複数の会社から見積もりを取ると、同じ料率なのに総額が違うことがあります。原因はほぼ、報酬基準額の定義と最低報酬の設定です。見積書で確かめるべき6つの項目を挙げます。
① 報酬基準額は何を指すか
もっとも差が出るのがここです。レーマン方式は「基準額に料率を掛ける」仕組みですが、その基準額が何なのかは会社によって違います。
主な考え方は四つあります。株式価値(譲渡対価そのもの)、オーナー受取額、企業価値(株式価値+有利子負債)、移動総資産(株式価値+負債総額)。数字が大きくなる順に、手数料も大きくなります。
当社は移動総資産を基準としています。株式価値(譲渡対価)+負債総額です。負債の多い会社では基準額が大きくなるため、当社にとって有利で、依頼者にとって不利な側の基準です。隠さず申し上げます。詳しくは料金体系で4パターンを並べて解説しています。
② 料率の刻み
レーマン方式では、基準額を段階に分けて料率を変えます。当社は5億円以下5%、5〜10億円4%、10〜50億円3%、50〜100億円2%、100億円超1%です。
この刻みも会社によって違います。料率の刻み方は会社によって異なり、どの金額帯にどの料率を当てるかも一様ではありません。自社の規模がどの段階に入るかで、実際の負担は変わります。
見積書に料率表が載っていない場合は、必ず出してもらってください。口頭の「レーマン方式です」だけでは、何も分かりません。
③ 最低報酬はいくらか
中小企業のM&Aでは、料率の計算結果より最低報酬のほうが大きくなることが普通です。
当社の最低報酬は2,000万円(税別)です。たとえば株式価値1.5億円+負債1億円=基準額2.5億円なら、計算上は1,250万円ですが、最低額に届かないため2,000万円となります。
つまり、この規模では料率の議論にほとんど意味がありません。最低報酬がいくらかを先に聞くほうが、総額の見当がつきます。最低報酬の水準は会社によって幅がありますので、必ず金額を確認してください。
④ 中間金の有無と、返金の扱い
中間金があるかどうか、あるならいつ、いくらか。そして不成立になったときに戻るのか。
当社は基本合意の締結時に成功報酬額の10%を中間金として申し受け、成約時の成功報酬から全額を差し引きますが、基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。
「成功報酬から差し引くので総額は増えません」という説明だけを聞くと、負担がないように感じられます。返金の有無まで確認してください。ここを説明しない会社は、他のことも説明しない可能性があります。
⑤ 実費の範囲
手数料とは別に、実費が発生します。どこまでが手数料に含まれ、どこからが実費なのかを確認してください。
典型的なのは、登記費用、印紙代、株式の評価を外部に依頼する場合の費用、翻訳費用、出張費です。買い手が行うデューデリジェンスの費用は買い手の負担が原則ですが、売り手側で弁護士に契約書を見てもらう費用などは自己負担になります。
詳しくはデューデリジェンスの費用は誰が払うのかで扱っています。
⑥ 不成立のとき、合計いくら残るか
最後に、この一問で確かめてください。「まとまらなかった場合、私の負担は合計いくらになりますか」
着手金、月額報酬、中間金、実費。どこまで戻らないのかを、段階ごとに答えてもらいます。当社であれば、基本合意に至らなければ0円、基本合意後の不成立なら中間金が残ります。
この質問に即答できない会社、あるいは「そんなことは起きません」と話をそらす会社は、説明義務への姿勢がそこに出ています。案件の3割から半分は成約に至らないのが実際です。起きない前提の説明は、説明ではありません。
聞きにくいと感じる必要はない
手数料の内訳を細かく聞くことを、失礼だと感じる方がいらっしゃいます。「信用していないと思われないか」と。
その心配は要りません。説明することは仲介会社の義務です。中小M&Aガイドライン(第3版)は、手数料の体系と金額を含む重要事項について、契約締結に先立って書面を交付し説明することを求めています。聞かれて困る会社のほうに問題があります。
むしろ、こうした質問に丁寧に答えるかどうかは、その後の実務の丁寧さとよく相関します。デューデリジェンスで不利な事実が出たとき、交渉が難しい局面に入ったとき、同じ姿勢で説明してくれるかどうかが見えます。最初の説明は、相手を見極める機会でもあります。
書面で受け取る
以上の6項目は、すべて書面で受け取ってください。中小M&Aガイドライン(第3版)は、手数料の体系・金額、業務の範囲、契約期間、テール条項の有無と内容といった重要事項について、契約締結に先立って書面を交付し説明することを求めています。
口頭で説明を受け、その場で契約書に署名を求められる——この進め方には慎重になってください。一度持ち帰り、専門家に見てもらう時間を取ることは、依頼者として当然の権利です。
当社では手数料の計算機を公開しています。株式価値と負債総額を入れれば、成功報酬・中間金・成約時の請求額が出ます。入力値は端末内で計算するだけで、当社には送信されません。