日本の造船業には、ふつうの「衰退産業」とは違う特徴があります。需要が国内にあるのに、それを造る能力が足りていないのです。
国土交通省の資料によれば、日本の建造量は2019年の1,600万総トンから2024年の900万総トンへ。一方、日本船主の発注は1,200万総トン前後で推移しています。本稿ではこの構造を確認します。
本稿の数値は国土交通省海事局船舶産業課「造船業の現況と造船業再生ロードマップについて」(2026年1月)によります。増減率は本稿で算出しました。制度・税務・法務の取り扱いはご状況により異なりますので、実際のご判断にあたっては顧問の専門家にもご確認ください。
建造量は5年で44%減った
国土交通省海事局船舶産業課「造船業の現況と造船業再生ロードマップについて」(2026年1月)によれば、我が国造船業の建造量は減少傾向が続いています。
| 建造量 | |
|---|---|
| 2019年 | 1,600万総トン |
| 2024年 | 900万総トン |
| 5年間の増減 | △700万総トン(△43.8%) |
出典:国土交通省海事局船舶産業課「造船業の現況と造船業再生ロードマップについて」(2026年1月)より作成
5年で4割以上減りました(増減率は本稿で算出)。
世界に目を移すと、構図がはっきりします。同資料によれば、中国は2024年の世界の建造量のうち約50%を建造しており、受注では世界の7割超を占めています。同資料は「今後もシェアは拡大すると見込まれる」「市場支配力を強めている」と記しています。
日本のシェアは15〜16%で推移しています。2020年にかけて受注量・シェアが減少したあと、その水準にとどまっている形です。
国内の需要に届いていない
ここがこの産業の特異な点です。
同資料によれば、日本船主は竣工年ベースでおおむね1,200万総トン前後の船舶を発注しています。ところが2020年以降、日本の造船所の建造能力はおおむね1,000万総トン前後にとどまります。
同資料はこの状況を「我が国船主の1年間の造船需要を下回り、海外の造船所に頼らざるを得ない状況」と表現しています。
実際、2022年以降、日本船主による中国造船所への発注が大きく増加し、全体の3〜4割程度に達しています(2010年代後半はより低い水準でした)。
需要はある。造る場所が足りない。衰退というより、供給側が縮みすぎた結果というほうが実態に近い形です。
官民で1兆円規模の投資という方向
この状況を受けて、政策の方向も変わっています。
同資料によれば、「造船業再生ロードマップ」に基づき、2035年までに官民で1兆円規模の投資実現を目指すとされています。
造船は、船体を組む造船所だけで成り立つ産業ではありません。エンジン、推進器、電装、艤装、塗装、配管。多数の舶用工業と協力会社が層をなして支えています。
建造量が4割減った期間に、この層も細ってきました。投資で建造能力を戻そうとするとき、設備より先に、担い手が足りるかが問われます。
この構図は、承継を考える事業者にとって重要です。縮小のなかで手放すのではなく、能力が求められている局面で引き継ぎ手を探す——同じ承継でも、置かれている状況が違います。
もう一点、造船特有の事情があります。船は一隻ずつ違うということです。
同じ型式の船でも、船主の要望で仕様が変わります。量産品のように工程を固定できないため、設計と現場の擦り合わせが常に発生します。この擦り合わせを担えるのは、長く現場にいる人です。
建造量が5年で4割減るあいだ、この層の採用は細りました。設備は資金があれば戻せますが、技能は戻すのに年単位の時間がかかります。1兆円規模の投資という方向が示されても、それを受け止める人が揃うかどうかは別の問題として残ります。
承継のときに見られる点
造船・舶用の事業で、評価の目は次のようなところに向きます。
- 元請の造船所か、舶用機器メーカーか、協力会社か。層のどこにいるかで、事業の性質も取引の安定度も変わります
- ドックと岸壁の権利。造船所であれば、水面の占用許可や港湾施設の使用許可が関わります。土地だけでは事業が成り立ちません
- 技能者の年齢構成。溶接、ぎょう鉄、配管、塗装。いずれも育成に時間のかかる技能です
- 外国人材の受入れ状況。この産業では受入れの実績が積み上がっています
- 受注残と船価。造船は受注から引き渡しまで年単位で、受注残の内容が数年先の収益を決めます
- 為替と鋼材価格。長期の契約では、この2つが利益を左右します
- 取引先造船所への依存度。舶用・協力会社では、特定の造船所に売上が偏っていないか
建造量が減るなかで、残った事業者には仕事が集まる局面にあります。ただし、それを受けられるだけの人と設備があるかどうかは別の話です。承継の相談が起きるのは、多くがこの境目です。
海運側は「内航海運・港湾運送業界の動向」、金属加工は「金属加工業界の動向」に整理しています。
この数字の読み方。資料の値は全国の合計で、公表時点までの集計です。造船所ごとの差は表れません。建造量が減っていることと、個々の事業者の受注状況が悪いことは別の話です。承継の検討では、全国の傾向ではなく、その事業者が抱える受注残の中身と納期、設備の更新時期、技能者の年齢構成をご確認ください。