「会社を売却したら、私の連帯保証はどうなるのですか」——事業承継やM&Aのご相談で、必ずと言ってよいほどいただくご質問です。長年、金融機関からの借入れに個人保証を差し入れてきた経営者様にとって、保証から解放されるかどうかは、譲渡価格と同じくらい、あるいはそれ以上に切実な問題です。結論から申し上げると、M&Aは経営者保証を外す有力な機会になり得ますが、何もしなくても自動的に外れるわけではありません。本稿では、経営者保証の基本と公的なガイドラインの枠組み、そしてM&Aの実務で保証解除を実現するための進め方をご説明します。
経営者保証(個人保証)とは|中小企業に多い理由
経営者保証とは、会社の借入れについて経営者個人が連帯保証人になる慣行のことです。会社が返済できなくなった場合には、経営者が個人の資産で返済義務を負うことになります。
中小企業への融資では、法人と経営者個人の資産・経理が分離しきっていないことが多く、金融機関が信用を補完する手段として経営者保証を求めてきた経緯があります。その一方で、経営者保証には、思い切った事業展開をためらわせる、早期の事業再生や廃業の決断を妨げる、そして後継者候補が承継をためらう——といった弊害があることも、かねてから指摘されてきました。
とりわけ事業承継の場面では、「自分と同じように個人保証を背負わせるのは忍びない」という思いが、親族や従業員への承継をためらう大きな理由になっています。第三者への譲渡、すなわちM&Aが事業承継の選択肢として広がってきた背景には、この経営者保証の問題も深く関わっています。
「経営者保証に関するガイドライン」という枠組み
経営者保証をめぐっては、「経営者保証に関するガイドライン」という公的な準則が存在します。これは、日本商工会議所と全国銀行協会を事務局とする研究会が策定したもので、経営者保証に依存しない融資慣行の確立や、既存の保証契約の見直し・解除の考え方を示したものです。法的な強制力を持つものではありませんが、金融機関はこのガイドラインを尊重した対応を求められており、実務上の重要な拠り所となっています。実際に、金融庁の調べでは、民間金融機関の新規融資に占める「経営者保証に依存しない融資」の割合は2024年度上期に52%と初めて5割を超え、上昇傾向が続いています。
ガイドラインでは、保証に依存しない融資や保証解除を検討する際の観点として、おおむね次のような点が示されています。
- 法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されていること
- 法人の資産・収益力で借入金の返済が可能と判断できる財務基盤があること
- 金融機関に対し、財務情報が適時・適切に開示されていること
また、事業承継の場面に関しては、前経営者と後継者の双方から二重に保証を取ることを原則として求めないなど、承継時の対応に焦点を当てた特則も設けられています。M&Aによる第三者承継も広い意味での事業承継ですから、こうした枠組みの存在を知っておくことは、金融機関との交渉における足場になります。制度の詳細や最新の運用は変わり得ますので、具体的な適用については専門家や取引金融機関にご確認ください。
M&Aをすれば保証は自動的に外れるのか
ここが本稿で最もお伝えしたい点です。株式譲渡によって会社のオーナーが変わっても、前経営者の連帯保証が自動的に消滅するわけではありません。保証契約は、会社と金融機関との融資契約に付随する、保証人個人と金融機関との契約です。株主が交代しても、金融機関の同意なしに保証契約の内容が変わることはないのです。
したがって、経営者保証の解除は、M&Aの交渉の中で明確に取り決め、金融機関の同意を取り付けるべき「交渉事項」です。実務では、おおむね次のいずれかの形で決着させることを目指します。
- 保証の解除:金融機関が前経営者の保証を解除する(買い手の信用力を背景に、無保証への切り替えや買い手側での保証差し替えを行う)
- 借入金の返済(借り換え):クロージングと同時に対象会社の借入金を買い手側の資金で完済し、保証の前提となる債務自体を消滅させる
買い手が上場企業や財務基盤の厚い企業である場合、金融機関にとっても信用力は向上するため、保証解除や無保証での借り換えに応じてもらえる可能性は高まります。逆に、この論点を曖昧にしたままクロージングを迎えてしまうと、会社を手放した後も保証だけが残るという、最も避けるべき事態になりかねません。
保証解除までの一般的な流れと交渉のポイント
実務上、経営者保証の解除は次のような流れで進めることが一般的です。
①仲介会社への相談時に保証の状況を共有する
借入先ごとの残高と保証・担保の状況を早い段階で整理し、アドバイザーと共有します。保証解除を譲渡の条件として重視することを、初期段階から明確にしておくことが大切です。
②買い手候補との交渉で条件に織り込む
意向表明や基本合意の段階で、経営者保証の解除(または借入金の完済)を取引条件として盛り込みます。基本合意書(LOI)の位置づけについては「基本合意書(LOI)と最終契約書(SPA)の違いと注意点」をご参照ください。
③金融機関への打診・調整
M&Aには厳格な秘密保持が求められるため、金融機関への開示のタイミングは慎重に設計します。一般には、取引の確度が高まった段階で、買い手の信用情報とあわせて保証解除の相談を行います。
④クロージングと同時に解除・完済を実行する
最終契約に基づき、株式譲渡の実行と同時に保証解除や借入金完済の手続きを行い、解除を確認できる書面を金融機関から受領します。
最終契約(SPA)での手当てと注意点
保証解除を確実なものにするため、最終契約書(株式譲渡契約書)には、買い手が保証解除に向けて負う義務を定める条項を置くことが一般的です。実務上は、クロージング後一定期間内に保証を解除させる義務や、万一解除が完了するまでの間に保証債務の履行を求められた場合に買い手が売り手に補償する旨の定めなどが検討されます。
また、次の点にもご注意ください。
- 金融機関の借入れだけでなく、不動産賃貸借や仕入取引、リース契約などに付された個人保証・担保提供も漏れなく洗い出す
- 経営者個人所有の不動産が会社の借入れの担保になっている場合は、担保の解除・差し替えもあわせて交渉する
- 「解除に向けて努力する」といった努力義務にとどまる条項か、結果まで約束させる条項かで、保護の強さが大きく異なる
契約条項の設計や法的な効果については、弁護士等の専門家に必ずご確認ください。当社では、こうした論点を初期段階から整理し、交渉の進め方を含めてサポートしています。後継者不在に伴う承継の全体像は事業承継・後継者不在の方へのページでもご案内しています。
まとめ|保証解除は「交渉して勝ち取るもの」
経営者保証は、M&Aを通じて解除できる可能性が十分にある一方、自動的に外れるものではなく、交渉と契約によって確保すべき条件です。ポイントは、①保証・担保の状況を早期に棚卸しすること、②保証解除を取引条件として買い手・金融機関との交渉に明確に織り込むこと、③最終契約書で解除の義務と万一の際の手当てを定めること、の三つに集約されます。
「借入れと保証があるから売却は無理だ」と諦める必要はありません。むしろ、信用力のある買い手への譲渡は、保証の重荷から解放される現実的な道になり得ます。売却後の経営者の歩みについては「会社売却後の経営者はどうなる?ロックアップ・引き継ぎ・その後の選択肢」もあわせてご覧ください。保証や借入れを含めた貴社の状況に応じた進め方は、無料相談にて丁寧にご説明いたします。
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会社を売却したら連帯保証はどうなるのか。株式譲渡でオーナーが変わっても、前経営者の保証契約は金融機関の同意なしには変わりません。保証解除はM&Aの交渉で明確に取り決め、最終契約で手当てすべき「交渉事項」。4つの手順を解説。詳しくはコラムへ。
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会社を売ったら、私の連帯保証はどうなるのか。必ず聞かれる質問です。答えは、自動では外れません。
保証契約は、会社と銀行の融資契約に付く、本人と銀行の契約。株主が代わっても、銀行の同意なしには変わりません。だから、交渉事項なんです。
流れは4つ。最初に、借入と保証を棚卸し。基本合意の段階で、解除を条件として明記。取引の確度が高まってから、銀行へ打診。そして、クロージングと同時に解除か完済です。
見落としがちなのが、銀行以外。賃貸借、仕入取引、リース契約。個人保証や担保提供を、漏れなく洗い出しましょう。
借入と保証があるから無理、と諦める必要はありません。
※ 動画は一般的な例で説明しています。当社の手数料は、相談料・着手金・月額報酬0円、基本合意の締結時に成功報酬額の10%を中間金として申し受け(成約時の成功報酬から全額を差し引いてご請求しますが、基本合意後に不成立となった場合の返金はいたしません)、成功報酬は移動総資産レーマン方式(基準額=株式価値+負債総額)・最低2,000万円(税別)です。詳しくは料金体系をご覧ください。
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