中小企業のM&Aで最も多く用いられるスキームが、株式譲渡です。オーナー様が保有する株式を買い手に譲渡することで、会社という「器」ごと事業を引き継ぐこの方法は、契約や許認可、雇用関係をそのまま維持しやすい半面、会社法上の手続きを正しく踏まなければ、譲渡の効力や買い手の株主としての地位に疑義が残ってしまいます。本稿では、譲渡制限株式の承認手続から、株式譲渡契約の締結、対価の決済、株主名簿の名義書換まで、株式譲渡の手続きの流れと必要書類を、実務の順序に沿ってご説明します。

株式譲渡の手続き全体像|中小M&Aの中心スキーム

株式譲渡の手続きは、大きく次の4つのステップで構成されます。

  • ステップ1:譲渡制限株式の譲渡承認請求と、会社による承認決議
  • ステップ2:株式譲渡契約(SPA)の締結
  • ステップ3:対価の決済(クロージング)
  • ステップ4:株主名簿の名義書換と、その後の役員変更等の手続き

ここで押さえておきたいのは、日本の中小企業のほとんどが「譲渡制限会社(非公開会社)」であるという点です。定款に「当会社の株式を譲渡により取得するには、当会社の承認を要する」といった定めを置く会社では、株式を自由に売買することができず、会社の承認という手続きが必要になります。まずは自社の定款と登記事項証明書を確認し、譲渡制限の有無、承認機関の定め、そして株券発行会社かどうかを把握することが、すべての出発点になります。

なお、株式譲渡というスキームそのものの特徴や、事業譲渡との違いについては「株式譲渡と事業譲渡の違い」で詳しく解説しています。

譲渡制限株式の承認手続|承認機関と請求の流れ

譲渡制限株式を譲渡するには、会社の承認が必要です。承認の主体(承認機関)は、原則として次のとおりです。

  • 取締役会設置会社:取締役会
  • 取締役会非設置会社:株主総会
  • 定款で別段の定めがある場合:その定めによる(代表取締役を承認機関とする例など)

手続きの流れとしては、まず譲渡を希望する株主(または株式取得者)が、会社に対して譲渡承認請求を行います。請求書には、譲渡する株式の数、譲受人(買い手)の氏名・名称などを記載します。会社側は、承認機関による決議を経て、承認するかどうかを株主に通知します。

オーナー経営者がほぼ全株式を保有する会社では、この承認手続は形式的に進むことが通常です。しかし「形式的だから省略してよい」わけではありません。承認を欠いた譲渡は、会社に対する関係で効力を主張できないと解されており、後日、買い手の株主地位に疑義を残す原因になります。議事録の作成・保管まで含めて、確実に履践しておくべき手続きです。

また、株式が親族などに分散している会社では、承認手続以前に「全株式を集められるか」が課題になります。株主の把握と集約については「株式が分散している会社のM&A」をご参照ください。

株式譲渡契約(SPA)の締結

承認手続と並行して、売り手と買い手の間で株式譲渡契約(SPA:Share Purchase Agreement)を締結します。株式譲渡契約は、単に「何株をいくらで譲渡するか」を決めるだけの書面ではありません。中小M&Aの実務では、概ね次のような条項が盛り込まれます。

  • 譲渡の対象(株式数・種類)と譲渡価格、決済の方法・期日
  • クロージングの前提条件(譲渡承認決議の完了、重要な取引先の契約継続など)
  • 表明保証(財務諸表の正確性、簿外債務・係争の不存在、税務申告の適正など)
  • 誓約事項(クロージングまでの会社運営、役員の退任、引き継ぎへの協力など)
  • 補償条項(表明保証違反などがあった場合の金銭的な手当て)

とりわけ表明保証と補償の範囲は、売り手・買い手のリスク分担を決める中核であり、譲渡後のトラブルの多くはこの部分の詰めの甘さに起因します。契約書のひな形をそのまま流用するのではなく、デューデリジェンスの結果を反映した個別の設計が必要であり、弁護士等の専門家によるレビューを強くおすすめします。

対価の決済と株主名簿の名義書換|会社への対抗要件

契約で定めたクロージング日に、買い手からの譲渡代金の支払いと、株式の譲渡を同時に実行します。あわせて、会社の実印・通帳・重要書類の引き渡しや、役員変更の手続きなどが同日に行われるのが一般的です。

ここで法律上、極めて重要なのが株主名簿の名義書換です。株式の譲渡は、当事者間の合意(および株券発行会社では株券の交付)によって効力を生じますが、買い手が会社に対して「自分が株主である」と主張するためには、株主名簿の名義書換を経る必要があります。名義書換は、会社に対する対抗要件なのです。

名義書換が済んでいないと、買い手は会社との関係で議決権を行使できず、配当も受けられません。実務では、売り手と買い手が共同で会社に名義書換を請求し、会社が株主名簿を書き換えたうえで、買い手に株主名簿記載事項証明書を交付する、という流れで確実に完了させます。クロージング当日のタスクリストに必ず組み込んでおくべき手続きです。

必要書類の整理|一覧表でチェックする

株式譲渡の場面で一般に作成・準備される書類を整理します。会社の機関設計(取締役会の有無など)によって変わりますので、あくまで代表例としてご覧ください。

場面書類備考
事前確認定款、登記事項証明書、株主名簿譲渡制限・承認機関・株券発行の有無を確認
譲渡承認株式譲渡承認請求書譲渡株式数・譲受人を記載し会社へ提出
承認決議取締役会議事録または株主総会議事録承認機関に応じて作成・保管
承認通知譲渡承認通知書会社から請求者への通知
契約締結株式譲渡契約書(SPA)表明保証・補償条項を含む
決済・名義書換株主名簿名義書換請求書、株主名簿記載事項証明書売り手・買い手の共同請求が原則
譲渡後役員変更の登記書類、税務関係書類 等司法書士・税理士と連携

書類の多くは定型的なものですが、日付の整合性(承認決議が契約・決済より論理的に正しい順序で揃っているか)や、議事録の記載内容は、後日の紛争や税務調査の場面で確認されるポイントです。作成した書類一式は、クロージング後も長期に保管してください。

株券発行会社の注意点と専門家の関与

最後に、見落とされやすい論点として株券発行会社の扱いに触れておきます。

会社法上、株券を発行する旨の定款の定めがある会社(株券発行会社)では、株式の譲渡には株券の交付が必要とされ、株券の交付が譲渡の効力発生要件になります。つまり、契約書に調印しても、株券を交付しなければ譲渡の効力そのものが生じません。

実務上悩ましいのは、「定款や登記の上では株券発行会社なのに、実際には株券を一度も発行していない」という会社が少なくないことです。この場合、譲渡にあたって株券を発行して交付するか、あらかじめ定款変更(および登記)によって株券不発行会社へ移行しておくといった対応が検討されます。どちらの方法を採るかはスケジュールにも影響しますので、早い段階で登記事項証明書を確認し、司法書士・弁護士に相談しておくと安心です。

ここまでご覧いただいたとおり、株式譲渡の手続きは一つひとつは定型的でも、順序と整合性を保って漏れなく進めることに難しさがあります。また、手続きと並行して、情報管理(秘密保持の実務)や従業員・取引先への開示のタイミングも設計しなければなりません。当社プラチナパートナーズは、弁護士・司法書士・税理士と連携しながら、承認手続から名義書換までのクロージング実務を一気通貫でご支援しています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。手続き面のご不安も含め、無料相談よりお気軽にご相談ください。

本稿の税制・法務に関する記載は2026年9月時点の制度に基づく一般的な解説です。個別の適用については、必ず税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.会社に対する関係では認められません。譲渡制限株式の譲渡には会社の承認が必要で、承認機関は原則として、取締役会設置会社では取締役会、非設置会社では株主総会です(定款で別段の定めも可能です)。株主は会社に譲渡承認請求を行い、承認決議を経てから譲渡を実行するのが基本の流れです。
A.株主名簿の名義書換は、株式を取得したことを会社に対抗するための要件だからです。名義書換をしていないと、買い手は会社に対して株主としての権利(議決権の行使や配当の受領など)を主張できません。譲渡の効力が当事者間で生じていても、名義書換を終えて初めて会社との関係で株主として扱われます。
A.株券発行会社では、株券の交付が株式譲渡の効力発生要件とされているため、契約書の締結だけでは譲渡の効力が生じず、株券の交付が必要です。株券を実際に発行していない場合は、発行して交付するか、事前に定款変更で株券不発行会社へ移行しておくなどの対応が必要になり、自社がどちらのタイプかを登記で確認することが出発点になります。

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相談料・着手金・月額報酬は0円です。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。ご相談に費用はかかりません。
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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら