買収して2年、赤字が続いている。追加で資金を入れるか、手を引くか。最も判断しにくい局面です。切り分け方と、決めるための基準を整理します。

まず、原因を3つに分ける

対応が変わるため、最初に切り分けてください。

① 買収前から構造的に赤字だった。市場が縮んでいる、価格競争に負けている、コスト構造が合っていない。デューデリジェンスで見抜けなかった、あるいは織り込んで買った。

② 買収によって悪化した。キーマンが辞めた、取引先が離れた、現場の士気が下がった、やり方を変えすぎた。

③ 一時的な要因。大口の失注、原材料の高騰、設備の故障、災害。

③なら待てます。②なら直せます。①が最も重い。

原因を特定せずに資金を入れるのが、最も損失を大きくします。

数字で見る順序

原因を特定する手順です。

売上を分解する。取引先別、商品別、月別。どこが減ったのか。

粗利率を見る。売上が同じでも粗利が落ちていれば、値引きか原価上昇です。

固定費を見る。人件費、地代、リース。買収後に増えたものはないか。本社からの管理料、出向者の人件費。

買収前の3期と比べる。何が変わったかが、これで見えます。

そして、現場に聞く。数字に出る前の変化は、現場が知っています。

立て直しにかけてよい期間

期限を決めてください。「もう少し」を繰り返すのが、最も損失を大きくします。

目安として、原因の特定に3か月、対策の実行に6〜12か月、効果の確認に6か月。全体で2年程度が一つの区切りです。

そして、投じてよい資金の上限も決めてください。追加の運転資金、設備投資、人件費。

「いくらまでなら入れるか」を、赤字が出た時点で決める。

決めておかないと、既に投じた金額が惜しくなり、判断が歪みます。過去の支出は戻りません。これから先だけで判断してください。

立て直しの優先順位

手をつける順序です。

① 資金繰りを止めない。これが最優先。借入の条件変更、支払いの調整、遊休資産の売却。

② 赤字の取引をやめる。原価を割っている取引。ただし、固定費の回収を担っている場合は慎重に。

③ 固定費を見直す。使っていない設備、過大な賃料、不要なリース。

④ 人件費。最後に手をつける。着手すれば、残る人も辞めます。

⑤ 売上を戻す。時間がかかります。

①〜③で止血し、その間に⑤を進めるのが基本の形です。

追加投資の判断

「あと少し資金を入れれば黒字化する」——この判断を、感覚でしないでください。

確認すべきは3点です。

黒字化の道筋が、数字で書けるか。売上をいくら、原価をいくら下げれば、いつ黒字になるか。

その前提は現実的か。「売上が2割戻れば」という前提に、根拠があるか。

実行する人がいるか。計画があっても、動かす人がいなければ実現しません。

3つとも揃わないなら、追加投資は先送りにすぎません。

撤退の選択肢

手を引く場合、方法は複数あります。清算だけではありません。

① 第三者に再売却する。事業に価値があれば、買い手がつきます。赤字でも売れる会社はあります。

② 事業の一部を譲渡する。黒字の部門だけを売り、残りを整理する。

③ 前経営者に戻す。稀ですが、成立することがあります。

④ 従業員に承継する。MBO・EBOの形。

⑤ 清算する。最後の手段。従業員の雇用が失われます。

①〜④のほうが、回収額も大きく、関係者への影響も小さい。早く動くほど選択肢が多く残ります。

再売却するなら早く

①を選ぶ場合の実務です。

赤字が深くなるほど、売りにくくなります。債務超過になれば、さらに難しい。

したがって、立て直しの見込みが立たないと判断した時点で、並行して買い手を探すのが実際的です。

示すべきは、赤字の原因と、それが構造的でないこと。あるいは、買い手側で解決できる性質のものであること。

「うちでは回せなかったが、同業なら回せる」という説明が成り立つ場合があります。拠点として、顧客として、人材として。

会社としては赤字でも、部分には価値があります。

会計と税務の影響

判断の前に、財務への影響を確認してください。

のれんの減損。買収価格が純資産を上回っていた場合、その差額はのれんとして計上されています。当初想定した収益が見込めなくなれば、減損の検討が必要になります。計上すれば、その期の損益に大きく響きます。

子会社株式の評価。個別財務諸表上の評価にも影響し得ます。

売却・清算時の損益。税務上の扱いは、方法によって変わります。

いずれも、会計士・税理士に早い段階で相談してください。「決算のときに考える」では、判断の材料が揃いません。

判断を先送りしないために

最後に、最も重要なことです。

撤退の判断は、決めておかないとできません。

投じた金額が惜しい、失敗を認めたくない、従業員に申し訳ない。すべて自然な感情です。だからこそ、感情が入る前に基準を決めておく。

買収の時点で、「こうなったら撤退を検討する」という線を書面にしてください。累積赤字の額、債務超過、キャッシュフローの継続的なマイナス。

そして、その判断を一人でしないこと。取締役会に諮る仕組みにしておけば、その場の感情で決まりません。

撤退できる買い手だけが、次の買収に進めます。買収がうまくいかないときの型も併せてご覧ください。

※ 本稿は一般的な考え方をご紹介するものであり、個別の法務・税務アドバイスではありません。実際の取り扱いは会社の状況や契約の定めによって異なります。専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.原因を3つに分けてください。買収前から構造的に赤字だった、買収によって悪化した(キーマンの離職・取引先の離反・やり方の変えすぎ)、一時的な要因。原因を特定せずに資金を入れるのが、最も損失を大きくします。
A.原因の特定に3か月、対策の実行に6〜12か月、効果の確認に6か月で、全体2年程度が一つの区切りです。あわせて投じてよい資金の上限も決めてください。決めておかないと、既に投じた金額が惜しくなり判断が歪みます。
A.①資金繰りを止めない ②赤字の取引をやめる(固定費の回収を担っている場合は慎重に) ③固定費を見直す ④人件費(着手すれば残る人も辞めるため最後) ⑤売上を戻す、の順です。①〜③で止血し、その間に⑤を進めるのが基本です。
A.第三者への再売却、黒字部門だけの事業譲渡、前経営者に戻す、従業員への承継(MBO・EBO)、清算、の5つがあります。清算以外のほうが回収額も大きく関係者への影響も小さいため、早く動くほど選択肢が残ります。
A.買収の時点で「こうなったら撤退を検討する」という線を書面にしてください(累積赤字の額、債務超過、キャッシュフローの継続的なマイナス)。そして取締役会に諮る仕組みにしておけば、その場の感情で決まりません。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら