上場企業がM&Aを決定すると、証券取引所の規則に基づいて「株式取得(子会社化)に関するお知らせ」「事業譲渡に関するお知らせ」といった資料を公表します。これが適時開示です。新聞やニュースサイトの記事はこの資料をもとに書かれていますが、資料そのものを読むと、記事には出てこない買い手の理由や条件の細部が分かります。本記事では、M&Aの適時開示の項目ごとの読み方と、中小企業の経営者が自社に引き寄せて読むための観点をご説明します。

適時開示とは何か、どこで読めるか

適時開示は、上場企業が投資家の判断に影響する重要な事実を、決定後速やかに公表する制度です。M&Aでは、子会社の取得や譲渡、事業の譲受・譲渡、合併、会社分割、公開買付けなどが対象になります。一定の基準に満たない小さな案件は開示の対象にならないことがあります。

資料は東京証券取引所の適時開示情報閲覧サービス(TDnet)で、公表当日から誰でも読むことができます。各社のIRページにも同じ資料が掲載されます。当社のM&Aニュースは、この一次情報だけをもとに要約と読み解きを掲載しています。

項目一:取得(譲渡)の理由

資料の最初に書かれるのが「理由」です。ここには、買い手がなぜその会社を求めたのかが、自らの言葉で書かれています。人材の確保、地域での事業基盤、特定分野のノウハウ、顧客との関係、許認可や設備、中期経営計画との整合といった理由が並びます。

中小企業の経営者にとって最も参考になる部分です。同じ業種の案件で買い手が何を評価しているかを読めば、自社が買い手からどう見えるか、何を整えておくと評価されるかが分かります。売り手側が開示する場合には「選択と集中」「中核事業への経営資源の集中」といった理由が書かれ、事業を切り出す判断の考え方が読み取れます。

項目二:対象会社の概要

名称、所在地、代表者、事業内容、資本金、設立年月日、大株主と持株比率、上場会社との関係、直近数期の業績(純資産、総資産、売上高、営業利益、経常利益、当期純利益)が表の形で示されます。

ここで分かるのは、どんな規模の会社が譲渡の対象になっているかです。資本金が数百万円の有限会社や、売上高が数千万円台の会社が上場企業の子会社になる例も珍しくありません。規模の大小より、事業の中身と買い手の戦略との適合が重視されていることが、実例から読み取れます。

大株主の欄からは、株式が一人に集約されているか、複数に分散しているかが分かります。分散している場合、資料に「株式の集約が完了した場合」といった前提が書かれることがあり、株式の整理が譲渡の前提になることが分かります。

項目三:取得株式数と取得価額

取得する株式数と議決権の割合、取得価額が記載されます。価額は「普通株式 ○○百万円、アドバイザリー費用等 ○○百万円、合計 ○○百万円」のように、株式の対価と、調査や助言にかかる費用を分けて書くのが一般的です。

一方で、「相手方との秘密保持契約により非開示」「相手先の意向により開示を差し控える」「開示基準に該当しないため記載しない」として、価額が公表されないことも多くあります。上場企業が買い手であっても、金額が必ず公になるわけではありません。

価額が開示される場合、「基準日の財務数値に基づく概算で、実行時点で調整する」「第三者算定機関の評価を参考に合意した」といった注記が付くことがあります。価格が一つの数字で決まるのではなく、根拠と調整の仕組みを伴って合意されることが読み取れます。

項目四:日程と業績への影響

取締役会決議日、契約締結日、株式譲渡実行日(効力発生日)が示されます。決議と契約が同日で、実行が翌月初めというものもあれば、実行が半年先というものもあります。実行までの間に、前提条件の充足、許認可の手続き、株式の集約などが行われます。

業績への影響は「精査中」「軽微」と書かれることが多く、確定した段階で改めて開示されます。

資料の末尾には、対象事業の従業員の扱い(同意を得て転籍する、など)や、現経営者の留任が書かれることもあります。買い手が事業の継続性をどう考えているかが、ここに表れます。

自社に引き寄せて読む三つの観点

開示資料を読むときに、中小企業の経営者に持っていただきたい観点を三つ挙げます。

一つ目は「買い手の理由に自社の強みが重なるか」です。同じ業種の案件で評価されている点が、自社にもあるなら、それは承継の材料です。

二つ目は「対象会社の規模と自社の規模」です。売上高や資本金の欄を見れば、自社と同じ規模の会社が譲渡の対象になっているかが分かります。

三つ目は「条件の設計」です。価額の調整の仕組み、従業員の転籍、経営者の留任、株式の集約といった条件は、規模を問わず中小企業の譲渡でも論点になります。

業種ごとの論点は業種別のページに、公開買付けやMBOといった上場企業特有の手法は公開買付け(TOB)とはにまとめています。

読むときの注意

適時開示は買い手または売り手の一方が公表する資料であり、相手方の見方や交渉の経緯は書かれていません。また、公表後に条件が変わることや、実行に至らないこともあります。数字を引用するときは、公表日と出典を添えることが基本です。

当社のM&Aニュースでは、事実の要約と当社の読み解きを分けて書き、数値には出典を付け、当社の成約実績ではないことを明記しています。ニュースで自社の業種の動きを知り、気になったときにご相談いただければ、自社の場合にどうなるかを一緒に整理します。

よくあるご質問

A.公表された資料は誰でも読めますが、開示された会社に直接連絡することは、相手の事情や秘密保持の観点から慎重に考える必要があります。同じ業種で買い手候補を探したい場合は、仲介会社を通じて社名を伏せた形で打診する方法があります。
A.非開示の理由(秘密保持契約、相手の意向、開示基準に該当しない)が書かれていますので、まずそれを読みます。金額が分からなくても、理由・対象会社の概要・日程・条件の設計からは多くのことが読み取れます。
A.取締役会決議や公表など上場企業特有の手続きはありますが、理由の整理、相手の調査、価格の根拠、契約の条件、従業員や経営者の扱いといった論点は共通です。規模が違っても、考え方は同じところが多くあります。

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同じ業種の動きが気になったら。

適時開示で見た案件が自社にどう当てはまるかを、一緒に整理します。相談料・着手金・月額報酬は0円です。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら