買収を検討する際、多くの方が最初に直面するのが資金の問題です。手元資金だけで賄えない場合、金融機関からの調達を検討することになりますが、その手法のひとつにLBOローンがあります。LBO(Leveraged Buyout=レバレッジド・バイアウト)とは、てこ(レバレッジ)の原理になぞらえて、借入を活用して自己資金以上の規模の買収を行う手法のことです。その資金調達を担うのがLBOローンです。本稿では、この仕組みを買い手・売り手の双方に理解いただけるよう整理し、中小企業のM&Aにおける現実的な位置づけまでご説明します。

本稿はLBOローンの一般的な仕組みを整理した解説であり、特定の金融商品や条件を推奨・保証するものではありません。調達の可否、条件、契約内容は金融機関ごと・案件ごとに異なります。個別の判断は金融機関および弁護士・公認会計士等の専門家にご確認ください

LBOローンとは|返済原資が「対象会社」であること

LBOローンの最大の特徴は、返済の原資を、買い手自身ではなく買収対象会社に求める点にあります。通常の企業向け融資では、借り手である会社の業績と信用力をもとに融資の可否と条件が決まります。これに対しLBOローンでは、買収する会社が将来生み出すキャッシュフローと、その会社が保有する資産が、返済を支える中心的な存在になります。

この発想を言い換えると、「その会社が稼ぐ力で、その会社を買う」ということです。買い手にとっては、自社の規模に比して大きな会社を取得できる可能性が開けます。一方で、対象会社にとっては買収に伴う借入の負担が事実上のしかかることになりますから、安定したキャッシュフローを生む事業でなければ成立しません

この構造のため、金融機関はLBOローンの検討にあたって、対象会社の収益力を極めて慎重に検証します。過去の業績の推移、収益の変動要因、顧客の集中度、設備更新の必要性——これらが返済の確実性に直結するためです。EBITDAのような、借入返済に充てられる原資に近い利益指標が重視されるのも、この文脈からです。

典型的な仕組みと登場人物

LBOの典型的なストラクチャーは、次のような流れをとります。

  • 第一段階——買い手が、買収のための受け皿となる特別目的会社(SPC)を設立し、自己資金を出資する
  • 第二段階——SPCが金融機関からLBOローンを借り入れる
  • 第三段階——SPCが、出資金と借入金を合わせた資金で対象会社の株式を取得する
  • 第四段階——取得後、SPCと対象会社を合併させるなどして、借入と事業を同一の法人に集約する
  • 第五段階——対象会社が生み出すキャッシュフローから、借入を返済していく

担保としては、SPCが保有する対象会社の株式や、対象会社の事業用資産が差し入れられるのが一般的です。買い手本体が全面的な保証を負わない設計(ノンリコースまたはリミテッド・リコース)が採られることもありますが、これは案件の規模や金融機関の方針によって大きく異なります。中小規模の案件では、買い手側の保証が求められることも珍しくありません。

登場人物を整理すると、次のようになります。

関係者役割主な関心
買い手(スポンサー)SPCへの出資、買収後の経営投資の回収、経営の自由度
SPC借入と株式取得の主体——(器としての法人)
金融機関LBOローンの供与返済の確実性、担保、条項の順守
対象会社キャッシュフローの源泉事業の継続、従業員の処遇
売り手株式の譲渡対価の確実な受領、譲渡後の会社

通常の買収融資との違い

買収資金の調達手段は、LBOローンだけではありません。中小企業のM&Aでは、買い手自身の信用力に基づく融資(コーポレートファイナンス)や、自己資金との組み合わせが用いられることも多くあります。両者の違いを整理すると次のとおりです。

観点通常の買収融資LBOローン
審査の対象買い手企業の信用力と返済能力対象会社のキャッシュフローと資産
借入の主体買い手企業買収のために設立するSPC
担保買い手の資産、経営者保証など対象会社の株式・事業用資産
契約の複雑さ比較的簡素詳細な条項を伴い、組成に手間と費用
買収後の制約相対的に緩やか財務制限条項による制約が及ぶ
組成にかかる期間短め検証事項が多く長くなりやすい

買い手の立場からは、「自社の信用力を温存しながら大きな買収ができる」という利点と、「制約と手間が増える」という負担のバランスを見ることになります。調達手段全般の比較は「M&Aの買収資金はどう調達する?」でも解説しています。

財務制限条項(コベナンツ)という制約

LBOローンを理解するうえで避けて通れないのが、コベナンツ(財務制限条項)です。返済原資を対象会社に依存する以上、金融機関は買収後の経営が想定から外れないよう、契約で歯止めをかけます。

一般に定められる内容には、次のようなものがあります。

  • 財務指標の維持——一定の利益水準や自己資本の水準を下回らないこと
  • 報告義務——決算書・試算表・資金繰り表などを定期的に提出すること
  • 追加借入の制限——貸し手の承諾なく新たな借入を行わないこと
  • 資産処分の制限——重要な資産を承諾なく売却・担保提供しないこと
  • 配当・役員報酬の制限——資金の社外流出に一定の制約を置くこと
  • 設備投資の制限——大型の投資について事前の協議を要すること
  • 株主構成の維持——スポンサーの持分を一定以上維持すること

これらに抵触すると、期限の利益を喪失し、残債の一括返済を求められる可能性があります。実務上は、直ちに一括返済となるのではなく、金融機関との協議によって条件を見直す(ウェーバーを得る)といった対応がとられることもありますが、いずれにせよ買収後の経営の自由度に制約が及ぶことは理解しておく必要があります。

