「うちの株はいくらですか」。よくいただくご質問ですが、答えは一つではありません。相続税を計算するときの評価額、会社の純資産から見た評価額、実際に買い手が払う価格。この三つは、同じ会社でも大きく違います。違う理由が分かると、承継の設計の仕方が変わります。
三つの評価額は、目的が違う
評価額が複数あるのは、それぞれ違う目的のために計算されているからです。
相続税評価額は、相続税・贈与税を計算するための額です。財産評価基本通達という国税庁のルールに従って計算します。誰が計算しても同じ数字になるよう、算式が決まっています。
時価純資産は、会社の資産を時価に直し、負債を引いた額です。「いま解散したら株主に残る額」に近い考え方です。
譲渡価格は、買い手が実際に払う金額です。将来どれだけ稼げるか、買い手にとってどんな意味があるかで決まります。算式ではなく、交渉で決まる数字です。
相続税評価額はどう計算されるか
非上場株式の相続税評価額は、会社の規模と株主の立場によって方法が変わります。
同族株主が取得する場合、大会社では類似業種比準方式、小会社では純資産価額方式、中会社ではその併用が原則となります。類似業種比準方式は、配当・利益・純資産の三つの要素を同業種の上場企業と比べて計算します。純資産価額方式は、資産を相続税評価額に直したうえで、含み益に対する法人税相当額を控除して計算します。
同族株主以外が取得する場合は、配当還元方式という、より低い評価になる方法が使われることがあります。誰が取得するかで評価額が変わるのが、この制度の特徴です。
なぜ相続税評価額と譲渡価格がずれるのか
相続税評価額は、過去の実績(配当・利益・純資産)から計算されます。一方、譲渡価格は将来の収益力から評価されます。見ている時間軸が違うのが、ずれの最大の理由です。
たとえば、節税のために利益を抑えてきた会社では、相続税評価額は低く出ます。しかし買い手は、役員報酬や保険料といった費用を実態に合わせて調整して収益力を見るため、譲渡価格は評価額を上回ることがあります。
逆に、含み益のある不動産を持つ会社では、相続税評価額のほうが高くなることもあります。どちらが高いという法則はありません。会社の中身次第です。
M&Aの現場ではどう評価されるか
実務でよく使われるのは、時価純資産に、数年分の利益を加えるという考え方です。土地や有価証券、保険の解約返戻金を時価に直して純資産を計算し、そこに実質的な営業利益の数年分を上乗せします。
この「数年分」に決まった数字はありません。事業の安定性、取引先の分散度合い、経営者への依存度、業界の見通しによって変わります。公表された相場のようなものは存在しません。
このほか、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引くDCF法や、類似する上場会社と比べる方法もあります。いずれも前提の置き方で結果が動くため、一つの数字を鵜呑みにしないことが大切です。当社では簡易的な試算をご用意しています。
評価額を知ることに、どんな意味があるか
評価額を知る意味は、金額そのものより判断の材料になることにあります。
相続税評価額が分かれば、いま相続が起きたときの税額の見当がつきます。納税資金が足りるのか、生前に何か手を打つ必要があるのかが見えてきます。
譲渡価格の目安が分かれば、廃業した場合と比べてどうか、従業員に承継させる場合に資金が用意できるかが判断できます。「いくらか分からないから決められない」という状態から抜け出すこと。それが評価を知る目的です。
評価は一度で終わらない
自社株の評価は、一度計算して終わりではありません。業績が変われば変わり、資産を処分すれば変わり、役員退職金を支給すれば大きく下がります。
承継を考えている期間中は、年に一度は評価額を把握しておくことをお勧めしています。決算のタイミングで顧問税理士に相続税評価額を出してもらうだけでも、状況の変化が見えます。
とくに、利益が大きく出た年は評価額が上がります。贈与を予定しているなら、その年を避けるといった判断もできます。定点観測することで、打てる手が増えます。
誰に頼めばよいか
相続税評価額は、顧問税理士に依頼するのが基本です。決算書があれば計算できます。
譲渡価格の目安については、M&Aの実務を扱っている会社に相談することになります。当社でも、決算書を拝見したうえで目安をお示ししています。相談料や着手金はいただきません。
いずれの場合も、一つの数字だけを信じないことをお勧めします。計算方法と前提を説明してもらい、なぜその数字になるのかを理解したうえで判断してください。説明できない数字には、根拠がありません。