費用をかけて調査したのに、報告書に大きな指摘がない。良い会社だったのか、見つけられなかったのか。どちらかを見分ける観点を整理します。安心する前に確認すべきことがあります。
まず調査範囲を確認する
報告書を読む前に、何を調べたのかを確認してください。
財務だけだったのか、法務・労務・税務も入っていたのか。期間は何期分か。対象は本社だけか、全拠点か。子会社は含まれたか。
費用を抑えるために範囲を絞るのは合理的な判断です。ただし、絞った範囲の外に問題があっても、報告書には出ません。
報告書の冒頭には「調査の範囲と前提」が書かれています。結論より先に、ここを読んでください。
「限定事項」を読む
専門家の報告書には、必ず限定事項(ディスクレーマー)が付いています。
「提供された資料に基づいており、その真実性は検証していない」「実地の確認は行っていない」「◯◯については資料が入手できなかった」。
ここに、調べられなかったものが書いてあります。指摘が無いのではなく、見ていないのです。
「資料が入手できなかった」という記載があれば、その理由を確認してください。存在しないのか、出してもらえなかったのか。後者なら、それ自体が情報です。
小さい会社ほど出にくい
実務の感覚を申し上げます。規模が小さい会社ほど、指摘は出にくくなります。
取引の数が少なく、契約書が少なく、そもそも記録が残っていない。調べる対象が無いので、指摘のしようがないという状態です。
これは「問題が無い」ことを意味しません。口約束の取引、書面のない賃貸借、規程の無い労務。見えないだけです。
したがって、小規模な案件では書類の調査だけでなく、経営者へのヒアリングと現地の確認の比重を上げてください。
DDでは見えないもの
調査で分かることには限界があります。次は、報告書に出にくいものです。
キーマンが辞めるかどうか。本人の意思は資料に現れません。
取引先が継続するかどうか。契約書があっても、更新するかは相手の判断です。
社長個人の信用で成り立っている取引。帳簿上は普通の売上に見えます。
現場の士気と人間関係。離職率の数字には出ても、原因までは分かりません。
これらは、面談と現場訪問でしか掴めません。報告書に問題が無くても、ここを確認しないまま進めないでください。
指摘が無いことを契約でどう扱うか
DDで見つからなかったリスクは、契約で処理します。
表明保証。売り手に「簿外債務は存在しない」「未払いの残業代は無い」「重要な係争は無い」と表明してもらいます。
補償。表明保証に反する事実が後から判明した場合、売り手が損害を補償する。上限額と請求できる期間を定めます。
DDで何も出なかったからこそ、表明保証の重要性が上がります。調査で潰せなかった分を、契約で受け止める構造です。
期間は1〜2年、税務については更に長く取ることもあります。
補償が機能するかを確かめる
条項があっても、実際に回収できるかは別問題です。
売り手が個人で、譲渡代金を使ってしまっていたら、補償を請求しても支払能力がありません。
実務的な手当てとしては、エスクロー(譲渡代金の一部を第三者に預け、一定期間後に解放する)、支払いの分割、表明保証保険といった選択肢があります。
「表明保証を入れたから安心」ではありません。回収の実効性まで設計してください。
価格を上げる理由にはしない
ここは冷静に。「DDで問題が出なかったから、価格を上げます」という判断は不要です。
提示価格は、事業の収益力と資産の内容から算定したものです。問題が出なかったのは前提どおりだった、というだけです。
競合がいる場面で価格を上げる必要が生じることはありますが、それはDDの結果とは別の話です。混同しないでください。
追加で見るべきかの判断
指摘が無かったとき、追加調査をすべきかという判断があります。
次のいずれかに当てはまるなら、範囲を広げる価値があります。
利益率が同業と比べて不自然に高い。理由を説明できるか。
現預金が売上規模に比べて少ない。資金がどこへ行っているか。
特定の取引先への依存が高い。その取引の条件と継続性。
社長が答えを濁す論点がある。これが一番の手がかりです。
追加の費用はかかりますが、買収金額に対する比率で考えてください。
報告書は読み込む
最後に、当たり前のことを。報告書を、経営者自身が読んでください。
「問題なしと言われました」という報告だけを受けて決裁する、という形は避けるべきです。
専門家は、事実を整理して見せるのが仕事です。それを買うかどうかの判断は、経営者のものです。報告書には「これは判断を要する」と書かれた項目が必ずあります。
報告会には、決裁する人が出席してください。その場で質問すれば、書面に書かれていない温度感まで掴めます。買い手のデューデリジェンスも併せてご覧ください。