M&A仲介の報酬体系は、大きく二つに分かれます。着手金や月額報酬を受け取り、成功報酬を相対的に抑える体系と、成約前の費用を受け取らず成功報酬に集約する体系です。「どちらが安いのか」というご質問をよくいただきますが、答えは成約するかどうかで逆転します。本稿では、同じ条件で二つの体系を並べ、三つの場面で総額を比べます。着手金そのものの意味は「着手金がある会社とない会社」もご覧ください。
二つの体系は、何を前払いにするかの違い
まず構造を確認します。仲介会社が一件の案件に投じる労力は、体系が違っても大きくは変わりません。企業概要書を作り、候補先に打診し、交渉を支え、契約まで伴走する——工程は同じです。
違うのは、その対価をいつ受け取るかです。着手金型は、成約前の段階でも一定の対価を受け取ります。成功報酬型は、成約するまで受け取りません。
この違いは、仲介会社にとってのリスクの所在を変えます。成功報酬型では、成約に至らなかった案件の費用は仲介会社が負担します。その分は、成約した案件の成功報酬に織り込まれることになります。着手金型では成約前に費用を回収できるため、成功報酬を抑える余地が生まれます。
つまりどちらの体系にも合理性があり、一方が不当ということはありません。問題は、自社の状況においてどちらの負担が軽いかです。
同じ条件で並べてみる
仮に、次のような二つの体系があるとします。金額は説明のための仮定であり、実在の各社の水準を示すものではありません。
| 項目 | 体系A(着手金型) | 体系B(成功報酬型) |
|---|---|---|
| 相談料 | 0円 | 0円 |
| 着手金 | 200万円 | 0円 |
| 月額報酬 | 月30万円 | 0円 |
| 中間金 | 成功報酬の10% | 成功報酬の10% |
| 成功報酬 | レーマン方式(着手金を控除) | レーマン方式 |
体系Bは当社の考え方に近いものです。当社は相談料・着手金・月額報酬を0円とし、成功報酬は移動総資産レーマン方式(基準額=株式価値+負債総額)で算定し、最低額を2,000万円(税別)としています。中間金は成功報酬額の10%で、成約時の成功報酬から全額を差し引きます(基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません)。ただし、基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。
この二つを、三つの場面で比べます。案件期間は10か月と仮定します。
場面①|無事に成約した場合
成約した場合、体系Aは着手金と月額報酬の分だけ支払いが先行しますが、その多くは成功報酬から控除される設計になっていることがあります。控除の有無は契約によって異なるため、着手金・月額報酬が成功報酬から差し引かれるかどうかは必ず確認してください。
控除される設計であれば、成約した場合の総額は二つの体系で大きくは変わりません。支払いのタイミングが前倒しになるだけです。ただし、成約まで10か月かかれば月額報酬は300万円になり、着手金と合わせて500万円が先に出ていきます。これを譲渡代金を受け取る前に、手元資金から払うという点は、資金繰りの負担として実在します。
控除されない設計であれば、その分だけ体系Aの総額が大きくなります。この差は、契約書の報酬条項を読めば分かります。
したがって、成約した場合の比較で見るべきなのは①控除の有無 ②支払時期の前倒しによる資金繰りへの影響の二点です。
場面②|成約に至らなかった場合
ここで差が明確になります。M&Aは必ず成約するとは限りません。相手先が見つからない、条件が折り合わない、デューデリジェンスで想定外の事項が判明する、オーナーの気持ちが変わる——理由はさまざまです。
体系Aで10か月進めて成約に至らなかった場合、着手金200万円と月額報酬300万円、合計500万円は手元から出ていったままになります。成功報酬は発生しませんが、すでに払った分は原則として戻りません。
体系Bでは、基本合意に至る前に中止した場合、仲介会社への支払いは発生しません。基本合意の後に不成立となった場合は中間金が残ります。当社であれば、成功報酬2,000万円の案件で中間金は200万円です。基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。
| 中止の時点 | 体系A(着手金型) | 体系B(成功報酬型) |
|---|---|---|
| 3か月目(相手先探索中) | 着手金200万円+月額90万円 | 0円 |
| 7か月目(基本合意前) | 着手金200万円+月額210万円 | 0円 |
| 10か月目(基本合意後) | 着手金200万円+月額300万円 | 中間金のみ |
場面③|途中でやめたくなった場合
三つ目は、売り手自身の判断で中止する場合です。ご家族の反対、体調の変化、業績の回復、買い手候補への違和感——途中でお気持ちが変わることは、実際にあります。
このとき、すでに払った金額が大きいほど、やめる判断がしにくくなります。500万円を払った後では、「ここまで払ったのだから」という心理が働きます。これは金額の問題であると同時に、判断の自由度の問題です。
成功報酬型では、基本合意の前であれば仲介会社への支払いが発生しないため、中止の判断がしやすくなります。当社が相談料・着手金・月額報酬を0円としているのは、この点を重く見ているためです。納得できないまま進める理由をなくしたいという考え方です。
ただし、専任契約の期間中であれば契約上の制約があります。契約の解除については「仲介契約を途中で解除したら費用はかかるか」、途中中止の実務は「途中でやめたくなったら」をご覧ください。
どちらを選ぶべきか|判断の軸
三つの場面を踏まえると、判断の軸は次のように整理できます。
- 成約の見込みが高いと考えるか——高いなら、総額の差は小さくなる。低いなら、成約前費用のない体系が有利
- 手元資金に余裕があるか——譲渡代金を受け取る前に数百万円を出せるか
- 途中でやめる可能性を残したいか——判断の自由度をどれだけ重視するか
- 控除の有無——着手金・月額報酬が成功報酬から差し引かれるか
- 基準額の定義——料率以前に、何に掛けるかで金額が変わる
もうひとつ、体系そのものより重要な論点があります。同じ金額を払うなら、何を得られるかです。担当者の経験、支援の範囲、説明の丁寧さ、不利益な情報も伝えてくれるか——これらは料金表には書かれていません。
手数料の差より、成約条件の差のほうが金額として大きくなることは珍しくありません。譲渡価格が変わることも、雇用条件が変わることも、税負担が変わることもあります。費用の比較は必要ですが、それだけで決めるべきではないというのが、私どもの率直な考えです。
当社では、ご相談の初期段階で手数料の見込みをお伝えし、ご契約の前に総額の目安を書面でご提示しています。他社と比較検討されている場合も、遠慮なくお伝えください。