内航海運は、鉄鋼・石油製品・セメントといった産業基礎物資を運ぶ、日本の産業を支える輸送手段です。港湾運送は、その海上輸送と陸上輸送をつなぐ結節点にあります。どちらも社会に不可欠でありながら、担い手と設備の高齢化という共通の課題を抱えています。公表資料をもとに整理します。
数字で見る内航海運業界の現在地
国土交通省海事局「内航海運の現状と課題について」(令和7年9月)によると、内航海運業界のうちオペレーター(運送事業者)は1,500者で、業界全体の99.7%が中小事業者です。船舶を所有するオーナーと、運送契約を担うオペレーターが分かれているという業界特有の構造も、この資料で示されています。
収益性については、同資料が法人企業統計調査(令和5年度)等をもとに、内航海運業の1社当たり平均の営業利益率が2.41%であるのに対し、全産業は4.6%であることを示しています。売上高は1社当たり平均3億2,520万円、営業利益は783万円です。また、荷主業界団体・内航海運業者へのアンケート調査(令和5年度)では、船価や船員費などの輸送に必要なコストが十分にまかなえていないという声が挙がっていることも記載されています。
輸送量については、2009年度のリーマンショック後はほぼ横ばいで推移していたものの、2020年度に感染症の影響で大きく減少し、取扱貨物量は感染症前の9割程度にとどまっているとされています。一方で、一部の輸送品目では海上輸送距離の増加により需給が逼迫するケースも存在すると同資料は指摘しています。
船員の高齢化と、船齢という時限装置
この業界で最も重い数字が、船員と船舶の年齢です。
同じ国土交通省の資料によると、内航貨物船の船員総数は2023年時点で21,502人です。2014年頃の19,893人からは緩やかに増加しており、近年は若年船員が増加傾向にあるとされています。しかし年齢構成を見ると、50歳以上が約5割を占めます。今後、生産年齢人口の減少が見込まれるなかで、船員の確保・育成と働き方改革による定着が課題であると同資料は述べています。
もうひとつが船齢です。同資料は、内航海運では船齢14年以上の船舶が全体の約7割を占めるとしています。船舶は建造にも更新にも多額の資金を要する資産であり、船齢の高い船隊を抱えることは、近い将来に大きな設備投資が必要になることを意味します。
船員の引退時期と、船舶の更新時期。この二つが重なると、事業の継続そのものが問われる局面になります。内航海運の事業承継が語られるとき、その背景にあるのはこの構造です。
港湾運送業|物流の結節点で起きていること
港湾運送は、港湾運送事業法において一般港湾運送・港湾荷役・はしけ運送・いかだ運送・検数・鑑定・検量の7事業に分類されています(国土交通省港湾局)。日本の物資の輸出入の99.6%が港湾を経由するとされ、その荷役を担うのがこの業界です。
国土交通省港湾局が2020年12月から翌年1月にかけて全国の港湾運送事業者を対象に実施し、2021年5月に公表した調査では、過半数の事務所で労働者の不足感があるとの回答があり、2025年頃および2030年頃の見通しについては63%の事業所が不足感があると回答しました。
また、厚生労働省提供データをもとに国土交通省が集計したところ、港湾荷役作業員の有効求人倍率は4.23倍で、全産業の1.47倍、自動車運転者の3.08倍と比べても際立って高い水準にあります。就職先として選ばれにくい理由としては、労働環境(暑さ・寒さ等)、土日祝日勤務があること、魅力的な職種と思われていないこと、認知度が低いことが上位に挙げられました。女性職員の割合も4%と低い水準にとどまります。
これらの課題に対し、国土交通省港湾局は2022年7月に「港湾労働者不足対策アクションプラン」を策定し、官民一体での取組を進めています。
制度と取引環境の動き
内航海運では、運賃・用船料の適正な収受に向けた取組が進められています。国土交通省海事局は「内航海運業者と荷主との連携強化のためのガイドライン」を整備し、運賃・用船料算出にあたっての「標準的な考え方」の検討を進めています(令和7年9月時点の同省資料)。同資料に示されたアンケート結果では、運賃における費用負担の明確化についておよそ8割が「進んでいない」と回答し、用船料についても約4割の事業者が提供作業の分担と対価が不十分だと回答しています。
また、物流全体では「物資の流通の効率化に関する法律」(改正物流効率化法、令和6年5月15日公布)が令和7年4月1日および令和8年4月1日の二段階で施行されます。荷主を含めた効率化の取組が制度として求められる流れは、海上輸送にも影響します。
取引環境の改善は、単なる値上げの話ではありません。船員の労働環境を整え、船舶を更新できる収益を確保できるかどうかという、事業の持続可能性そのものに関わる問題です。
事業承継の観点|許可・船舶・船員の三点
帝国データバンクの2025年調査では、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。内航海運・港湾運送のように資本集約的で、かつ有資格者が不可欠な業種では、承継の遅れが設備の陳腐化と人材の流出を同時に招きかねません。
整理しておきたい論点は次のとおりです。
- 許可・登録の種別——内航海運業法に基づく登録・届出、港湾運送事業法に基づく許可のいずれを保有しているか。株式譲渡であれば法人が存続するため一般に維持されますが、事業譲渡では譲受側の許可・登録の保有が前提となるのが通常です。
- 船舶——保有船か用船か、船齢、船種、次回の定期検査時期、船舶に付されている担保、造船所との関係。船齢構成は、そのまま将来の投資計画になります。
- 船員——在籍数、年齢構成、海技免状の種類と級、船舶職員として必要な配乗を満たせているか。船員法・船員労働安全衛生規則への対応状況も確認対象です。
- 荷主・オペレーターとの契約——長期の運送契約や用船契約があるか、契約期間と更新条件、支配株主の変更に関する条項の有無。
- 港湾運送の場合の設備——荷役機械、はしけ、上屋の保有状況と更新時期、港湾ごとの許可の範囲。
許認可の扱いはスキームによって大きく変わりますので、「M&Aで許認可はどうなるか」もあわせてご確認いただき、実行にあたっては所管の地方運輸局・港湾管理者および専門家にご相談ください。倉庫や陸上輸送とあわせて事業を営んでおられる場合は「倉庫・物流会社のM&A」、譲渡前の準備は「会社の磨き上げ」もご参照ください。
まとめ|設備と人が動いているうちに
内航海運も港湾運送も、日本の産業と生活を支える基幹的な機能でありながら、担い手と設備の高齢化という共通の課題を抱えています。船員の5割が50歳以上、船齢14年以上が7割という数字は、いまこの瞬間にも進行している時間の問題です。
船が動き、船員が乗り組み、荷主との契約が続いている——その状態であれば、事業には引き継ぐ価値があります。船を減らし、契約を返上してからでは、選べる道は限られます。設備投資の判断に迷われている段階こそ、選択肢を並べて考える好機です。
当社プラチナパートナーズは、成功報酬型のもと、海運・港湾運送を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。船舶・許認可・船員体制の整理から、守秘義務を徹底のうえ対応いたします。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。