買収は契約で終わりません。その後の統合を誰が担うのかを決めていない買い手が、実際に多くあります。片手間で回る仕事ではありません。人選の考え方を整理します。

何をする人なのか

PMI担当者の仕事は、想像より幅が広いものです。

初期は情報の整理。会計処理、給与計算、勤怠管理、システム、取引条件。現状を把握し、どこを揃えるかを決めます。

次に、人との関係。従業員の不安に答え、キーマンと話し、離職を防ぎます。

並行して、管理体制の整備。月次の数字が出る仕組み、稟議のルール、決裁権限。

そして、買収時の想定とのずれの検知。想定した収益が出ているか、出ていないなら何が違うのか。

この4つを、同時に、数か月から1年以上続けます。

片手間では回らない理由

本社の役員が兼務で担当する、という形をよく見ます。多くの場合、機能しません。

理由は単純で、時間が取れないからです。統合初期は、想定外のことが毎日起きます。「聞いていない支払いがあった」「主要な担当者が辞めると言い出した」。

本業を持ちながらでは、週に1日訪問して報告を聞くのが限界です。それでは現場の空気がわかりません。

統合初期の数か月は、専任を置いてください。ここで手を抜くと、買収価格の前提そのものが崩れます。

社内から出すか、外から入れるか

社内から出す場合の利点は、自社のやり方と判断基準を理解していることです。本社との調整が速くなります。

欠点は、買収された側から「本社から来た人」と見られることです。警戒されます。

外部から採用する場合、中立に見られやすいという利点があります。一方、自社の文化も対象会社の事情も知らないため、立ち上がりに時間がかかります。

実務でよく取られるのは、社内から専任を出し、必要に応じて外部の専門家(会計・労務・システム)をスポットで使う形です。

どういう人が向くか

能力より、姿勢で決まる部分が大きい仕事です。

聞ける人。「今までどうしていましたか」から入れる人です。「本社ではこうしています」から入る人は、初日で信頼を失います。

細かい実務を厭わない人。給与計算のソフト、備品の発注ルール、社会保険の手続き。地味な作業が大量にあります。

悪い情報を上げられる人。想定より業績が悪い、離職が出ている。本社に報告しにくいことを報告できるか。ここが隠されると、対応が遅れます。

優秀さより、誠実さと粘り強さが効く仕事です。

前経営者との関係を設計する

PMI担当者の仕事は、前経営者との関係にも及びます。

引き継ぎ期間中、前経営者は顧問や役員として残ることが多くあります。従業員から見れば、まだ「社長」です。

ここで、誰が何を決めるのかが曖昧だと現場が混乱します。従業員はどちらに従えばよいかわからなくなります。

決裁権限を明文化してください。何を前経営者が、何をPMI担当者が、何を本社が決めるのか。期間も区切ります。「3か月後にはこの範囲を移す」といった形です。引き継ぎ計画の立て方も併せてご覧ください。

本社側の受け皿を作る

担当者一人に任せて、本社が関心を失うのが最悪の形です。

定例の報告の場を作ってください。週次か隔週で、経営層が直接聞く場です。メールの報告だけでは、空気が伝わりません。

判断を早く返してください。現場からの相談に本社が2週間答えないと、担当者は現場で立場を失います。

そして、担当者を守ってください。統合の過程では、必ず摩擦が起きます。担当者が板挟みになったとき、本社が支えるかどうかで、その後が決まります。

評価をどうするか

見落とされやすい論点です。PMI担当者をどう評価するか。

買収した会社の業績で評価すると、短期の数字合わせに走ります。必要な投資を止め、人員を絞れば、翌年の数字は良くなります。その後が続きません。

評価すべきは、統合の進捗です。管理体制が整ったか、離職を抑えられたか、取引先との関係を維持できたか、想定とのずれを早期に把握できたか。

数字は結果として後から付いてきます。評価の設計を誤ると、行動が歪みます。

任期を決めておく

最後に、いつまでやるのかを決めておいてください。

統合は永遠に続くものではありません。管理体制が整い、月次の数字が安定して出るようになり、現地の責任者が育てば、担当者の役割は終わります。

目安として、1年から2年を置くことが多いのが実際です。

終わりが見えない状態で送り出すと、担当者は消耗します。「この状態になったら戻る」という条件を、送り出す前に握っておいてください。次の買収でも、同じ人に頼めます。

※ 本稿は一般的な考え方をご紹介するものであり、個別の法務・税務アドバイスではありません。実際の取り扱いは会社の状況や契約の定めによって異なります。専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.統合初期の数か月は専任を置いてください。想定外のことが毎日起きるため、本業を持ちながらでは週1日の訪問が限界で、現場の空気がわかりません。ここで手を抜くと買収価格の前提が崩れます。
A.社内からは自社のやり方を理解している利点がある一方、「本社から来た人」と警戒されます。外部は中立に見られやすい反面、立ち上がりに時間がかかります。社内から専任を出し、会計・労務・システムの専門家をスポットで使う形が一般的です。
A.「今までどうしていましたか」から入れる人、給与計算や備品の発注ルールといった細かい実務を厭わない人、悪い情報を本社に上げられる人です。優秀さより誠実さと粘り強さが効きます。
A.決裁権限を明文化してください。何を前経営者が、何をPMI担当者が、何を本社が決めるのか。期間も「3か月後にはこの範囲を移す」といった形で区切ります。曖昧だと従業員がどちらに従えばよいかわからなくなります。
A.買収先の業績で評価すると短期の数字合わせに走り、必要な投資を止めて人員を絞る行動につながります。管理体制が整ったか、離職を抑えられたか、取引先との関係を維持できたか、想定とのずれを早期に把握できたかで評価してください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら