M&Aの相談を進めると、必ず「仲介契約(アドバイザリー契約)」の締結という節目が訪れます。買い手を探すにも、企業概要書を作るにも、まずこの契約が土台になるからです。ところが、この契約書はM&Aのプロセス全体を通じて効き続けるにもかかわらず、内容を十分に確認しないまま署名されてしまうことが少なくありません。本稿では、仲介契約を条項ごとに読み解くための視点を、実務の観点から順に整理します。個別の条項であるテール条項については「テール条項とは」で詳しく扱っていますので、ここでは契約全体の読み方に軸足を置きます。
仲介契約は「最初に結ぶ、最も長く効く契約」
M&Aの過程では、いくつもの契約書に署名します。秘密保持契約、基本合意書、そして最終契約書。そのなかで仲介契約は、最も早い段階で結ばれ、成約まで(場合によっては契約終了後も)効き続けるという特徴があります。
にもかかわらず、この段階の経営者様は「まだ何も決まっていない」という感覚でいらっしゃることが多く、契約書の中身よりも、担当者の印象や提示された想定価格に関心が向きがちです。しかし、支援の範囲も、報酬の金額も、途中でやめられるかどうかも、すべてこの契約書が決めています。
ですから、仲介契約は「読んでから署名する」ものであり、「署名してから読む」ものではありません。持ち帰って検討したいと伝えたときに、その場での署名を強く促してくるような支援機関であれば、それ自体が判断材料になります。中小M&Aガイドライン(第3版・令和6年8月)も、契約締結前の説明を仲介者・FAに求めています。
当事者と業務範囲|何をしてくれる契約か
誰と誰の契約か
まず確認したいのが、契約の当事者です。M&Aの売り手側では、会社が契約するのか、オーナー個人が契約するのかで意味合いが変わります。株式譲渡では株式を売るのは個人株主ですから、個人が当事者になることも、会社が当事者になることもあり、報酬の負担者や税務上の取扱いにも関係してきます。誰が署名する契約なのかを、最初にはっきりさせておきましょう。
あわせて、その支援機関が仲介なのかFAなのかも条項から読み取ります。仲介であれば、相手方とも契約し双方から報酬を受け取る形態です。この点は契約書上でも明示されているべき事項です。
業務範囲の条項
次に、業務範囲(受託業務)の条項です。「何をしてくれる契約か」を定める、契約の中核部分といえます。典型的には次のような項目が並びます。
- 企業評価・想定譲渡価格の試算
- 企業概要書(ノンネームシート・IM)の作成支援
- 買い手候補の選定・打診・面談の設定
- 条件交渉の調整、基本合意書の締結支援
- デューデリジェンスの日程調整・資料準備の支援
- 最終契約・クロージングに向けた進行管理
ここで大事なのは、含まれていないものを意識することです。契約書のドラフト作成や法的助言は弁護士の業務であり、税務申告は税理士の業務です。仲介会社は「支援」はできても「代理」や「専門的判断」まで担うわけではありません。この線引きを理解しておかないと、後になって「そこまでやってくれると思っていた」というずれが生じます。
専任・非専任の条項|依頼先を絞るかどうか
仲介契約には、依頼先を1社に絞る専任タイプと、複数社に依頼できる非専任タイプがあります。それぞれの性格を整理すると次のようになります。
| 観点 | 専任 | 非専任 |
|---|---|---|
| 依頼先 | 1社に限定 | 複数社に依頼可能 |
| 情報の管理 | 窓口が一元化されやすい | 複数ルートから情報が出る |
| 支援の密度 | 深く関与しやすい | 案件ごとに濃淡が出やすい |
| 主な留意点 | 期間・解除の条件を要確認 | 同一の買い手候補に重複打診の懸念 |
非専任は一見すると自由度が高く有利に思えますが、中小M&Aでは注意すべき点があります。同じ買い手候補に複数の仲介会社から同じ案件が持ち込まれると、買い手側からは「あちこちに声をかけている、売り急いでいる案件」という印象を持たれかねません。また、情報が広く出回れば、それだけ秘密保持のリスクも高まります。M&Aの検討中であることが従業員や取引先に伝わってしまう事態は、何としても避けなければなりません。
一方で、専任契約を結ぶ場合には、次の点を必ず確認してください。
- 契約期間はどれくらいか、自動更新の定めがあるか
- 期間中に解除できるか、解除に伴う金銭的な負担はあるか
- セカンドオピニオンの取得や、他の専門家への相談が制限されていないか
とくに三点目は重要です。中小M&Aガイドラインは、依頼者が他の支援機関からセカンドオピニオンを求めることを不当に制限しないよう求めています。顧問税理士や弁護士への相談まで封じるような条項があれば、その妥当性を確認すべきです。
報酬条項の読み方|4つの視点で分解する
報酬条項は、金額の大小以前に「どう計算されるか」の構造を理解することが先決です。次の4つの視点で分解して読むと、支援機関ごとの違いが見えてきます。
1. 何を基準に計算するのか(基準額)
成功報酬は、一定の基準額に料率を掛けて計算されるのが一般的です。この基準額として何を採用するかは支援機関によって異なり、株式の譲渡対価そのものを基準とする考え方もあれば、譲渡対価に負債の額を加えた金額を基準とする考え方もあります。同じ料率でも、基準額の定義が違えば報酬額は大きく変わります。契約書でどちらが採用されているかを必ず確認してください。
2. いつ発生するのか(発生時期)
相談料、着手金、月額報酬(リテイナーフィー)、基本合意時の中間金、成約時の成功報酬——費用が発生するタイミングは複数あり得ます。着手金や月額報酬は、成約に至らなくても支払いが生じる性質のものです。どの時点で、いくら発生するのかを、時系列で書き出して把握しましょう。
3. 最低報酬額はいくらか
料率計算の結果が一定額を下回る場合に、最低報酬額が適用される定めが置かれていることがあります。小規模な案件ほど、この最低報酬額が実質的な報酬水準を決めます。譲渡価格の見込みと照らして、実際にいくらになるのかを試算しておくべき項目です。
4. 実費・税の扱い
報酬とは別に、出張費や資料取得費などの実費を請求する定めがあるか。表示されている金額が税別か税込かも確認します。消費税は標準税率10%です。
なお、「成約時の報酬しかかからない」といった趣旨の表現には注意が必要です。中間金や着手金が別途発生する体系であるにもかかわらずそう読める表現が使われていれば、実態とのずれが生じます。当社は中間金をいただく体系のため、そうした表現は用いず「成功報酬型」と表現しています。料金の全体像は「料金体系」でご確認いただけます。
テール条項・秘密保持・契約期間と解除
テール条項
テール条項は、仲介契約が終了した後に、その仲介会社が紹介していた相手と成約した場合に報酬が発生する、という定めです。仲介会社の貢献にただ乗りする形で契約を打ち切ることを防ぐための条項であり、それ自体は合理性があります。確認すべきは、対象となる相手方の範囲が明確か(紹介済みの候補として書面で特定されているか)、そして効力の及ぶ期間が過大でないかです。詳細は「テール条項とは」で解説しています。
秘密保持
M&Aの検討そのものが機密情報です。仲介会社が受け取った情報をどう管理するか、誰にどの範囲で開示できるか、契約終了後も義務が続くかを確認します。あわせて、買い手候補への打診にあたって、どの時点でどこまでの情報を開示するのかについて、依頼者の同意を得るプロセスが定められているかも見ておきたい点です。社名が特定されない形のノンネームシートから始め、秘密保持契約の締結を経て詳細情報へ進む、という段階的な開示が実務の基本です。
契約期間と解除
契約期間、自動更新の有無、中途解除の可否と手続きを確認します。M&Aは相手のあることであり、検討の途中で「やはり今は売らない」という判断に至ることもあります。その選択が過度に重い負担なしにできるかどうかは、依頼者にとって実質的に大きな意味を持ちます。
免責・責任の範囲
仲介会社の責任がどこまで及ぶか、免責される事項は何かを定める条項です。仲介会社は取引の成立を保証するものではなく、また買い手の財務状態や履行能力を保証する立場にもありません。過度に広範な免責が置かれていないかという観点で読みます。
当社の仲介契約でご説明していること
参考として、当社プラチナパートナーズの体系を明示しておきます。
- 相談料・着手金・月額報酬は0円です
- 中間金は、基本合意の締結時に成功報酬額の10%をお預かりします。この中間金は成功報酬から全額を差し引きます。ただし、基本合意後に不成立となった場合も返金いたしません
- 成功報酬は移動総資産レーマン方式によります。基準額は株式価値(譲渡対価)+負債総額です
- 最低報酬額は2,000万円(税別)です
これらは仲介契約の締結前に、算定の考え方・発生時期とあわせて書面でご説明しています。あわせて、当社が売り手・買い手の双方から報酬を受領する仲介形態であることも明示しています。当社の姿勢は「中小M&Aガイドライン遵守宣言」でも公表していますので、あわせてご覧ください。
また当社は、依頼者様側の顧問税理士・弁護士による契約書チェックを歓迎しています。仲介契約は、依頼者様がその内容を理解し、納得したうえで締結されるべきものです。「持ち帰って専門家に見せたい」というお申し出に、当社が難色を示すことはありません。
M&Aは、その先に何年もの交渉と検討が続くプロセスです。その入口である仲介契約を、条項ごとに読み解いてから署名する。この一手間が、後の安心につながります。契約内容についてご不明な点があれば、締結前の段階からお気軽にご質問ください。
よくあるご質問
Free Consultation
契約書は、お持ち帰りいただいて構いません。
当社は報酬の算定基準・発生時期を契約前に書面でご説明し、顧問税理士・弁護士によるチェックを歓迎しています。
メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。