「今期は業績が落ちてしまった。回復してから売却を考えるべきだろうか」——これは非常に多くいただくご相談です。直感的には「よくなってから売る」のが正しく思えます。しかし実務では、待つことが最善とは限りません。判断の分かれ目は、悪化の原因が一時的なものか、構造的なものかにあります。本稿では、その見極め方と、買い手への説明の組み立て方を整理します。

業績が落ちた年、買い手は何を見るのか

買い手が見ているのは、落ちたという事実そのものではありません。次の三点です。

  • 原因は何か——特定できているか。特定できていない悪化は、最も警戒される
  • その原因は続くか——来期以降も同じことが起きるのか、それとも解消済みか
  • 経営者はどう対応したか——気づいて手を打っているか、放置しているか

三点目は見落とされがちですが、実は重要です。業績の悪化に対して、原因を分析し、対策を打ち、その効果を確認している——この一連の動きが示せる会社は、悪化の事実があってもむしろ「経営が機能している」と評価されます。逆に、原因が分からないまま数字だけが落ちている状態は、買い手にとって最も判断しにくい状況です。

なお、赤字であっても売却が成立するケースは実際にあります(赤字企業でも売却できるか)。買い手が評価するのは、技術・人材・顧客基盤・許認可といった経営資源であり、直近の利益だけではないからです。

一時的か構造的か|見極めの観点

一時的な悪化の例構造的な悪化の例
売上大型案件の期ずれ、一時的な出荷停止、特定顧客の一過性の減産市場の縮小、主要顧客の内製化、競合の台頭による継続的な失注
費用設備トラブルによる修繕、単年度の訴訟費用、一時的な原材料高騰価格転嫁できない構造、人手不足による恒常的な外注増、固定費の肥大
体制キーパーソンの一時的な離脱、システム移行に伴う混乱技能者の高齢化、採用難の常態化、設備の陳腐化

見極めの実務的な問いは、「その要因がなくなれば、元の水準に戻るか」です。戻るのであれば一時的、戻らないのであれば構造的と考えます。

ただし、この二つはきれいに分かれるとは限りません。「原材料の高騰は一時的だが、価格転嫁できない関係は構造的」というように、混在しているのが普通です。大切なのは、混在していることを含めて自分で分解できていることです。

一時的であることを、どう示すか

一時的な悪化であると主張するなら、次の材料をそろえます。

  • 月次の推移——年度の数字だけでは分かりません。どの月に何が起き、その後どう戻ったかを月次で示す
  • 要因ごとの金額——「特別な修繕費が○○円」「案件の期ずれが○○円」と、影響額を分けて示す
  • 回復の証拠——直近の月次、受注残、進行中の商談。「戻りつつある」ことを数字で示せるか
  • 同じことが起きない根拠——設備の更新済み、契約の見直し済み、体制の是正済みといった具体的な対応

とくに月次の推移は有効です。年度の決算書だけでは「1年間ずっと悪かった」ようにしか見えませんが、月次で示せば「特定の期間に集中している」ことが一目で分かります。月次の管理をされていない会社は、この機会に整備することをおすすめします。

加えて、収益力を測る際の調整という考え方もあります。一時的な費用や、経営者交代でなくなる支出を調整した実質的な利益で議論する方法です(実質利益(正常収益力)とは)。ただし、調整は根拠が示せて初めて認められます。

構造的な悪化のとき、どう伝えるか

構造的な要因である場合、それを一時的だと言い張っても意味がありません。買収監査で必ず明らかになり、信頼を損なうだけです。この場合に有効なのは、次の三つの組み立てです。

1. 事実として認め、範囲を限定する

「市場は縮小している。ただし当社の顧客層はこの部分で、そこでの推移はこうだ」というように、悪い事実を認めたうえで、影響の範囲を数字で限定します。漠然とした不安より、限定された事実のほうが買い手は扱いやすくなります。

2. 残っている価値を明確にする

収益力が落ちていても、技術、人材、許認可、顧客との関係、設備、拠点といった経営資源は残っています。買い手にとって、これらを一から用意する手間は変わりません。収益ではなく資源で語るという切り替えが必要です。

3. 相手を選び直す

構造的な逆風は、自社単独では跳ね返せなくても、買い手の資源と組み合わせれば解消することがあります。販路を持つ買い手、価格交渉力のある買い手、隣接分野への展開を狙う買い手。「どのような相手なら、この弱みが弱みでなくなるか」という視点が、この局面では最も重要な戦略になります。

「回復を待つ」ことのリスク

最後に、待つという選択について申し添えます。回復してから売るという判断は合理的に見えますが、次のリスクを伴います。

  • 回復する保証がない——構造的な要因であれば、待っても状況は改善しない。むしろ悪化が進む
  • 経営者様の年齢と体力——M&Aは準備から成約まで一般に半年から1年以上を要する。交渉には相応の気力と体力が要る
  • 従業員や取引先の離脱——業績が落ちた状態が続けば、人材の流出や取引の縮小が進み、会社の価値そのものが目減りする
  • 資金繰りの余裕——余裕があるうちのほうが、条件を選ぶ交渉ができる。追い込まれてからでは選択肢が狭まる

実務でお伝えしているのは、「待つかどうかの判断は、待った先の見通しを確かめてから」ということです。悪化の要因を分解し、回復の見込みを検証したうえで判断すれば、待つ選択にも根拠が生まれます。逆に、「なんとなく今は時期が悪い」という理由で先送りするのは、最も避けたい判断です。売却時期の考え方は「会社売却のタイミング」もご参照ください。

※本稿は一般的な考え方の整理であり、個別の税務・法務の取り扱いは前提となる事実関係により異なります。実行にあたっては税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。

まとめ|説明できる悪化は、致命傷にならない

  • 買い手が見るのは、悪化の事実ではなく「原因・継続性・経営者の対応」
  • 一時的か構造的かは「要因がなくなれば元に戻るか」で見極める。混在が普通
  • 一時的なら月次推移と要因別の金額、回復の証拠で示す
  • 構造的なら、認めて範囲を限定し、残る経営資源で語り、相手を選び直す
  • 待つ判断は、待った先の見通しを検証してから

業績の悪化それ自体が売却を不可能にすることは、実はあまりありません。買い手が引くのは、説明されない悪化、そして把握されていない悪化です。数字が落ちた年こそ、原因を分解し、対応を記録し、語れる状態にしておくことが、結果として会社の価値を守ります。

当社プラチナパートナーズでは、業績が思わしくない局面でのご相談も数多くお受けしています。無料相談の中で、悪化の要因の整理から進め方の選択肢まで一緒に検討いたします。秘密保持を徹底しますので、お気軽にご相談ください。

よくあるご質問

A.待った先の見通しを検証してから判断されることをおすすめします。悪化の原因が一時的で、解消の目処が立っているなら、待つ選択にも根拠があります。しかし構造的な要因であれば、待っても状況は改善せず、その間に人材の流出や取引の縮小が進んで会社の価値が目減りするおそれがあります。M&Aは準備から成約まで一般に半年から1年以上を要しますので、経営者様の年齢や資金繰りの余裕も含めてご検討ください。
A.月次の推移を示すことが最も有効です。年度の決算書だけでは1年間ずっと悪かったようにしか見えませんが、月次で示せば特定の期間に集中していることが分かります。あわせて、要因ごとの影響額を分けて示すこと、直近の月次や受注残で回復の兆しを示すこと、同じことが起きない根拠(設備の更新済み、契約の見直し済みなど)を具体的に説明することが有効です。
A.見つかる可能性はあります。収益力が落ちていても、技術・人材・許認可・顧客との関係・設備・拠点といった経営資源は残っており、買い手がそれらを一から用意する手間は変わらないからです。重要なのは、収益ではなく資源で語ること、そして相手を選び直すことです。自社単独では跳ね返せない逆風でも、販路や価格交渉力を持つ買い手と組めば解消することがあります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら