買った会社の設備が古い。すぐ直すのか、様子を見るのか。買収直後は資金も情報も限られます。判断の順序を整理します。
買う前に把握しておく
本来は、デューデリジェンスの段階で見るべき項目です。
確認すべきは、固定資産台帳と現物。取得年、耐用年数、帳簿価額、稼働状況。
そして、直近5年の設備投資額。減価償却費と比べてください。
償却費より投資額が継続的に少なければ、設備が痩せています。いずれ、まとめて更新が必要になります。
この分は、実質的な買収コストです。価格の交渉材料になります。
買ってから気づくと、交渉の機会が失われます。
直後に手をつけるべきもの
買収直後でも先送りできないものがあります。
安全に関わるもの。労働災害のリスクがある設備、消防・電気の法令要件。事故が起きれば、買い手の責任です。
止まると事業が止まるもの。基幹設備で、代替が無く、故障の兆候があるもの。
法令上の期限があるもの。検査、更新、認証。
この3つは、資金を確保してでも着手してください。
逆に言えば、それ以外は急がなくてよいということです。
先送りしてよいもの
判断を保留できるものを整理します。
効率化のための投資。新しい機械を入れれば生産性が上がる。ただし、回収の計算が要ります。買収直後は、現場の実力が読めません。
本社との統一のための投資。システム、什器、車両。急ぐ理由がありません。
見た目の改善。事務所、看板、Webサイト。
これらは1年目の後半以降で構いません。現場を理解してから判断するほうが、良い投資になります。
現場の要望をどう扱うか
買収直後、現場から要望が上がってきます。「前の社長は投資してくれなかった」。
これは期待の表れでもあります。新しい経営者なら認めてくれるのではないか、と。
対応の原則は、即答しないこと。そして、理由を聞くこと。
「それを入れると、何がどう変わりますか」。数字で答えられるかどうかで、要望の質が分かります。
そして、断るときは理由を伝えてください。「今は資金を運転資金に充てたい。来期に改めて検討する」。
黙って放置すると、「本社は投資しない」という評価が定着します。
回収の計算をさせる
投資を判断する仕組みを、早い段階で入れてください。
要望を出す側に、次を書かせます。
投資額。本体、工事、付帯費用。
効果。削減される時間・人件費・不良、増える生産量。金額に換算する。
回収期間。投資額 ÷ 年間の効果。
やらない場合に起きること。
この4項目を書く習慣がつくと、要望の質が上がります。
そして、書けない投資は、たいてい必要がありません。
資金をどう用意するか
買収直後は、手元が薄くなっています。
買収代金、専門家費用、運転資本の増加。これらで資金を使った直後に、大きな投資は難しい。
選択肢を挙げます。
買収先の会社で借り入れる。信用が維持されていれば可能です。
親会社から貸し付ける。グループ間の貸付は税務上の論点があります。利率の設定、寄附金とされないための条件。税理士にご確認ください。
リースを使う。初期の支出を抑えられます。
補助金。ものづくり補助金、事業承継・M&A補助金など。要件と対象は年度ごとに変わるため、必ずその年度の公募要領で確認してください。
減価償却とキャッシュフローで見る
判断の枠組みです。
設備投資は、支出は一度に出て、費用は数年に分かれます。
したがって、利益で見ると影響が小さく、資金で見ると影響が大きい。
見るべきは、営業利益+減価償却費から、借入の返済と設備投資を引いた残りです。
これがマイナスなら、資金が減り続けます。
買収の際に立てた返済計画に、設備投資の分が入っているかを確認してください。入っていなければ、計画そのものを見直す必要があります。返済計画の立て方もご覧ください。
投資しないことのコスト
逆の視点も持ってください。先送りには代償があります。
故障のリスクが上がる。止まったときの損失は、更新費用を上回ることがあります。
人が辞める。古い設備で働き続けることに、現場は疲れます。
品質が落ちる。不良率、納期遅れ。
競争力が落ちる。同業が更新していれば、コスト差が出ます。
「投資しない」も一つの判断であり、その結果を引き受けることになります。
先送りするなら、いつまで先送りするのかを決めてください。
1年目の設計
まとめます。実務的な進め方です。
0〜3か月。現物を確認し、台帳と突き合わせる。安全と法令に関わるものだけ着手。
3〜6か月。現場から要望を集め、回収の計算をさせる。優先順位をつける。
6〜12か月。資金の見通しが立った範囲で、順に実行。
1年目の決算後。翌期の投資計画を、数字に基づいて立てる。
この順序なら、無駄な投資も、致命的な先送りも避けられます。
急ぐべきは判断ではなく、把握です。