買い手として重要なのは、契約締結前に、自社が描く統合後の計画とコベナンツが両立するかを確認しておくことです。買収直後に大きな設備投資や追加の買収を予定しているなら、その計画が条項に触れないかを事前に整理し、必要なら条件交渉を行います。契約締結後に「やりたいことができない」と気づくのが、最も避けたい事態です。

中小企業のM&Aにおける現実的な位置づけ

ここまで仕組みを見てきましたが、実務感覚として率直に申し上げると、中小企業のM&AでLBOローンが用いられる場面は限られます。理由は主に次の四つです。

1. 組成の手間と費用が規模に見合わないことがある

LBOローンは、詳細な検証と契約作成を伴います。財務・法務のデューデリジェンス、事業計画の検証、契約交渉——これらに要する時間と費用は、取引規模が小さいほど相対的に重くなります。

2. キャッシュフローの安定性が求められる

返済原資が対象会社である以上、収益の変動が大きい事業や、特定の取引先への依存度が高い事業では、金融機関の理解を得にくくなります。設備投資の負担が重い業種も、返済に回せる資金が限られるため慎重に見られます。

3. 対象会社の経営に制約が及ぶ

コベナンツは、買収後の経営判断を縛ります。中小企業の統合では、現場に合わせた柔軟な判断が求められる場面が多く、この制約が実務上の重荷になることがあります。

4. 他の手段のほうが適していることが多い

買い手自身に一定の財務基盤があるなら、通常の融資や自己資金の組み合わせのほうが、迅速かつ簡素に進みます。売り手との合意によって対価の支払いを分割する設計や、業績連動型の対価を組み合わせる方法が検討されることもあります。

したがって、中小M&Aの現場では「LBOローンありき」で考えるのではなく、案件の規模、対象会社の収益の安定性、買い手の財務状況を踏まえて、複数の調達手段を比較するのが実務的な進め方です。取引先の金融機関に早い段階で相談し、どの手段が現実的かを確認しておくことをおすすめします。

売り手側から見た論点|実行の確実性

売り手の経営者様にとって、買い手の資金調達方法は他人事ではありません。とりわけ重要なのが実行の確実性です。

買い手が外部調達を前提とする場合、最終契約においては融資の実行がクロージングの前提条件として定められるのが通常です。つまり、金融機関の承認が下りなければ取引は完了しません。売り手としては、次の点を確認しておく価値があります。

  • 買い手が調達を予定している場合、金融機関との協議がどの段階まで進んでいるか
  • 調達が不調に終わった場合、契約上どのような扱いになるか
  • クロージングまでに要する期間の見通し
  • 自己資金の割合と、調達に依存する部分の大きさ

これらは仲介者が買い手側に確認し、売り手に共有すべき事項です。当社では、意向表明を受け取った段階で買い手の資金計画の考え方を確認し、実行の確実性という観点も含めて候補を比較していただけるようにしています。条件面の比較については「基本合意書(LOI)と最終契約書(SPA)の違いと注意点」もご参照ください。

もう一点、譲渡後の会社を思う立場からの論点があります。LBOローンによる買収では、対象会社に借入の返済負担が及びます。長年育ててきた会社が、譲渡後にどのような財務状態で運営されるのか——価格だけでなく、この点も含めて買い手の構想を聞いておくことは、売り手として自然な関心です。買い手側の検討プロセスは「買い手のデューデリジェンス」でも解説しています。

まとめ

LBOローンの要点を整理します。

  • LBOローンは、買収対象会社のキャッシュフローと資産を主たる返済原資とする買収資金の調達手法
  • 典型的には、買収のために設立したSPCが借入と株式取得を行い、その後に対象会社と統合する
  • 通常の融資と異なり、審査の対象が買い手ではなく対象会社の収益力になる
  • 財務制限条項(コベナンツ)により、買収後の経営に一定の制約が及ぶ
  • 中小企業のM&Aでは、組成の負担や制約から用いられる場面は限られ、通常の融資や自己資金との組み合わせが中心
  • 売り手にとっては、買い手の資金調達の進捗と実行の確実性が重要な確認事項になる

当社では、買い手の皆様には資金計画を早期に整理いただき、売り手の皆様には実行の確実性を含めて候補を比較いただけるよう支援しています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。

よくあるご質問

A.通常の融資が借り手企業自身の信用力と返済能力を前提とするのに対し、LBOローンは買収対象会社が将来生み出すキャッシュフローと保有資産を主たる返済原資として組み立てられる点が異なります。買収のために設立した特別目的会社が借入主体となり、対象会社の株式や資産が担保に供されるのが典型です。買い手本体が全面的な保証を負わない設計が採られることもありますが、条件は案件ごとに大きく異なります。
A.融資契約の中で借り手に課される順守事項のことです。一定の財務指標を維持すること、追加の借入や資産の処分に貸し手の承諾を要すること、決算や試算表を定期的に提出することなどが定められます。これに抵触すると期限の利益を喪失し、一括返済を求められる可能性があります。買収後の経営に一定の制約が及ぶことを意味するため、条件の内容は契約前に金融機関とよく確認する必要があります。
A.使われる場面はありますが、中小規模のM&Aでは、買い手自身の信用力に基づく通常の融資や自己資金を組み合わせる方法が中心です。LBOローンは組成に手間と費用がかかり、対象会社のキャッシュフローの安定性について金融機関の厳しい検証を受けるため、規模や事業の性質によっては適さないこともあります。どの調達方法が現実的かは、買い手の状況と対象会社の特性を踏まえ、金融機関や専門家に個別にご確認ください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら