統合は進んでいるのか。買い手の社内で、これを誰がどう判断するか。報告の設計を決めないと、現場に任せきりになります。整理します。
なぜ報告の設計が要るのか
買収は社内で承認を得て行った投資です。承認した側には、その後を知る責任があります。
ところが実務では、クロージングの直後から報告が細ることが多い。理由は3つです。
現場が忙しい。統合作業に追われ、報告が後回しになる。
何を報告すべきか決まっていない。形式が無いと、書く側も困ります。
悪い数字を出しにくい。想定を下回っていると、報告が遅れます。
この3つを、設計で解いてください。
誰に報告するか
相手を分けてください。頻度も内容も変わります。
取締役会・経営会議。月次または四半期。投資の回収状況と、重要な事象。
担当役員。週次または隔週。進捗と、判断を求める事項。
関係部門。経理、人事、法務、システム。それぞれの領域の進捗。
とくに、担当役員との定例は欠かさないでください。現場からの相談に、早く判断を返す場になります。
ここが月1回だと、現場は3週間待つことになります。
何を報告するか
項目を先に決めてください。毎回同じ形で出せば、比較ができます。
① 業績。売上、粗利、営業利益。買収時の計画との差。
② 資金。月末の現預金、借入残高、資金繰りの見通し。
③ 人。在籍数、入退社、キーマンの状況。
④ 取引先。主要先との取引状況、離反の兆候。
⑤ 統合の進捗。やると決めた項目の完了・未完了。
⑥ 判断を求める事項。
A4で1〜2枚。厚い資料を作らせると、作ることが目的になります。
買収時の計画と突き合わせる
最も重要な項目です。稟議で約束した効果が、実現しているか。
買収を承認したとき、何らかの前提があったはずです。「初年度の営業利益◯円」「シナジーで◯円」「◯年で回収」。
その前提を、報告の様式に書き込んでください。計画と実績を並べる。
差が出たら、原因を書く。一過性か、構造的か。
これをしないと、「なんとなく回っている」という報告が続きます。
そして、差が続くなら、計画そのものを見直す。実現しない前提を持ち続けても意味がありません。
悪い情報を上げる仕組み
設計で最も難しい部分です。悪い数字は、放っておくと上がってきません。
仕組みとして入れるべきものを挙げます。
「必ず報告する項目」を決める。大口の失注、主要人材の退職、事故、クレーム、法令に関わる指摘。良し悪しにかかわらず、事象として報告する。
報告した人を責めない。早く上げたことを評価する。ここを誤ると、次から上がってきません。
現地の担当者と、本社が直接話す場を持つ。PMI担当者を経由しない経路も作っておく。
数字だけでなく、現場の空気も聞く。離職率に出る前に、兆候があります。
報告が形骸化しないために
実務でよく起きる問題です。報告書は出ているが、誰も読んでいない。
防ぐ方法を挙げます。
報告に対して、必ず何か返す。質問でも、判断でも、労いでも。反応が無いと、書く意味が失われます。
項目を定期的に見直す。統合初期に必要だった項目が、1年後には不要になります。惰性で続けない。
報告のための作業を増やさない。既に社内で作っている資料を流用する。報告専用の集計を作らせない。
会議で読み上げない。事前に配り、議論から始める。
現地側の負担を考える
見落とされやすい視点です。報告は、現地にとって負担です。
買収された側は、統合の実務に加えて、本社への報告という新しい仕事を負います。
しかも、本社が求める様式は、現地の慣れた形と違うことが多い。
対応としては、最初は現地の様式のまま受け取ることです。本社側で読み替える。
そして、徐々に揃えていく。数字の定義を合わせるところから。
「本社の様式に合わせてください」と最初に言うと、それだけで関係が硬くなります。言葉の対応表もご覧ください。
いつまで続けるか
終わりの設計です。統合の報告は、永続するものではありません。
目安としては、1年目は週次・月次で密に、2年目から通常の子会社管理へ移行する形です。
移行の判断基準を、先に決めておいてください。
月次の数字が翌月に出る。
計画との差が説明できる。
現地の責任者が定まっている。
重要な事象が早く上がってくる。
この4つが揃えば、統合の報告は終えてよいと考えられます。
記録を残す
最後に、実務的な価値です。
報告の記録は、次の買収で使えます。
何が計画どおりに進み、何が想定と違ったか。どの時期に何が起きたか。どういう対応が効いたか。
1件目の記録が、2件目の計画の精度を上げます。
また、のれんの減損を検討する場面でも、経緯の記録が必要になります。「いつ、どう判断したか」を説明する材料です。
報告は、社内への説明のためだけではありません。会社の学習の記録でもあります。買収を重ねてグループ経営へも併せてご覧ください。