買収資金の相談をいただくと、「公的な制度は使えないのか」というご質問をよくいただきます。国や自治体には事業承継やM&Aを後押しする制度がいくつかありますが、それらは民間の融資を置き換えるものではなく、組み合わせて使うものです。本稿では、公的な制度の性格と限界、民間融資との役割分担、そして活用を検討するときに押さえておくべき点を整理します。制度の内容は時期によって変わりますので、最新の情報は必ず各機関の公式な案内でご確認ください。

公的な制度は「置き換え」ではなく「補完」

まず前提として押さえておきたいのは、公的な融資や補助制度が、買収資金の全額を賄う仕組みではないということです。金額にも要件にも枠があり、審査もあります。「公的な制度があるから資金は何とかなる」という前提で案件を進めると、決済の直前に足りないことが分かって困ることになります。

公的な制度の役割は、民間の融資では届きにくい部分を補うことにあります。たとえば、実績の少ない買い手や、担保余力の乏しい会社にとって、民間だけでは調達が難しい場面があります。そうした場面で選択肢を増やすのが、公的な仕組みの意義です。

したがって、資金計画の組み立ては「自己資金と民間融資でどこまで組めるか」を先に固め、そのうえで公的な制度で補える部分を検討する、という順序が実務的です。逆の順序で組むと、制度の要件に合わせて案件のほうを曲げることになり、無理が生じます。

もう一つ、時期の問題があります。公的な制度は申請から結論まで一定の時間がかかり、補助金には公募期間があります。買収の決済日は相手のある話ですから、制度の時期に合わせて決済を待ってもらうのは容易ではありません。この時間軸のずれが、実務では最も大きな制約になります。

政府系金融機関と制度融資の性格

政府系金融機関は、民間金融機関を補完する役割を担う機関です。事業承継やM&Aに関連する資金についても取扱いがあり、案件によっては民間と協調して融資が組まれることもあります。取扱いの有無、対象となる資金の使途、金額や期間の条件は制度ごとに定められていますので、具体的な適用可否は直接ご確認ください。

自治体が設ける制度融資も選択肢の一つです。地域の金融機関と連携し、信用保証の仕組みを使って資金を供給するもので、利子や保証料の補助が付く場合もあります。対象や条件は自治体ごとに異なり、変更もありますので、事業所の所在する自治体の案内でご確認ください。

いずれについても、審査で見られる点は民間融資と大きく変わりません。事業としての妥当性、返済原資の確かさ、買い手の経営能力。制度の枠に当てはまるかどうかは入口の話であって、通るかどうかは中身次第です。

また、公的な融資であっても、保証や担保が求められる場合があります。経営者保証に依存しない融資の取り組みは広がっており、金融庁の公表によれば、経営者保証に依存しない新規融資の割合は2024年度上期に52%となっていますが、個別の案件でどうなるかは交渉と判断によります。条件は必ず個別にご確認ください。

事業承継・M&A補助金の使い方と限界

事業承継やM&Aに関する国の補助制度として、事業承継・M&A補助金があります。M&Aに伴う専門家費用などが対象となる枠が設けられており、買い手が活用できる場合もあります。ただし、公募の時期、対象となる経費の範囲、補助率や上限額、申請の要件は年度によって変わりますので、活用を検討する際は必ずその時点の公募要領をご確認ください。

補助金を検討するときに理解しておくべき性質が三つあります。

  • 原則として後払い——先に支出し、事後に報告して支給を受けるのが基本。決済時点の資金繰りは別途手当てが必要
  • 公募期間がある——いつでも申請できるわけではなく、案件の時期と合うとは限らない
  • 採択される保証はない——申請すれば必ず受けられるものではない

したがって、補助金は「使えたら助かる」ものとして扱い、資金計画の前提には置かないことをおすすめします。採択を前提に価格を組んだ結果、不採択になって計画が崩れる——という事態は避けなければなりません。

申請には事業計画の提出が求められるのが通例で、その作成にも手間がかかります。DDや契約交渉と並行して進めることになりますので、社内の対応体制も含めて検討してください。認定経営革新等支援機関の関与が求められる制度もありますので、要件の確認は早めに行うことをおすすめします。

税制上の措置との関係

資金調達そのものではありませんが、事業承継やM&Aに関連する税制上の措置も、買い手の資金計画に影響します。たとえば事業承継税制は、特例承継計画の提出期限が2027年9月30日、適用期限が2027年12月31日とされており、期限を意識した検討が求められる制度です。ただしこれは親族内承継等を主な対象とする制度であり、第三者への譲渡を伴うM&Aとは適用場面が異なります。

買い手側で関係しやすいのは、買収のスキームによって生じる税務上の取扱いです。株式譲渡で取得した場合と、事業譲渡で資産を取得した場合とでは、のれんや資産の扱い、消費税の取扱いが変わります。これらは資金繰りに直接影響しますので、スキームの検討段階で税理士に確認しておく必要があります。

また、2026年4月以後開始事業年度からは防衛特別法人税が導入されます。法人実効税率の目安は約30%とされており、買収後の税引後キャッシュフローを見積もる際には、こうした制度変更も織り込んでおく必要があります。

税制は改正が頻繁にあり、適用の可否は個別の事情によって異なります。本稿の記載は一般的な整理ですので、実際の判断にあたっては必ず税理士等の専門家にご確認ください。

民間融資との組み合わせ方

公的な制度を検討する場合も、主軸となるのは民間金融機関との関係です。とくに、日頃から取引のある金融機関は、買い手の事業を継続的に見ており、事情を理解したうえで相談に乗ってもらえる可能性があります。買収の検討を始めた段階で、早めに相談しておくことをおすすめします。

組み合わせを考えるときのポイントは、実行時期と条件の依存関係です。ある融資の実行が別の融資を前提としている場合、片方が遅れると全体が動かなくなります。それぞれの審査期間と実行予定日を一覧にして、決済日から逆算した段取りを組んでください。

また、複数の調達手段を使うと、担保や保証の設定が複雑になります。どの資産にどの担保が付くのか、既存の借入との関係はどうなるのかを整理しておかないと、後の資金調達に支障が出ることがあります。

買収後に対象会社の既存借入をどう扱うかも、あわせて検討が必要です。引き継ぐ場合は、対象会社の取引金融機関との関係も引き継ぐことになります。支配権が変わることについて、事前にどう説明するかは、仲介会社と相談して段取りしてください。

まとめ|制度探しより、計画の中身を固める

公的な融資や支援制度は、資金調達の選択肢を広げる有用な仕組みです。しかし、それらは民間融資を置き換えるものではなく、時期の制約も要件もあります。制度を探すことに時間を使うより、事業計画と返済計画の中身を固めるほうが、結果として調達を早めます。

審査で見られる点は、公的でも民間でも変わりません。この買収に事業としての妥当性があるか、何で返すのか、誰が経営するのか。ここに答えられる案件は、どの窓口でも話が前に進みます。

制度の内容・要件・期限は変更されることがあります。本稿の記載は2026年9月時点の一般的な整理ですので、実際の活用にあたっては、各機関の公式な案内と公募要領を必ずご確認いただき、税務・法務の取扱いは専門家にご相談ください。

当社プラチナパートナーズでは、買い手企業様の資金計画の整理と、金融機関への説明にあたっての情報の取りまとめをご支援しています。ご相談は無料です。

よくあるご質問

A.金額にも要件にも枠があり審査もあるため、全額を公的な制度で賄うことは現実的ではありません。自己資金と民間融資でどこまで組めるかを先に固め、そのうえで補える部分を公的な制度で検討する順序をおすすめします。制度の取扱いや条件は変わりますので、各機関の公式な案内でご確認ください。
A.対象となる経費の範囲は公募要領で定められており、年度によって変わります。また補助金は原則として先に支出してから事後に支給を受ける仕組みで、採択の保証もありません。決済時点の資金繰りは自己資金と借入で手当てし、補助金は前提に置かない計画にしておくことをおすすめします。
A.審査で見られる点は民間と大きく変わりません。事業としての妥当性、返済原資の確かさ、買収後に誰が経営するのか——ここが固まっていることが前提です。制度の枠に当てはまるかどうかは入口の話であり、結論は計画の中身によって決まります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら