譲渡を考えていると銀行に伝えたら、明らかに歓迎されなかった。これは珍しいことではありません。反対の背景にあるものと、どう対処すべきかを整理します。感情的に対立しても、誰の得にもなりません。
銀行が気にしているのは3つ
難色の理由は、たいてい次のどれかです。
① 貸したお金が返ってくるか。経営者が代わることで、返済能力や方針が変わるのではないかという懸念です。
② 保証がどうなるか。現経営者の個人保証を外して、新しい保証を誰から取るのか。
③ 取引が続くか。買い手が別の銀行をメインにすれば、その融資は失われます。支店の業績に直結します。
いずれも銀行の立場としては当然の関心事です。敵意ではなく、こちらの事情として理解してください。
契約書に何が書いてあるか
まず確認すべきは、金銭消費貸借契約書と銀行取引約定書です。
株主や代表者の変更について、事前の承諾を要する、あるいは通知を要するという条項が入っていることがあります。いわゆるチェンジ・オブ・コントロール条項です。
この条項に触れると、形式的には期限の利益を失う(残額の一括返済を求められる)可能性があります。実際に一括請求されることは多くありませんが、契約上の根拠がある以上、無視して進めるわけにはいきません。契約書を確認せずに進めるのが最も危険です。
保証の話が実は中心
現経営者の個人保証が付いている場合、譲渡後にこれをどうするかが最大の論点です。
売り手は当然、外してほしいと考えます。会社を離れるのに保証だけ残るのでは話になりません。
銀行の側は、代わりの保証を求めます。買い手の代表者の保証、買い手企業の保証、あるいは担保の追加です。
経営者保証に関するガイドラインには事業承継時の特則があり、前経営者と後継者の二重徴求を原則としない方向が示されています。金融庁の公表では経営者保証に依存しない新規融資は2024年度上期で52%です。経営者保証の扱いも併せてご覧ください。
いつ伝えるか
タイミングの設計が重要です。
早すぎる。相手も決まっていない段階で伝えると、噂が広がるリスクがあります。銀行の担当者が異動すれば引き継ぎ資料に残ります。
遅すぎる。クロージング直前に伝えると、銀行は検討の時間がないまま判断を迫られます。心証は確実に悪くなります。
実務では、買い手が固まり、基本合意が見えてきた段階で、支店長クラスに伝えるのが一般的です。「相談する」という形で、決定事項として通告しないこと。これだけで反応が変わります。
誰に伝えるか
担当者だけに伝えても話は進みません。融資の判断をする立場の人に届く形で伝えてください。
支店長への面談を申し入れる、というのが素直な進め方です。買い手の概要(業種・規模・方針)、譲渡後の借入の扱い、保証の希望を持参します。
買い手が決まっているなら、買い手と一緒に挨拶に行くこともあります。買い手の財務内容が良ければ、銀行の懸念はそれで解ける場合があります。顔が見えると、話が早く進みます。
用意しておく資料
面談の場で聞かれることは、ほぼ決まっています。先に用意しておくと話が早く進みます。
買い手の概要。商号、業種、規模、決算の概況、譲渡後の方針。開示の範囲は買い手の同意を得たうえで決めます。
借入の一覧。どの銀行にいくら、担保と保証は何が付いているか。他行の残高も含めた全体像を持参してください。自行分しか見えない状態では、銀行も判断できません。
譲渡後の資金繰りの見通し。返済原資が維持されることを、数字で示します。「大丈夫です」という言葉では、稟議が書けません。銀行の担当者が社内で説明できる材料を渡す、という発想で臨んでください。
それでも反対された場合
銀行が最後まで難色を示す場合の選択肢です。
借入を返済する。クロージング時の譲渡代金で完済してしまえば、銀行の関心事は消えます。買い手が別の銀行から調達するケースもあります。
買い手側の銀行に借り換える。買い手のメイン銀行が引き受ければ、そちらへ移ります。
条件を交渉する。担保の追加や返済期間の見直しで折り合うこともあります。
銀行に拒否権があるわけではありません。株式を誰に売るかは株主の判断です。ただし、関係を壊せば後々の資金調達に響くため、着地点を探すほうが実際的です。
銀行から買い手を紹介された場合
逆のパターンもあります。譲渡の意向を伝えたところ、銀行が自ら買い手候補を紹介してくるケースです。
悪い話ではありません。地元の事情に通じており、財務内容も把握しています。
ただし、その候補だけで決めないでください。比較対象がない状態では、条件が適正かどうか判断できません。断ったときの関係を気にされる方もいますが、複数を比較するのは当然の手順です。紹介を受けつつ、並行して他の候補も見る。これが健全な進め方です。