買収したら統合する、と決まっているわけではありません。あえて揃えないという判断が、結果的に価値を保つ場面があります。その考え方を整理します。
揃えることが目的ではない
PMIというと、制度やシステムを本社に合わせる作業だと思われがちです。これは手段であって、目的ではありません。
目的は、買収した事業が価値を生み続けることです。揃えることでそれが損なわれるなら、揃えないほうがよい。
実際、統合を急いだ結果、キーマンが辞め、顧客が離れ、買収前の収益を下回るという展開は珍しくありません。
「何を揃えるか」の前に、「なぜ揃えるのか」を答えられるかを確認してください。
揃えないほうがよい領域
実務で、独立させたままにすることが多い領域を挙げます。
ブランド・屋号。顧客がその名前で選んでいる場合、変えると失います。
営業のやり方。地域や業界の慣行に合わせて育ったものです。
値決めの裁量。現場が判断できる範囲を狭めると、受注が減ります。
仕入先。長年の関係で条件が良い場合、本社の調達に切り替えると悪化することがあります。
人事評価。職種も規模も違えば、同じ基準は合いません。
それでも揃えるべきもの
一方、グループとして揃えないと危ない領域があります。
法令遵守の水準。労務、安全、環境、個人情報。子会社の違反は、親会社の問題になります。
会計の締め日と報告の様式。連結や管理会計に必要です。
一定額以上の意思決定の承認。大型の投資、借入、重要な契約。
資金の管理。口座の開設、印章の管理、支払いの承認。
この4つは、独立性とは別の話です。自主性を尊重することと、統制を欠くことは違います。
独立して運営する場合の管理
揃えないと決めた場合でも、見えない状態にしてはいけません。
必要なのは、月次の数字が翌月に出ること、定期的に報告を受ける場があること、異常があったときに早く伝わる経路があること。
とくに3つ目です。悪い情報が上がってくるか。独立性を尊重した結果、問題が起きても本社が知らない——これが最悪の形です。
実務では、「これだけは必ず報告する」という項目を決めます。大口の失注、主要な人材の退職、事故、クレーム、法令に関わる指摘。
経営者を残す場合の設計
独立運営の典型は、前経営者や既存の幹部に任せ続ける形です。
この場合、権限と責任を明文化してください。何を自分で決められ、何を本社に諮るのか。金額の基準、人事の範囲、契約の種類。
そして、評価の基準も決めます。何をもって成功とするか。売上か、利益か、キャッシュフローか。
「任せる」と言いながら、細かく口を出すのが最も信頼を損ないます。逆に、任せたまま何も見ないのも危険です。
権限の範囲を明示したうえで、その範囲内では口を出さない。これが実務の要点です。
シナジーを急がない
買収の目的にシナジーがある場合でも、初年度から求めないほうがよいことがあります。
クロスセル、共同購買、人材の交流。いずれも、相互の信頼ができてから始めたほうが成功率が上がります。
統合初期に本社の商品を売らせようとすると、現場は「本社の都合を押し付けられた」と感じます。
実務では、1年目は現状維持、2年目から連携を試すという設計がよく取られます。
買収の投資回収計画に、この時間を織り込んでおいてください。初年度からシナジーを前提にした計画は、たいてい未達になります。
判断を見直す時期を決める
「統合しない」は、永続的な決定である必要はありません。
いつ見直すかを決めておいてください。1年後、3年後。あるいは、一定の条件(経営者の交代、業績の変化)が生じたとき。
見直す際に見るのは、揃えないことで生じている非効率と、揃えることで失うものの比較です。
時間が経つと、揃えても失うものが減っていることがあります。顧客が会社ではなくサービスで選ぶようになった、キーマンが引退した、といった変化です。
そのときが、統合の時期です。
従業員にどう説明するか
意外に難しいのがここです。「今までどおりで結構です」という説明は、不安を消しません。
従業員は、「いつか変わるのではないか」と考え続けます。宙ぶらりんの状態が、最も落ち着きません。
したがって、期間と範囲を明示してください。「当面3年間は、人事制度も給与体系も変更しません。3年後に見直しますが、その際は事前に説明します」。
「変えない」ではなく「いつまで変えない」と言う。これだけで、受け取られ方が変わります。
グループとしての一体感は、別の方法で作る
最後に。制度を揃えなくても、一体感は作れます。
年に一度、全社で集まる場を作る。グループの経営方針を共有する。相互に見学し合う。人が会えば、制度が違っても関係はできます。
むしろ、制度だけ揃えて人が交わらない状態のほうが、統合としては弱い。
買収した会社の従業員が、「このグループに入って良かった」と思える理由を作ってください。それは、就業規則が同じことではありません。
成長の機会、雇用の安定、待遇の改善。この3つが、最も効きます。統合方針の決め方も併せてご覧ください。