審査が通らなかった。ここで案件を失うか、条件を変えて成立させるかは、次の動き方で決まります。何を確認し、どう伝えるかを整理します。
まず、理由を聞く
否決の連絡を受けたら、理由を確認してください。詳細は説明されないこともありますが、方向性は教えてもらえます。
典型的な理由を挙げます。
① 返済原資が見えない。対象会社のキャッシュフローで返せる計画になっていない。
② 買い手の財務内容。既存の借入が多い、直近の業績が悪い。
③ 対象会社の内容。業績、業種、簿外のリスク。
④ 担保・保証が不足。
⑤ 金額が大きすぎる。買い手の規模に対して。
理由によって、打てる手が違います。
条件を変えて再挑戦する
否決イコール終わり、ではありません。条件を変えれば通ることがあります。
金額を下げる。自己資金を増やす、価格を交渉する。
期間を延ばす。月々の返済負担が下がり、返済原資の説明が立ちます。
担保を追加する。不動産、預金、有価証券。
保証を付ける。代表者保証、親会社保証。
据置期間を求める。買収直後の負担を軽くする。
「いくらなら出せますか」と聞くのが、最も実際的です。満額が無理でも、一部なら出ることがあります。
計画の作り直し
①が理由の場合、資料の作り方に問題があることがあります。
金融機関が見るのは、返済原資です。対象会社の営業利益に減価償却費を加えたキャッシュフローから、既存の返済と新規の返済を引いて、いくら残るか。
ここがマイナス、あるいはギリギリだと通りません。
作り直すなら、シナジーを織り込むのではなく、現状のまま返せることを示すほうが説得力があります。シナジーは実現しないかもしれないためです。
保守的な前提で返せる計画を作ってください。返済計画の立て方も参考にしてください。
他の金融機関に当たる
金融機関によって方針が違います。一行で断られても、他行では通ることがあります。
とくに、買収資金の融資に積極的かどうかは金融機関ごとに差があります。
また、対象会社の取引金融機関が引き受けるという形もあります。対象会社の内容を知っているため、審査が進みやすい。ただし、情報管理の観点で、売り手の同意が必要です。
日本政策金融公庫や信用保証協会の制度も確認してください。事業承継やM&Aに関連する制度があります。要件と内容は変わるため、窓口でご確認ください。
買収の方式を変える
資金の総額を下げる方法です。
全株ではなく過半数を取得する。残りは売り手に持ってもらい、段階的に取得する。ただし、少数株主が残る設計には別の論点があります。
事業譲渡に切り替える。必要な資産だけを買えば、金額が下がることがあります。許認可の取り直しや従業員の同意が必要になります。
会社分割を使う。スキームが複雑になり、専門家費用が増えます。
いずれも、税務と法務の論点が変わります。安易に切り替えず、専門家と検討してください。
共同で買う
選択肢として挙げておきます。
他の事業会社と共同出資する。資金負担が分かれます。ただし、意思決定に相手の同意が要るようになります。
投資ファンドと組む。資金は入りますが、出口(数年後の売却)を前提とすることが多く、方針が合うかを確認する必要があります。
いずれも、株主間契約の設計が要ります。議決権、役員の指名、配当、将来の持分の扱い。
「資金が足りないから」という理由だけで共同出資に踏み切らないでください。後の運営が難しくなります。
売り手にどう伝えるか
ここが最も重要です。早く、正直に伝えてください。
隠して時間を稼ごうとすると、信頼を完全に失います。売り手は待っている間、他の候補を断っているかもしれません。
伝えるべきは、事実と、今後の見通しです。「融資の審査が通りませんでした。他行に当たっており、◯月◯日までに結論を出します」。
期限を切ってください。「もう少し待ってください」を繰り返すのが最も悪い。
そして、見込みが立たないなら、その時点で降りると伝える。誠実に降りた買い手は、次に声がかかります。
契約にどう備えるか
次の案件に向けた備えです。
基本合意の段階で、資金調達を条件とする旨を入れておくかどうかを検討してください。
買い手としては入れたい条項ですが、売り手は嫌がります。実行されるか分からない取引に拘束されるためです。
実務的な折衷案としては、期限を切ることです。「◯月◯日までに融資の内諾が得られない場合、本基本合意は失効する」。
これなら、売り手も待つ期間が読めます。
条件を入れずに進めて、後から融資が下りないというのが最悪の展開です。
次に向けて、枠を作っておく
最後に、根本的な対策です。
案件が出てから融資を相談するという順序では、間に合わないことがあります。
したがって、買収を継続的に行う方針なら、日頃から金融機関と話しておいてください。
「M&Aによる成長を考えている」「◯億円程度の案件なら検討したい」と伝えておく。決算のたびに、その方針を説明する。
そうすれば、案件が出たときにゼロから説明する必要がありません。
融資は、実績と関係で決まる部分があります。一度の否決を、次への準備に変えてください。