中小企業の買収では、金融機関との調整が実行日の直前まで残ることが少なくありません。論点は大きく二つあります。売主が会社の借入に対して負っている個人保証をどう外すか。そして、買い手が新たに保証や担保を求められるか。この二つは連動しており、どちらも早い段階から手をつけておかないと、実行日が動きます。本稿では、買い手の立場から調整の順序と段取りを整理します。売主側から見た論点は「経営者保証は外せるか|M&Aによる個人保証解除の実務」をご覧ください。

なぜ保証の論点が残るのか

会社の借入に対して経営者が個人で連帯保証を負っている場合、株式を譲渡しても、その保証契約が自動的に消えるわけではありません。保証契約の当事者は経営者個人と金融機関であり、株主が代わったことだけを理由に一方的に解除できる性質のものではないためです。

したがって、売主にとって保証の解除は譲渡の重要な条件になります。「解除されないなら譲らない」という判断は珍しくなく、買い手としても、ここを軽く扱うと交渉が終盤で止まります。

近年の環境

経営者保証に依存しない融資への取組みは進んでおり、金融庁の集計では、2024年度上期に民間金融機関の新規融資に占める経営者保証に依存しない融資の割合は52%とされています。事業承継の場面についても、前経営者と後継者の双方から二重に保証を求めない取扱いなどが求められる方向にあります。ただし、個別の判断は金融機関ごとに異なりますので、案件ごとに確認が必要です。

担保も併せて確認する

保証と同時に、担保の状況も確認します。会社の不動産に抵当権が設定されているのが通常ですが、経営者個人の自宅や個人所有の不動産が担保に入っている例もあります。この場合、譲渡後もその資産が会社の借入の担保であり続けるのかという論点が生じます。

調整の順序|いつ、誰に、何を

1. 借入と保証・担保の全体像を把握する(調査段階)

デューデリジェンスの早い段階で、次を一覧にします。

  • 借入の一覧(金融機関、残高、返済条件、期限)
  • 各借入に付されている保証人と担保
  • 担保に供されている資産の所有者(会社か、個人か)
  • 支配株主の変更に関する条項の有無(期限の利益喪失事由となっていないか)
  • 制度融資や保証協会の保証が付いている借入の有無

最後の二つは見落とされがちです。契約上、株主の変更が事前承諾事項とされている場合、無断で実行すると期限の利益を失うおそれがあります。

2. 方針を決める(基本合意前後)

借入をどう扱うかには、いくつかの選択肢があります。

  • そのまま維持し、保証人を売主から買い手側へ差し替える
  • そのまま維持し、保証を付さない形に切り替える
  • 買い手側で借り換え、既存の借入を返済する
  • 買収資金と合わせて一本化する

どれを選ぶかで、必要な資金額も、調整にかかる期間も変わります。資金計画と一体で考える必要があります。

3. 金融機関へ打診する(調査と並行)

打診の時期は慎重を要します。早すぎると譲渡の検討が広く知られてしまい、遅すぎると実行日に間に合いません。実務では、基本合意の締結後、売主の了解を得たうえで、売主または売主と買い手が同席する形で説明することが多く見られます。順序と伝え方は、仲介会社やアドバイザーと相談して決めてください。

4. 実行日に向けた段取り(最終契約前後)

保証の解除、担保の変更、借換えの実行は、株式の移転と同時またはその直後に行われるのが通常です。実行日に何が同時に起こる必要があるかを一覧にし、必要書類と手続の順序を関係者で共有しておきます。

買い手側に求められるもの

売主の保証を外す代わりに、買い手側に何かが求められることがあります。想定しておくべき形は次のとおりです。

求められうる形内容買い手の留意点
買い手企業による保証親会社として対象会社の借入を保証する自社の与信枠や財務指標に影響する。子会社が増えるほど累積する
買い手の経営者個人による保証買い手側の代表者が個人保証を負う個人の資産に直接影響する。求められる根拠を確認する
担保の差し替え売主個人の資産に代えて別の担保を提供する提供できる資産があるか、事前に整理する
財務制限条項一定の財務指標の維持を約する統合期の投資と両立するか確認する
借換え買い手側で新たに調達し、既存借入を返済する必要資金が増える。実行日までの調達完了が前提になる

個人保証を求められたときの考え方

買い手の経営者個人に保証を求められた場合、まずその必要性と、解除の条件を確認します。経営者保証に関する取扱いについては、法人と個人の資産・経理の分離、財務基盤の強さ、適時適切な情報開示といった要素が判断材料とされることが一般的です。求められる条件を満たす方向で体制を整えることが、中期的には自社の調達力にもつながります。

グループ全体で見る

買収を重ねる方針であれば、一件ごとの保証が積み上がっていきます。二件目以降を見据えて、どこまで保証を負う方針かをあらかじめ決めておくことをおすすめします。

契約と実務での定め方

最終契約での扱い

個人保証の解除は、金融機関の同意が必要な事項であり、当事者だけで完結しません。そのため、契約上は次のような形で定められることがあります。

  • 実行日までに保証が解除されることを、実行の前提条件とする
  • 解除に向けて双方が誠実に協力する旨の誓約を置く
  • 実行後一定期間内に解除されない場合の取扱い(買い手が売主を免責する等)を定める

前提条件とすると、解除できない場合に取引が実行できなくなります。現実的に解除の見込みがあるかを踏まえて設計する必要があります。定め方と効力については弁護士等にご確認ください。

担保に入っている個人資産

経営者個人の不動産が会社の借入の担保になっている場合、譲渡後にその状態を続けることは通常望ましくありません。担保の解除、別の担保への差し替え、借換えといった対応を、実行日までに完了させる段取りが必要です。金額と手続に時間がかかるため、把握したら早めに着手します。

取引先との保証・担保

借入以外にも、賃貸借契約の連帯保証、リース契約の保証、仕入先との取引に伴う保証など、経営者個人が負っている義務が残っていることがあります。借入だけを見て安心せず、契約の一覧から保証人欄を確認してください。契約の承継に関する論点は「チェンジオブコントロール(COC)条項とは|契約引き継ぎの落とし穴」も併せてご覧ください。

実行後の関係づくり

買収後は、対象会社の金融機関との関係を買い手が引き継ぐことになります。決算や事業計画の説明を早い段階から行い、統合の進捗を共有しておくと、その後の資金調達が円滑になります。買収後の資金繰りについては「買収後の資金繰り|運転資本と借入の引き継ぎで想定外を防ぐ」をご覧ください。

まとめ|保証は交渉ではなく段取りの問題

個人保証と担保の論点は、価格のように交渉で折り合う性質のものではなく、金融機関という第三者を含めた段取りの問題です。したがって、鍵になるのは早く把握して早く着手することに尽きます。借入と保証・担保の一覧を調査の早い段階で作り、扱いの方針を基本合意の前後で決め、打診の時期を売主と相談し、実行日に何が同時に起こるかを共有する——この流れを守れば、終盤で慌てることは減ります。

また、買い手側に求められる保証や担保は、自社の今後の調達力にも影響します。一件の案件の条件としてだけでなく、グループ全体の方針として考えておくことをおすすめします。

当社では、買収をご検討の企業さまのご相談を成功報酬型で承っており、相談料・着手金・月額報酬はいただいておりません。金融機関との調整の進め方もご一緒に整理します。買い手の方向けの案内は「買収をお考えの方へ」にまとめています。

本稿は一般的な考え方の整理であり、個別の税務・法務の判断を示すものではありません。具体的な取扱いについては、公認会計士・税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.自動的には外れません。保証契約は経営者個人と金融機関との間の契約であり、株主が代わったことだけを理由に一方的に解除できるものではないためです。実務では、金融機関との協議によって解除や保証人の差し替えを行い、その完了を最終契約の前提条件とするなどの手当てを行います。取扱いは金融機関や案件によって異なりますので、早い段階での確認が必要です。
A.早すぎると譲渡の検討が広く知られるおそれがあり、遅すぎると実行日に間に合いません。実務では、基本合意の締結後、売主の了解を得たうえで説明する形が多く見られます。誰が同席し、どこまで話すかも含めて、仲介会社やアドバイザーと相談して決めることをおすすめします。
A.交渉の余地はありますが、金融機関の判断によります。一般に、法人と個人の資産・経理が分離されていること、財務基盤が安定していること、適時適切な情報開示が行われていることなどが、保証を求めない判断の材料とされています。求められた場合は、必要性と解除の条件を確認したうえで、条件を満たす方向で体制を整えていく形が現実的です。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら