「子どもは別の道に進んでいる。社内にも会社を任せられる人材がいない」——そのようなとき、廃業のほかに残された道が「第三者承継」です。社外の第三者に会社を引き継ぐこの方法は、いまや親族内承継・社内承継と並ぶ事業承継の主要な選択肢として定着しつつあります。本稿では、第三者承継の意味と他の承継方法との違い、メリットと留意点、進め方の流れ、承継先の探し方まで、M&A仲介の実務に携わる立場からわかりやすく解説します。
第三者承継とは|事業承継の3つの類型
第三者承継とは、親族や社内の役員・従業員ではなく、社外の第三者に会社(事業)を引き継ぐことをいいます。引き継ぐ相手は、同業・異業種の事業会社、投資会社、独立を目指す個人経営者などさまざまで、実行の手段としては株式譲渡や事業譲渡といったM&Aの手法が用いられます。
事業承継は、誰に引き継ぐかによって大きく3つに分類されます。
| 類型 | 引き継ぐ相手 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 親族内承継 | 子ども・配偶者などの親族 | 関係者の理解を得やすく、長期の準備が可能。ただし後継者本人の意思・適性が前提で、相続・贈与の設計も必要 |
| 社内承継(役員・従業員承継) | 役員や幹部従業員 | 事業をよく知る人材に引き継げる。一方で株式買取資金の確保や、経営者保証の引き継ぎが課題になりやすい |
| 第三者承継(M&A) | 社外の会社・個人 | 後継者を社外に広く求められ、創業者は対価を得られる。相手探しと交渉に専門的な支援が必要 |
「第三者承継」と「M&A」はほぼ重なる概念ですが、前者は「誰に引き継ぐか」という承継の分類、後者は「どう引き継ぐか」という手法を指す言葉です。M&Aそのものの基礎は「M&Aとは?中小企業の会社売却の基本」で詳しく解説しています。
後継者不在の現状|なぜ第三者承継が広がっているのか
帝国データバンクの2025年調査によると、国内企業の後継者不在率は50.1%。約半数の会社に、まだ後継者がいないのが現実です。少子化や職業観の変化により「子どもが継ぐのが当たり前」という前提は崩れ、社内でも、株式を買い取る資金や経営者保証の負担を考えると引き受け手が見つからない——そうした会社が数多く存在します。
一方で、レコフデータによると2025年のM&A件数は5,000件超と、2年連続で過去最多を更新しました。この二つの数字が示すのは、「後継者がいない会社」と「事業を引き継ぎたい会社・人」との橋渡しが、社会の仕組みとして機能し始めているということです。国も中小M&Aガイドライン(第3版・令和6年8月)を整備し、中小企業が安心して第三者承継に取り組める環境づくりを進めています。
かつて「会社を売る」ことには後ろ向きな印象がつきまといましたが、いまでは従業員と取引先を守りながら事業を未来につなぐ、前向きな経営判断として受け止められるようになっています。
第三者承継のメリット
親族・社内に後継者がいない会社にとって、第三者承継には次のようなメリットがあります。
- 後継者を社外に広く求められる:候補が親族・社内に限られないため、事業への理解や経営力を基準に、最適な引き継ぎ先を選べます
- 従業員の雇用と取引先との関係を守れる:廃業とは異なり、事業が継続するため、従業員の雇用や取引先・地域とのつながりを次代に引き継げます
- 創業者利益を得られる:株式の譲渡対価として、長年築いた会社の価値を現金で受け取れます。引退後の生活資金や新たな挑戦の原資になります
- 経営者保証から解放される道が開ける:株式譲渡に伴い、金融機関との調整を経て個人保証の解除を目指せるのが一般的です
- 買い手の経営資源で会社が成長できる:譲受企業の販路・人材・資金力と結びつくことで、自社単独では難しかった成長が実現することもあります
第三者承継の留意点・デメリット
一方で、第三者承継には固有の難しさもあります。事前に知っておくべき留意点を挙げます。
- 希望どおりの相手が見つかるとは限らない:相手のある話であるため、条件・タイミングが噛み合う承継先に出会うまで時間がかかることがあります。だからこそ、早めに動き出すことが重要です
- 経営方針が変わる可能性がある:社外のオーナーに代わる以上、経営のやり方や社風に変化が生じ得ます。譲れない条件(雇用継続・社名の維持など)は交渉で明確に伝える必要があります
- 秘密保持に細心の注意が要る:検討段階の情報が漏れると、従業員や取引先の動揺を招きます。信頼できる支援機関と秘密保持契約を結び、慎重に進めることが不可欠です
- 準備と交渉に専門性が求められる:企業価値の整理、相手探し、条件交渉、契約、税務——一連のプロセスには専門的な知識が必要で、経営者お一人で完結させるのは現実的ではありません
親族内承継・社内承継との比較をさらに詳しく知りたい方は「後継者不在の解決策としてのM&A|親族承継・社内承継との比較」をご覧ください。
第三者承継の進め方|相談から引き継ぎまで
第三者承継は、おおむね次のような流れで進みます。
- 1. 専門家への相談:自社の状況を整理し、第三者承継が現実的か、どのような相手が考えられるかを確認します
- 2. 企業価値の把握と資料準備:決算書などをもとに概算の企業価値を把握し、会社の強みを言語化した資料を整えます
- 3. 承継先候補の探索・打診:社名を伏せた資料(ノンネーム)で候補先に打診し、関心を示した相手と秘密保持契約を結んで詳細な検討に進みます
- 4. 面談・条件交渉・基本合意:経営者同士の面談を重ね、価格や雇用条件などの主要条件を固めて基本合意を締結します
- 5. デューデリジェンス・最終契約:買い手による詳細調査を経て最終契約を締結し、株式等の引き渡しと対価の決済を行います
- 6. 引き継ぎ:一定期間、前経営者が引き継ぎに協力し、従業員・取引先への説明を経て新体制へ移行します
期間は相手探しの状況により幅がありますが、腰を据えて取り組む性質のプロセスです。各ステップの詳細は「M&Aの流れを7ステップで解説」で解説しています。
承継先の探し方と支援機関の選び方
承継先を探すルートには、公的機関(事業承継・引継ぎ支援センターなど)、金融機関、税理士などの士業、M&A仲介会社、マッチングサイトなど、複数の選択肢があります。それぞれに特徴があり、案件の規模や希望条件、かけられる時間によって適した窓口は異なります。
支援機関を選ぶ際は、次の点を確認するとよいでしょう。
- 中小M&Aガイドラインを遵守し、手数料体系を契約前に書面で明確に説明しているか
- 自社の業種・規模の案件を扱った経験があるか
- 相手探しだけでなく、交渉・契約・クロージングまで一貫して伴走してくれるか
- 売却を急がせず、廃業との比較など複数の選択肢を一緒に検討してくれるか
なお、第三者承継が唯一の正解というわけではありません。会社の状況によっては、廃業して資産を整理するほうが合理的な場合もあります。両者の比較は「廃業とM&Aはどちらを選ぶべきか」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。大切なのは、選択肢を知ったうえで、時間の余裕があるうちに検討を始めることです。