M&Aの交渉が進むと、売り手と買い手は大きく二度、重要な書面を交わします。条件の大枠を確認する「基本合意書(LOI)」と、取引を法的に確定させる「最終契約書(SPA)」です。両者は名前が似ているうえ、どちらも分厚い契約書であるため混同されがちですが、その性質と重みはまったく異なります。本稿では、二つの契約書の位置づけの違い、それぞれに記載される内容、そして売り手として締結前に必ず確認しておきたい注意点を、順を追ってご説明します。

二つの契約書の位置づけ|違いを一覧表で確認

まず、両者の違いを一覧で整理します。

比較項目基本合意書(LOI)最終契約書(SPA)
締結のタイミング条件の大枠が固まった段階(DDの前)DDを経て最終条件が確定した段階
性質その時点での合意内容の確認(仮の合意)取引を法的に確定させる本契約
法的拘束力原則なし(独占交渉権・秘密保持等の一部条項のみ拘束力あり)全条項に拘束力あり
価格の記載目安・暫定額(DDの結果で調整され得る)確定額(調整方法も含めて確定)
主な機能交渉の土台固め、独占交渉権の付与、スケジュール確認譲渡の実行条件、表明保証、補償など権利義務の確定

M&A全体の中での位置づけとしては、トップ面談・条件交渉の後に基本合意書を締結し、デューデリジェンス(DD)を経て、最終契約書の締結・クロージングへ進みます。全体の流れは「M&Aの流れを7ステップで解説」の記事をご参照ください。

基本合意書(LOI)とは|内容と法的拘束力

基本合意書は、Letter of Intent(LOI)や覚書(MOU)とも呼ばれ、交渉の中間段階で「現時点で双方が合意している条件」を書面で確認するものです。一般に、次のような事項が記載されます。

  • 予定するスキーム(株式譲渡か事業譲渡かなど)と対象
  • 譲渡価格の目安(暫定額)と、DDの結果による調整の可能性
  • 役員・従業員の処遇に関する基本方針
  • 今後のスケジュール(DDの時期、最終契約の目標時期)
  • 独占交渉権(一定期間、他の候補と交渉しないこと)
  • 秘密保持、費用負担、有効期間

基本合意書の大きな特徴は、価格や処遇などの取引条件そのものには法的拘束力を持たせないのが通例である点です。DDの前の段階では会社の実態を完全には確認できていないため、条件を確定させることができないからです。一方で、独占交渉権や秘密保持といった「交渉のルール」に関する条項には拘束力を持たせるのが一般的です。「拘束力がないなら意味がないのでは」と思われるかもしれませんが、双方の経営判断として条件の大枠を確認し合うことで、その後の交渉の土台が固まり、破談の可能性を大きく下げる効果があります。

基本合意書の注意点|締結前に確認すべきこと

売り手にとって、基本合意書の締結前に確認しておきたいポイントは次のとおりです。

独占交渉権の期間は適切か

基本合意後、売り手は原則としてその買い手としか交渉できなくなります。期間が長すぎると、万一破談になった場合に他の候補との機会を失うことになりかねません。DDと最終交渉に必要な現実的な期間(たとえば3〜6か月程度)に設定されているかを確認しましょう。

価格調整の条件は明確か

「DDの結果により価格を調整する」という定めは通常ですが、どのような場合にどの程度調整され得るのか、考え方を事前にすり合わせておくと、後の交渉が紛糾しにくくなります。

中間金の扱い

仲介会社によっては基本合意時に中間金が発生します。破談時に返金されるのかを含め、手数料の総額を改めて確認しておきましょう。手数料の仕組みは「M&A仲介手数料の相場とレーマン方式」の記事で解説しています。

最終契約書(SPA)とは|主な条項の読み方

最終契約書は、DDの結果を踏まえて確定した取引条件を定める本契約です。株式譲渡の場合は株式譲渡契約書(SPA:Stock Purchase Agreement)と呼ばれます。基本合意書と決定的に異なるのは、全条項が法的拘束力を持つことです。署名すれば、双方は契約に従って取引を実行する義務を負い、違反すれば損害賠償等の責任が生じます。主な条項は次のとおりです。

  • 譲渡の対象と譲渡価格(価格調整の仕組みを含む)
  • クロージング(決済)の方法と前提条件
  • 表明保証(売り手・買い手それぞれが事実を保証する条項)
  • 誓約事項(クロージングまでの経営運営、譲渡後の競業避止・キーマン条項など)
  • 補償(表明保証違反等があった場合の損害の扱い)
  • 解除条件、秘密保持、公表の方法

また、経営者様個人が会社の借入金の連帯保証人になっている場合、その解除・切替えの取り扱いを最終契約に明記しておくことが極めて重要です。詳しくは「経営者保証の解除」の記事をご覧ください。

表明保証とクロージング|売り手が特に注意すべき条項

表明保証(レプワラ)

表明保証とは、「開示した決算書は正確である」「簿外債務は存在しない」「係争は開示したもの以外にない」といった事実を、売り手が買い手に対して表明し保証する条項です。クロージング後に表明保証違反が発覚した場合、売り手は補償(損害賠償)責任を負う可能性があります。ここで重要なのは、DDや開示資料で誠実に伝えた事項は、通常、表明保証の例外(開示済み事項)として扱われるという点です。つまり、知っている懸念を正直に開示しておくことが、そのまま売り手自身を守ることにつながります。この点は「デューデリジェンス(DD)とは」の記事でも触れています。

クロージングの前提条件

最終契約の締結とクロージング(株式と対価の受け渡し)は、同日に行われることもあれば、許認可の取得や取引先の同意取得などの「前提条件」を満たすために期間を置くこともあります。前提条件が現実的に達成可能か、達成の責任がどちらにあるかを確認しておきましょう。

※ 最終契約書の内容は法律・税務の専門的判断を伴います。締結にあたっては、弁護士によるリーガルチェックを受けるとともに、税務上の影響については税理士等にご確認ください。

まとめ|「仮の合意」と「本契約」を区別して臨む

基本合意書(LOI)は、DDの前に条件の大枠を確認する「仮の合意」であり、独占交渉権や秘密保持など一部を除いて法的拘束力を持ちません。一方、最終契約書(SPA)は全条項が拘束力を持つ「本契約」であり、表明保証や補償など、成約後の売り手の責任にかかわる条項が並びます。それぞれの性質を正しく理解し、基本合意の段階では独占交渉権の期間と価格調整の考え方を、最終契約の段階では表明保証と経営者保証の扱いを、特に注意して確認することが大切です。

当社プラチナパートナーズでは、基本合意書・最終契約書の交渉・調整を、提携する弁護士等の専門家とともに丁寧にサポートしています。契約面に不安をお持ちの方も、どうぞ安心してご相談ください。当社の支援の全体像はM&Aの流れ(サービスのご案内)をご覧ください。

よくあるご質問

A.基本合意書は、価格や処遇といった取引条件そのものには法的拘束力を持たせないのが通例です。デューデリジェンスの前の段階では、会社の実態を完全には確認できていないためです。一方、独占交渉権・秘密保持・費用負担などには拘束力を持たせるのが通常で、他の候補との交渉はできなくなります。締結前に、どの条項に拘束力があるのかを条項ごとに確認してください。
A.デューデリジェンスの想定範囲と、最終契約の交渉に必要な時間から逆算するのが基本です。期間が長すぎると、万一破談になった場合に他の候補との機会を失いかねません。あわせて、自動更新の条項が入っていないか、延長には書面の合意を要する建て付けか、買い手側の事情で調査が始まらないまま期間が過ぎたときどうなるか、満了後は他の候補と交渉を再開できると読めるかを確認してください。
A.支援機関によって異なりますので、締結前に手数料の総額と発生時期を改めて確認してください。当社の場合、相談料・着手金・月額報酬は0円で、基本合意の締結時に成功報酬額の10%を中間金として申し受け、成約時の成功報酬から全額を差し引いてご請求しますが、基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。基本合意の前であれば費用は発生しません。

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相談料・着手金・月額報酬は0円です。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。秘密厳守でご相談を承ります。
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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら