「◯億円でいかがでしょうか」。この数字が高いのか安いのかは、前提を見ないと分かりません。受け取ったときに確認すべき項目を整理します。
まず、確定か暫定かを確認する
最初に聞くべきことです。この金額は、確定した提示なのか。
多くの場合、デューデリジェンスの前の提示は暫定です。「開示された資料に基づく暫定的なもので、調査の結果により変動する」という前提が付いています。
逆に、調査後の提示は、より確定に近いものになります。
ここを取り違えると、期待値が狂います。暫定の数字を確定と受け取り、後から下がって「話が違う」となる。
書面に前提条件が書かれているかを必ず確認してください。
どの数字を使ったかを聞く
算定の出発点を確認します。
どの期の決算を使ったか。直近期か、3期平均か。
営業利益か、経常利益か、EBITDAか。
調整はしたか。役員報酬、地代家賃、保険料。何をいくら調整したのか。
この確認が重要な理由は、調整の内容によって、こちらから主張できる余地が見えるからです。
「役員報酬を1,200万円に置き換えた」と言われたら、後任にその水準で務まるのかを検討できます。
倍率の根拠を聞く
実務では、利益に一定の倍率をかける方法がよく使われます。
「EBITDAの◯倍」「営業利益の◯年分」。
このとき、なぜその倍率なのかを聞いてください。
買い手の投資回収の考え方、業種の一般的な水準、過去の自社の買収実績。根拠があるはずです。
ただし、公表された相場は存在しません。業種別のマルチプル倍率が公表値として存在するわけではないため、「相場は◯倍のはずだ」という反論は根拠になりません。
聞くのは、相手の考え方を知るためです。
純資産の扱いを確認する
価格の構成要素として、純資産をどう見ているかを確認してください。
収益力に基づく評価に純資産を加えるのか、純資産を基礎に営業権を加えるのか、純資産は考慮していないのか。
とくに、現預金の扱いは重要です。会社に厚い現預金がある場合、それが価格に反映されているか。
また、借入金をどう見ているか。純有利子負債を控除しているか。
ここが曖昧なまま交渉すると、後から「そういう意味ではなかった」となります。
対価の内訳を確認する
総額だけでなく、中身を確認してください。
株式の譲渡代金はいくらか。
役員退職金は含まれているか。「総額◯億円」の中に退職金が入っている場合と、別枠の場合があります。税負担が変わります。
全額がクロージング時に支払われるか。分割、業績連動(アーンアウト)、エスクローの有無。
手取りで比べると、順位が変わることがあります。総額が高くても、後払いが多ければ確実性が下がります。
税理士に、手取りの試算を依頼してください。
何が価格を下げる要因と見られているか
聞きにくいことですが、聞く価値があります。
「評価にあたって、懸念された点はありますか」。
答えとして出てくるのは、取引先の集中、キーマンへの依存、設備の老朽化、労務の未整備、業績の変動といった項目です。
これが分かれば、対応できます。説明で解消できるものもあれば、実際に整備すべきものもあります。
また、次の買い手に対しても同じ指摘が出ます。先に知っておく価値があります。
「なぜこの金額なのか」を理解することが、交渉の出発点です。
価格以外の条件も同時に見る
金額だけで判断しないでください。条件とセットです。
従業員の雇用。期間、労働条件の維持。
社名・ブランド。残すのか。
売り手の引き継ぎ期間と処遇。
表明保証と補償の範囲。上限額、請求期間。これは実質的に価格の一部です。補償の上限が総額の100%なら、最悪の場合すべて返すことになります。
クロージングの時期。
2社から同額の提示があっても、条件で大きく差がつきます。
その場で返事をしない
実務上の作法です。提示を受けた場で、受諾も拒否もしないでください。
「ありがとうございます。持ち帰って検討します」で構いません。
理由は2つ。冷静に計算する時間が要ること。そして、その場の反応が交渉材料になることです。
喜びすぎれば「もっと下げられたか」と思われ、露骨に落胆すれば「この程度では無理か」と読まれます。
感情を出さず、質問をしてください。前提、算定方法、内訳。質問をすること自体が、真剣に検討している姿勢として伝わります。
自分でも計算しておく
最後に、根本的な準備です。提示を受ける前に、自分でおおよその水準を計算しておいてください。
正常収益力(調整後の営業利益)がいくらか。純資産がいくらか。借入がいくらか。
この3つが分かっていれば、提示された金額が想定の範囲かどうかは判断できます。
持っていなければ、高いか安いかを、感情で判断することになります。
当社では、簡易な企業価値の試算を無料でご提供しています。企業価値の簡易算定もご利用ください。数字を持ってから交渉に入ってください。