「決算は税理士に任せていて、月々の数字は見ていない」。中小企業では珍しくありません。ただ、会社を譲る場面では、月次で数字が出るかどうかが評価に直結します。理由は、買い手が見ているものを考えると分かります。
買い手が月次を見る理由
買い手は、年に一度の決算書だけでは判断できません。知りたいのは「いまどうなっているか」と「どう動いてきたか」だからです。
決算書は、1年間の結果をまとめた資料です。しかし、その1年の中で売上が右肩上がりだったのか、期末に大口の受注があっただけなのかは分かりません。季節変動の大きい業種では、決算月の数字だけを見ても実態がつかめません。
月次の数字があれば、傾向が見えます。傾向が見えれば、将来の予測に自信が持てます。予測に自信が持てれば、価格は上がります。逆に、月次がなければ買い手は不確実性を織り込みます。その分だけ、提示額は慎重になります。
最低限そろえたい三つの資料
完璧な管理会計は要りません。まずは三つです。
月次試算表。毎月、翌月の中旬までには前月の損益と貸借が出る状態にします。資金繰り表。向こう6か月から1年の入出金の見込みを、月単位で並べたものです。売上の内訳。取引先別、商品別、部門別のいずれかで、売上がどこから来ているかが分かる資料です。
この三つがあれば、買い手からの質問の大半に答えられます。逆にこれがないと、デューデリジェンスのたびに過去の資料を掘り返すことになり、時間も信頼も失います。
決算だけの会社が陥りやすいこと
月次を見ていない会社で起きやすいのが、期末になって初めて赤字に気づくという事態です。気づいた時点では打つ手が限られます。
もう一つが、在庫と売掛金の実態が分からないという問題です。決算でしか棚卸をしていないと、期中の在庫水準が把握できません。売掛金も、回収が滞っている先がいつから滞っているのか分からない。デューデリジェンスでこれらが指摘されると、資産の評価が減額されます。
さらに、社長の頭の中にしか数字がない状態は、それ自体が買い手にとってのリスクです。社長が抜けたら何も分からなくなる会社は、引き継ぎが難しいと判断されます。
整えるための現実的な手順
いきなり完璧を目指す必要はありません。順番があります。
第一に、会計データの入力を毎月締める。税理士に丸投げしている場合でも、月次で試算表を出してもらうよう依頼します。多くの場合、追加の負担なく対応してもらえます。
第二に、資金繰り表を自分で作る。表計算ソフトで十分です。入金予定と支払予定を並べるだけでも、見える景色が変わります。
第三に、売上の内訳を出す。請求書のデータを集計すれば作れます。取引先別の売上構成は、買い手がもっとも知りたい情報の一つです。
経理担当者への依存も見られている
月次が出るかどうかと同時に、買い手は誰がそれを作っているかを見ます。
長年勤めているベテランの経理担当者が一人で全部を回している会社は、その方が辞めた瞬間に数字が止まります。属人化は、月次が出ていても評価を下げる要因になります。
対策としては、手順を書き出すことです。毎月何日に何をするのか、どのデータをどこから取るのか。一枚の手順書があるだけで、引き継ぎ可能な業務になります。会計ソフトやクラウドサービスへの移行も、属人化の解消に効きます。
整えるのに、どれくらいかかるか
月次試算表を出せる状態にするだけなら、数か月で整います。資金繰り表と売上内訳を加えても、半年あれば形になります。
ただし、買い手が見たいのは「整った直後の1か月」ではなく「整った状態が続いている数か月」です。案件が始まってから慌てて作った資料は、そう見えます。
承継を意識し始めた段階で着手しておく。これが、もっとも費用対効果の高い準備の一つだと考えています。設備投資も人の採用も要りません。
整えることは、譲渡のためだけではない
最後に申し上げたいのは、月次を整えることの効用は譲渡の場面に限らないということです。
数字が月単位で見えれば、値上げの判断も、投資の判断も、人を採る判断も早くなります。金融機関との交渉でも、資料が整っている会社は話が早く進みます。後継者に引き継ぐ場合も、数字が見える会社のほうが引き継ぎやすいのは言うまでもありません。
「譲るために整える」のではなく、「整えた結果、どの選択肢も取れるようになる」。そういう順番で考えていただくのがよいと思います。自社株の評価も併せてご覧ください。