多くなっています。買い手は表明保証や補償の条項で自分を守る必要があり、その設計を先に固めたいためです。
買い手に弁護士がついていれば、その弁護士が作ります。ついていなければ、仲介会社のひな型が使われることもあります。
売り手としては、相手が作った契約書に署名することになるという点を意識してください。ドラフトを受け取ってから、自分の側で確認する必要があります。
仲介会社のひな型で足りるか
率直に申し上げます。金額が小さく、論点が少ない案件では、ひな型でも成立します。
ただし、次のいずれかに当てはまるなら、弁護士のレビューを入れてください。
譲渡金額が大きい。補償の上限が実質的に意味を持つ規模かどうか。
売り手が引き続き関与する。競業避止や役員としての残留の条件が入ります。
係争や許認可の問題がある。表明保証の書き方が結果を左右します。
対価が分割・業績連動。支払いが将来に及ぶ設計は、条項の書き方で回収可能性が変わります。
弁護士費用の決まり方
大きく二つの形があります。
タイムチャージ。作業時間×時間単価です。論点が多い案件では合理的ですが、総額が事前に読めません。
固定報酬。「最終契約書のレビューで◯◯円」という形です。総額が読める一方、想定を超える作業が出ると追加になります。
どちらの形でも、見積書と委任契約書を先にもらってください。作業の範囲(レビューだけか、交渉への同席まで含むか)を書面で確定させます。
依頼の範囲を絞る
費用を抑える現実的な方法は、頼む範囲を決めることです。
レビューだけ頼む。ドラフトを読んで、問題点を指摘してもらう。修正案の作成やメールでのやり取りは自分で行う。
論点を絞って頼む。「表明保証と補償の条項だけ見てほしい」という依頼の仕方もできます。
交渉には同席してもらわない。同席は時間がかかるため、費用に効きます。
ただし、絞りすぎると意味がなくなります。契約書は全体で一つの仕組みなので、一部だけ見て判断できない論点もあります。弁護士と相談して決めてください。
どの弁護士に頼むか
顧問弁護士がいる場合でも、M&Aの経験があるかを確認してください。労務や債権回収が中心の事務所では、表明保証や補償の設計に慣れていないことがあります。
経験がない場合、その弁護士から他の事務所を紹介してもらうのが自然な流れです。顧問弁護士を外すという話ではありません。
仲介会社から紹介を受けることもできますが、紹介元と依頼先の関係は確認しておいてください。契約書のレビューは、依頼者の側に立つ人にお願いするものです。
自分で読むべき箇所もある
弁護士に頼んでも、経営者本人が読まなければ分からない箇所があります。
表明保証の中身。「簿外債務は存在しない」「係争はない」といった約束を、本当にできるのか。事実を知っているのは経営者だけです。弁護士は、それが事実かどうかを知りません。
引き継ぎの条件。何か月、どういう立場で、いくらで残るのか。生活に直結します。
競業避止の範囲。引退後に何ができなくなるのか。
法律の解釈は弁護士に任せてよいのですが、事実と、自分の生活に関わる条件は、自分で確かめてください。ここを人任せにすると、後から効いてきます。
売り手と買い手で弁護士を分ける
当然のことですが、同じ弁護士が双方の代理人になることはできません。利益が相反するためです。
買い手の弁護士が作ったドラフトを、売り手がそのまま受け入れるなら弁護士は不要、という考え方もあり得ます。ただし、その契約書は買い手を守るために書かれています。
費用を惜しんで確認を省いた結果、成約後に補償の請求を受けるという事態は実際に起こります。金額と比べて判断してください。
登記は司法書士
混同されやすい点です。契約書は弁護士、登記は司法書士です。
M&Aで登記が必要になるのは、役員の変更、本店の移転、商号の変更、定款の変更といった場面です。株式譲渡そのものは登記事項ではありません(株主名簿の書換えで足ります)。
司法書士の報酬に加えて登録免許税がかかります。役員変更の登録免許税は資本金の額によって異なります。金額は事前に見積もってもらえます。
総額に織り込んでおく
まとめます。契約書に関わる費用は、仲介手数料とは別に見込んでおいてください。
弁護士のレビュー、司法書士の登記、必要に応じて税理士の確認。これらを合計して、手取りの計算に入れる。
見落とすと、「思っていたより手元に残らない」という結果になります。費用の総額で比べるで、全体の組み立て方をご確認ください。