M&Aは、成約すれば必ず成功というものではありません。交渉の途中で破談になってしまうケースもあれば、成約にはこぎ着けたものの、その後のトラブルや統合の失敗によって「こんなはずではなかった」という結果に終わるケースもあります。ただ、実務の現場から見ると、M&Aの失敗にはいくつかの典型的なパターンがあり、その多くは事前の準備と進め方の工夫によって防ぐことができるものです。本稿では、特定の事案ではなく一般的な類型として、代表的な失敗パターンとその予防策を、売り手の目線を中心に解説します。

M&Aの「失敗」には二つの種類がある

M&Aの失敗は、大きく二つに分けて考えると整理しやすくなります。一つは、成約に至らない失敗です。情報漏洩や条件交渉の決裂、デューデリジェンスでの問題発覚などにより、途中で案件が頓挫してしまうケースがこれにあたります。破談は単に「振り出しに戻る」だけでは済みません。費やした時間と労力に加え、社内外に情報が広まっていた場合には、従業員の動揺や取引先の不安という傷が残ることもあります。

もう一つは、成約後に表面化する失敗です。譲渡後に想定外の債務や契約トラブルが見つかり表明保証をめぐる紛争に発展するケース、統合の進め方を誤って従業員の離職や業績悪化を招くケースなどです。成約はゴールではなくスタートであり、「成約後にどうなったか」までを含めてM&Aの成否は決まります。以下では、この二つにまたがる代表的な4つのパターンを見ていきます。

失敗パターン1|情報漏洩による破談・信用不安

M&Aの検討情報は、最も慎重に扱うべき機密情報です。「社長が会社を売るらしい」という噂が社内に広まれば、将来に不安を感じた従業員、とりわけ幹部や技術者の離職につながりかねません。取引先に伝われば取引条件の見直しや発注の手控えを招くこともあり、金融機関との関係にも影響し得ます。こうした動揺は会社の価値そのものを毀損するため、漏洩が原因で交渉自体が破談になることも珍しくないのです。

漏洩の経路は、外部からの詮索よりも、身内の何気ない一言であることが多いのが実情です。予防策としては、次の点が基本になります。

  • 社内で情報を共有する範囲を必要最小限に絞り、開示のタイミングを計画的に設計する
  • 相手方・支援機関と秘密保持契約(NDA)を締結し、資料の管理方法を取り決める
  • 匿名資料(ノンネームシート)の記載粒度に注意し、会社が特定されないようにする
  • 社内でのやり取りにも専用の連絡手段を使うなど、日常業務との分離を徹底する

秘密保持の実務は「M&Aと秘密保持|情報管理の重要性とNDAの基礎知識」で詳しく解説しています。

失敗パターン2|価格目線の乖離による交渉決裂

売り手の希望価格と買い手の評価が大きく食い違い、交渉が決裂するパターンも典型的です。オーナー様にとって会社は人生をかけて育てた存在であり、思い入れが価格への期待に反映されるのは自然なことです。しかし、買い手は投資回収の観点から冷静に価値を算定します。この目線の差を埋められないまま交渉を重ねると、時間だけが過ぎ、双方が疲弊して破談に至ります。

また、当初は高い価格を提示して契約を獲得し、後になって減額を迫るという不誠実な進め方が問題になることもあります。予防策は次のとおりです。

  • 交渉に入る前に、客観的な評価手法に基づく価値の目安を把握し、希望価格の根拠を持つ
  • 最低ラインと希望ラインを分けて設定し、価格以外の条件(雇用維持・引き継ぎ等)との優先順位を整理する
  • 提示された価格の算定根拠を確認し、安易な口頭の高値提示を鵜呑みにしない
  • 基本合意の段階で、価格の前提条件と変更の考え方を明確にしておく

価値評価の手法は「企業価値評価(バリュエーション)の3つの方法」をご参照ください。

失敗パターン3|デューデリジェンスでの簿外債務・問題発覚

基本合意後に行われるデューデリジェンス(買収監査)で、それまで開示されていなかった問題が発覚するパターンです。代表的なものに、未払い残業代などの簿外債務、税務処理の誤り、契約書の不備、係争の存在、許認可上の問題などがあります。問題の存在自体もさることながら、「事前に聞いていなかった」という事実が買い手の不信感を生み、減額や破談の引き金になります。

重要なのは、問題のない会社などほとんど存在しない、ということです。買い手が恐れるのは問題そのものよりも「隠されていた問題」であり、事前に把握し誠実に開示された問題は、価格や契約条件の調整によって織り込めることが多いのです。予防策は次のとおりです。

  • 売却検討の初期段階で、自社の財務・税務・労務・契約関係を棚卸しし、問題点を洗い出す(セルフチェック)
  • 把握した問題は隠さず、タイミングを含めて支援機関と相談のうえ適切に開示する
  • 是正できるもの(規程の整備、契約書の巻き直し等)は、交渉前に是正しておく
  • 税務・法務・労務の論点は、税理士・弁護士・社会保険労務士等の専門家に早めに確認する

調査の内容と売り手の準備は「デューデリジェンス(DD)とは」で詳しく解説しています。

失敗パターン4|PMI(経営統合)の失敗

無事に成約しても、その後の統合プロセス(PMI)でつまずくケースがあります。典型的なのは、買い手が急激に管理手法や人事制度を変えて現場の反発を招く、キーパーソンへのフォローを怠り中核人材が流出する、企業文化の違いを放置して組織がぎくしゃくする、といったパターンです。売り手側の要因としては、引き継ぎが不十分なまま前経営者が現場を離れてしまい、顧客や従業員との関係が途切れることが挙げられます。

売り手にできる予防策も少なくありません。

  • 交渉段階から、譲渡後の経営方針・従業員の処遇について具体的に確認し、合意事項を書面に残す
  • 引き継ぎの期間・内容(顧客紹介、技術伝承、経営者の関与の仕方)を最終契約とあわせて設計する
  • 従業員への説明の時期と伝え方を買い手とすり合わせ、動揺を最小限に抑える
  • 文化や価値観の相性を、トップ面談の段階から見極める(価格だけで相手を選ばない)

PMIの考え方は「PMIとは|M&A後の統合プロセスの進め方」で詳しく解説しています。

まとめ|失敗の芽は、準備段階でほとんど摘み取れる

情報漏洩、価格目線の乖離、簿外債務の発覚、PMIの失敗——ここまで見てきた典型パターンに共通するのは、いずれも「準備不足」と「進め方の誤り」に根があるという点です。裏を返せば、情報管理の設計、根拠ある価格目線の把握、自社の課題の棚卸しと誠実な開示、譲渡後を見据えた相手選びと引き継ぎ設計を丁寧に行えば、失敗の確率は大きく下げられます。そしてそのためには、実務経験のある支援者とともに、時間の余裕を持って進めることが何よりの近道です。

当社プラチナパートナーズは、成功報酬型のもと、初回相談から成約後の引き継ぎまで一気通貫で伴走し、本稿で挙げたような失敗の芽を早期に摘み取ることを大切にしています。M&A全体の進め方はM&Aの流れのページをご覧ください。守秘義務を徹底のうえ対応いたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

よくあるご質問

A.出してください。問題のない会社などほとんど存在しません。買い手が恐れるのは問題そのものよりも「隠されていた問題」であり、事前に把握して誠実に開示された問題は、価格や契約条件の調整によって織り込めることが多いのです。逆にデューデリジェンスで後から出ると、信頼が損なわれ、破談や大幅な減額につながります。開示の順序とタイミングは、支援機関と相談のうえ設計してください。
A.外部からの詮索よりも、身内の何気ない一言であることが多いのが実情です。社内で情報を共有する範囲を必要最小限に絞り、開示のタイミングを計画的に設計してください。あわせて、支援機関・相手方と秘密保持契約を結んで資料の管理方法を取り決めること、ノンネームシートの記載粒度に注意して会社が特定されないようにすること、日常業務と分離した連絡手段を使うことが基本になります。
A.なりません。失敗には、成約に至らない失敗と、成約後に表面化する失敗があります。後者には、譲渡後に想定外の債務や契約トラブルが見つかって表明保証をめぐる紛争になるケースや、統合の進め方を誤って従業員の離職や業績悪化を招くケースがあります。売り手にできる備えとして、譲渡後の経営方針と従業員の処遇を交渉段階で具体的に確認し、合意事項を書面に残しておいてください。

Free Consultation

失敗しないM&Aは、正しい準備から始まります。

相談料・着手金・月額報酬は0円です。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。ご相談に費用はかかりません。
メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら