医療機器の製造は、許可と承認がなければ一日も事業を続けられない業種です。承継の設計は、まずここから始まります。会社ごと引き継ぐのか、事業だけを移すのか——この選択が、そのまま事業を止めずに済むかどうかを決めます。
医療機器・ヘルスケア製造業を取り巻く承継の環境
高齢化を背景に需要は底堅い一方、規制対応の負担は年々重くなっています。品質管理体制の整備、不具合報告、法改正への対応。小さな組織で規制に対応し続けることの負担が、承継を考えるきっかけになる会社は少なくありません。
買い手側から見れば、許可と承認を備えた製造体制は新規に用意することが難しく、引き継ぐ価値の高い資産です。
薬機法上の許可・登録と、品目ごとの承認・認証
医療機器に関わる主な規制上の地位は、大きく二層に分かれます。
- 業としての地位:製造業の登録、製造販売業の許可(機器のクラスに応じて第一種・第二種・第三種)、販売業・貸与業の届出や許可
- 品目ごとの地位:一般医療機器の届出、管理医療機器の認証、高度管理医療機器等の承認
承継では、この両方を誰が持ち続けるのかを整理する必要があります。自社にどの地位があり、どの品目がどの区分なのかを一覧にすることが最初の作業です。適用関係は品目ごとに異なるため、所管の行政庁にご確認ください。
三役の要件をどう満たし続けるか
製造販売業には、総括製造販売責任者・品質保証責任者・安全管理責任者の設置が求められます。中小の会社では、経営者や特定の担当者がこれらを兼ねていることが珍しくありません。
その方が退けば要件を欠くことになりますから、承継では「誰が担うか」を譲渡条件と同じ重さで決める必要があります。要件には学歴や実務経験の定めがあり、すぐに代わりが見つかるとは限りません。早い段階から後任を育てておくことが、この業種では最も効く準備です。
スキームによって、事業が止まるかどうかが変わる
会社ごと引き継ぐ株式譲渡であれば、許可・登録・承認はいずれも同じ法人に帰属したまま維持されるのが原則です。役員や三役の変更に伴う届出は必要ですが、事業を止めずに承継できます。
これに対し事業譲渡で製造部門や特定の品目だけを移す場合、譲受側で許可を取得し、品目についても、承認・認証の承継の届出、または改めての申請が必要になります。手続きが整うまで製造・販売ができない期間が生じ得るため、医療機器の分野では株式譲渡が選ばれることが多くなります。
品質管理体制と記録の整備
医療機器の品質管理に関する基準への適合は、事業継続の前提です。買い手は、手順書が整備され、記録が残り、実際にその通り運用されているかを確認します。
過去の適合性調査や査察の結果、指摘事項とその是正の記録、不具合報告や回収の履歴。これらは隠せる性質のものではありませんし、整理して先に開示するほうが結果として良い条件につながります。
取引先と販売チャネルの見られ方
医療機関に直接納めているのか、販売業者を介しているのか。特定の販売会社に依存していないか。保険適用のある製品であれば、診療報酬や保険償還の動向が売上に直結します。
製品別の売上・利益と、チャネル別の構成を数期分示せると、買い手は事業の実態と将来の見通しをつかみやすくなります。
価値を下げてしまう要因
- 許可・登録・承認品目の一覧が整理されていない
- 三役の後任が想定されていない
- 品質記録が形式的で、実運用と乖離している
- 不具合報告や回収の履歴が把握できていない
- 特定の販売会社に依存し、契約書がない
売却を考え始めたら、先に整えておきたいこと
- 許可・登録・承認品目を一覧にする:更新期限も併記します
- 三役の要件を満たす人を確保・育成する
- 品質手順書と記録を点検する
- 査察・調査の履歴と是正記録を整理する
- 製品別・チャネル別の採算を可視化する
買収前の調査については「デューデリジェンス」もあわせてご覧ください。
まとめ
医療機器製造業の承継は、許可・承認・三役という制度面が中心です。裏を返せば、論点が明確で、準備すれば整理できる業種でもあります。
許可と承認を備えた製造体制は、簡単に作れるものではありません。規制対応の負担を理由に事業を畳むより、体制を持つ相手に託すほうが、製品を必要としている方々にとっても意味があります。
本稿の内容は執筆時点(2026年9月)の一般的な整理です。許認可・税務・法務の取り扱いは個別の事情により異なりますので、具体的な検討にあたっては所管官庁および税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。