M&Aの相談を始めて、仲介会社から「では、こちらの契約書にご署名を」と契約書一式を差し出される——検討の入り口で、多くの経営者様が経験される場面です。会社の将来を左右する重要な契約であるにもかかわらず、内容が専門的で、その場で判断を求められることも少なくありません。

なかでも、後になって効いてくるのが「専任専属条項」と「テール条項」の二つです。前者は依頼先を1社に絞る定め、後者は契約が終わった後の成約についても手数料が発生し得る定めです。いずれも、それ自体が不当なものではなく、合理的な理由があって設けられています。しかし、内容を理解しないまま署名すると、後の選択肢を思わぬ形で狭めることになりかねません。本稿では、この二つの条項の意味と、契約前に確認しておきたい点を整理してご説明します。

仲介契約(アドバイザリー契約)とは|何を取り決める契約か

M&Aの支援を依頼する際に締結するのが、仲介契約またはFA(ファイナンシャル・アドバイザリー)契約です。名称は各社で異なりますが、取り決める内容はおおむね共通しています。

  • 業務の範囲:企業概要書の作成、譲受候補先の探索・打診、条件交渉の調整、契約締結・クロージングの支援など、どこまでを行うのか
  • 手数料:着手金・中間金・月額報酬・成功報酬の有無、料率、算定基準、支払時期
  • 契約期間:いつからいつまでか、更新はどうなるのか、中途解約はできるのか
  • 依頼者の義務:資料提供、情報の正確性、専任専属の有無、直接交渉の制限など
  • 秘密保持:情報の取扱い、開示できる範囲
  • テール条項:契約終了後の成約に関する手数料の定め

手数料の考え方については「M&A仲介手数料の相場とレーマン方式の計算方法」で詳しくご説明しています。本稿では、それ以外の——しかし同じくらい重要な——契約条件に焦点を当てます。

テール条項とは|契約終了後の成約と手数料

テール条項(tail clause)とは、仲介契約が終了した後の一定期間内に、その仲介会社が関与・紹介した相手先とM&Aが成約した場合、契約終了後であっても手数料が発生するという定めです。「テール期間」「残存効条項」などとも呼ばれます。

この期間について、中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(令和6年8月)はテール期間を最長でも2年〜3年以内とすることを目安として示し、あわせて対象を、その仲介会社が実際に紹介した相手先に限定することを求めています。具体的な内容は後述のとおりです。

なぜ置かれるのか

この条項の趣旨は、いわゆる「抜け駆け」の防止にあります。仲介会社が譲受候補先を探し出し、紹介し、面談まで設定した後で、依頼者が契約を解約して当事者同士で直接成約させてしまえば、仲介会社の労力は報われません。テール条項は、そうした事態を防ぐための、それ自体は合理的な仕組みです。

問題になり得るのはどんな場合か

とはいえ、テール条項の書きぶり次第では、依頼者の将来の選択肢を過度に縛ることになります。典型的には、次のような場合です。

論点依頼者に配慮された内容注意が必要な内容
テール期間契約終了後の一定期間に限定され、年数が明示されている期間が長期にわたる、または明確に定められていない
対象となる相手先当該仲介会社が実際に関与・紹介した先に限定され、リストで特定される「あらゆる譲受候補先」など、関与の有無を問わず広く及ぶ
相手先の特定方法契約終了時に対象先の一覧を書面で交付する対象先が特定されず、後から範囲を主張し得る
手数料の額本来の成功報酬と同水準で、算定方法が明示されている算定方法が不明確
説明契約締結前に、書面と口頭の双方で説明を受けている契約書の末尾にあり、説明を受けた記憶がない

ここで押さえていただきたいのは、テール条項があること自体が問題なのではなく、範囲と期間が限定され、事前に明示されているかどうかが問題だということです。適切に設計されたテール条項は、仲介会社が安心して活動に注力できる基盤となり、結果として依頼者の利益にもつながります。

専任専属契約とは|1社に絞ることの意味

専任専属契約(専任契約、独占的契約などとも呼ばれます)とは、契約期間中、依頼者が他の仲介会社・FAに同じ案件の支援を依頼することを制限する取り決めです。多くの場合、依頼者が譲受候補先と直接交渉することについても、一定の制限が置かれます。

なぜ専任が求められるのか

仲介会社の側からすると、専任には相応の理由があります。M&Aの支援は、企業概要書の作成、譲受候補先のリストアップと打診、面談の設定、条件の調整と、成約前に多くの工数を要します。にもかかわらず、報酬の大部分は成約時にしか発生しません。他社と並行して進められると、その工数が回収できないまま終わる可能性が高まります。

依頼者側にとっても、専任には利点があります。複数の仲介会社が同じ案件を市場に持ち込むと、同じ譲受候補先に別ルートから重複して打診が届くことがあります。これは「あの会社は売り急いでいる」という印象を与えかねず、交渉上不利に働くだけでなく、情報が広く出回るという秘密保持上のリスクも高めます。中小企業のM&Aにおいて、情報管理は取引の成否を左右する要素です。この点は「M&Aの秘密保持|情報漏洩を防ぐノンネーム・NDAの実務」もあわせてご覧ください。

専任を結ぶ前に確認したいこと

一方で、専任は「この会社に任せる」という決断です。締結にあたっては、次の点を確認しておきたいところです。

  • 契約期間と自動更新の有無:期間が長すぎないか、自動更新の場合に解約の意思表示をどう行うか
  • 中途解約の条件:解約できるか、その場合に違約金や既払費用の精算が生じるか
  • 進捗報告の頻度と内容:どの候補先に、いつ、どのような形で打診したかを報告してもらえるか
  • 直接交渉の制限の範囲:従前から取引のあった相手や、自ら見つけた相手はどう扱われるか
  • 専任の対象範囲:会社全体か、特定の事業か

特に重要なのが、進捗報告です。専任である以上、依頼者は他の選択肢を止めた状態で待つことになります。活動状況が見えないまま時間だけが過ぎる状態を避けるためにも、報告の頻度と内容を契約前に確認しておくことをおすすめします。

中小M&Aガイドライン(第3版)が求めていること

こうした契約条件のあり方については、中小企業庁が策定した「中小M&Aガイドライン」が指針を示しています。同ガイドラインは令和6年8月に改訂され、現在は第3版が最新です。改訂では、仲介者・FAの行動指針が具体化され、依頼者保護の観点が一段と強められました。

専任・テールに関して、ガイドラインが求めている考え方の要点は次のとおりです。

  • 重要事項の事前説明:仲介契約・FA契約の締結に先立ち、手数料の体系・金額、業務の範囲、契約期間、依頼者の義務、そしてテール条項の有無と内容といった重要事項について、書面を交付したうえで説明すること
  • テール期間の限定:テール期間は無制限とせず、最長でも2年〜3年以内を目安とすること
  • テール対象の限定:テールの対象を、当該仲介者・FAが関与・接触し、譲り渡し側に紹介した相手先に限定すること。ロングリスト/ショートリストやノンネーム・シート(ティーザー)の提示にとどまる場合は対象とせず、少なくともネームクリア(譲受候補先に企業概要書を送付し、譲り渡し側の名称を開示すること)が行われた相手先に限ること
  • 専任条項に関する説明:専任とする場合はその趣旨と範囲、依頼者が負う制限の内容を明確に説明すること。また、依頼者が他の支援機関に意見を求めること(セカンドオピニオン)を過度に制限しないこと
  • 解約に関する説明:契約の終了・解約の条件を明示すること

上記のテール期間・テール対象の文言は、中小企業庁がM&A支援機関登録制度で定める遵守宣言の様式に沿ったものです。当社が宣言した全文は中小M&Aガイドライン遵守宣言のページに掲載しています。

ガイドラインは法令そのものではありませんが、中小企業庁のM&A支援機関登録制度において、登録支援機関はガイドラインの遵守を宣言することが求められています。したがって、支援を依頼しようとする会社が登録支援機関であるか、遵守宣言を公表しているかは、確認しやすい判断材料のひとつです。当社の遵守状況は中小M&Aガイドライン遵守宣言のページで公表しています。

※ 本稿は仲介契約に関する一般的な考え方をご紹介するものであり、個別の契約に関する法務アドバイスではありません。契約条項の解釈や効力は、契約全体の記載や個別の事情によって異なります。ご不安がある場合は、署名される前に弁護士等の専門家にご確認ください。

セカンドオピニオンの位置づけ

「専任契約を結んだら、他の誰にも相談してはいけないのか」——よくいただくご質問です。

ここで区別しておきたいのは、「他社に案件の支援を並行して依頼すること」と「第三者に意見を求めること」は別だという点です。前者は専任条項が制限しようとしているものですが、後者、すなわちセカンドオピニオンは、依頼者が納得して意思決定を行うための正当な行為です。中小M&Aガイドラインも、依頼者が他の支援機関に相談することを不当に妨げないよう求める趣旨に立っています。

セカンドオピニオンを求める先としては、次のような選択肢があります。

  • 顧問税理士・公認会計士(財務・税務面の妥当性)
  • 弁護士(契約条項のリーガルチェック)
  • 事業承継・引継ぎ支援センター(公的機関としての中立的な見解)
  • 他のM&A支援機関(手数料水準や進め方についての一般的な意見)

もっとも、セカンドオピニオンを求める際には、秘密保持への配慮が欠かせません。案件の詳細や譲受候補先の名称を広く共有することは、情報漏洩のリスクを高めます。必要な範囲に絞って相談する、相談先とも秘密保持の取り決めを行う、といった慎重さは必要です。誰に相談するかという入り口の考え方については「M&Aは誰に相談すべきか|銀行・税理士・仲介会社の違いと使い分け」もご参照ください。

そして、そもそも契約を急がされること自体に、慎重になっていただきたいと思います。「今日中に決めていただければ」といった形で判断を迫られる場面では、一度持ち帰り、契約書を専門家に見てもらう時間を確保する——それは依頼者として当然の権利です。

まとめ|契約前に確認したいチェックリスト

仲介契約は、M&Aの入り口であると同時に、その後の選択肢の幅を決める契約でもあります。署名の前に、少なくとも次の点を確認しておかれることをおすすめします。

  • 手数料の体系(着手金・中間金・月額報酬・成功報酬)と算定基準、総額の目安
  • 専任専属の有無と範囲、直接交渉が制限される相手先の範囲
  • 契約期間、自動更新の有無、中途解約の可否と条件
  • テール条項の有無、テール期間の長さ、対象となる相手先の特定方法
  • 契約終了時に、テール対象先の一覧を書面で交付してもらえるか
  • 進捗報告の頻度と内容
  • 秘密保持の範囲、情報を開示する相手の限定
  • 中小M&Aガイドライン(第3版)の遵守を宣言しているか、M&A支援機関に登録しているか
  • これらについて、書面の交付を受け、口頭でも説明を受けたか

当社プラチナパートナーズは、中小M&Aガイドライン(第3版)を遵守し、契約締結前に重要事項を書面と口頭の双方でご説明しています。テール条項についても、期間を限定し、対象を当社が関与・紹介した譲受候補先に限定したうえで、契約前に内容を明示しています。仲介会社を選ぶ際の視点は「M&A仲介会社の選び方|失敗しない7つのチェックポイント」でも整理していますので、あわせてご覧ください。

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M&Aの相談の入り口で差し出される仲介契約書。専任専属契約は他社への並行依頼を制限し、テール条項は契約終了後の成約にも手数料が発生する定めです。それ自体は合理的な仕組みですが、期間・範囲・中途解約の条件は署名前に確認を。詳しくはコラムへ。

動画の書き起こしを読む

相談の入り口で、では、こちらにご署名を。多くの経営者が経験する場面です。サインの前に、見ておく4行があります。

仲介契約で決まるのは、業務の範囲、着手金や成功報酬などの手数料、そして契約期間と、中途解約できるかどうかです。

専任契約は、他社への並行依頼を制限する定め。同じ買い手に重複して打診が届くのを防ぐ、合理的な仕組みです。ただ、期間、自動更新、中途解約の条件は、先に確認したい。

テール条項は、契約終了後に、紹介先と成約しても手数料が発生する定め。抜け駆け防止のためで、それ自体は合理的。問題は、期間と対象先が限定され、事前に明示されているかです。

専任を結んでも、セカンドオピニオンは正当な行為です。当社は、着手金も専任の強制もありません。

※ 動画は一般的な例で説明しています。当社の手数料は、相談料・着手金・月額報酬0円、基本合意の締結時に成功報酬額の10%を中間金として申し受け(成約時の成功報酬から全額を差し引いてご請求しますが、基本合意後に不成立となった場合の返金はいたしません)、成功報酬は移動総資産レーマン方式(基準額=株式価値+負債総額)・最低2,000万円(税別)です。詳しくは料金体系をご覧ください。

この記事の内容について、無料でご相談いただけます。 相談料・着手金・月額報酬は0円。売ると決めていない段階のご相談も承っています。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら

よくあるご質問

A.一度持ち帰り、契約書を専門家に見てもらう時間を確保することは、依頼者として当然の権利です。「今日中に決めていただければ」といった形で判断を迫られること自体に、慎重になっていただきたいと思います。中小M&Aガイドライン(第3版・令和6年8月)は、契約締結に先立ち、手数料の体系と金額、業務の範囲、契約期間、依頼者の義務、テール条項の有無と内容を、書面を交付して説明することを求めています。
A.テール条項があること自体が問題なのではなく、範囲と期間が限定され、事前に明示されているかどうかが問題です。確認すべきは、テール期間の年数が明示されているか、対象がその支援機関が実際に関与・紹介した先に限定されリストで特定されるか、契約終了時に対象先の一覧を書面で交付してもらえるか、手数料の算定方法が明示されているかです。適切に設計されていれば、依頼者の利益にもつながります。
A.だからこそ、進捗報告の頻度と内容を契約前に取り決めてください。専任である以上、依頼者は他の選択肢を止めた状態で待つことになります。どの候補先に、いつ、どのような形で打診したかを報告してもらえるかは必ず確認してください。あわせて契約期間と自動更新の有無、中途解約の条件、直接交渉が制限される相手先の範囲、専任の対象範囲も確認しておきます。

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中小M&Aガイドライン(第3版)遵守。重要事項は契約前に書面でご説明します。
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