直近期の利益が、例年の2倍になった。売り手としては良い材料に見えますが、買い手はここを疑います。説明の仕方を整理します。

買い手は「続くか」だけを見ている

前提を押さえてください。買い手が価格を考える基礎は、買収後も続く収益です。

一度きりの利益は、買った後には入りません。したがって、価格の算定からは除かれます。

売り手が「今期は3,000万円の利益が出ました」と言っても、そのうち2,000万円が一過性なら、買い手は1,000万円で計算します。

これは値切りではなく、正しい評価です。ここを理解しないまま交渉すると、「不当に安く見られている」という感覚になります。

一過性と判断される典型

買い手が調整の対象とするものを挙げます。

補助金・助成金の収入。雇用関係、設備投資、事業再構築など。翌期も同額が入る保証はありません。

大型の単発案件。普段の10倍の規模の受注。

災害・需給の急変による特需。代替需要、緊急対応。

資産の売却益。不動産、有価証券、保険の解約返戻金。

引当金の戻入。

為替差益。

これらは、営業外損益や特別損益に計上されていれば分かりやすいのですが、売上に混ざっていると見えません。

説明しないと、疑われる

実務で申し上げたいのはここです。良すぎる数字は、説明がないと不信を招きます。

買い手は、デューデリジェンスで必ず原因を調べます。そこで一過性の要因が見つかった場合、「なぜ最初に言わなかったのか」という受け取られ方になります。

調整して価格が下がるだけでなく、他の数字も疑われます。これが最も高くつきます。

最初に、自分から言ってください。「直近期は◯◯により利益が◯円上振れしています。これを除いた実力は◯円です」。この一言で、交渉の質が変わります。

平常時の実力を示す

説明の中心は、特需を除いた数字です。

作るべきは、過去3〜5期の、調整後の営業利益の推移です。各期について、一過性の要因を除いた数字を並べます。

これを見て、安定していればその水準が正常収益力として受け入れられます。

さらに良いのは、特需があった期も、無かった期も、同じ方法で調整することです。都合の良い期だけ調整すると、恣意的に見えます。

一貫した基準で作った表は、それ自体が信頼の材料になります。

特需が続く可能性がある場合

すべての特需が一度きりとは限りません。

制度が継続する見込みのある補助金。ただし、制度は変わります。継続を前提にした説明は慎重に。

その案件をきっかけに継続取引になった場合。これは説明できます。「大型案件を機に、その顧客と年間◯円の取引が継続している」。

需要の構造が変わった場合。一過性ではなく、市場の変化かもしれません。

いずれも、「続くと思う」ではなく、続いている事実を示してください。受注残、契約書、直近の実績。

逆に、悪かった期の説明も要る

公平のために書きます。一過性の悪材料も、同じように説明できます。

大口の貸倒れ、災害による休業、設備の故障、訴訟の和解金、特別退職金。

これらを除けば、実力はもっと高い——この主張は正当です。

ただし、根拠資料が要ります。「あの年は特別だった」という説明だけでは通りません。

そして、良い方向の調整と悪い方向の調整を、両方出してください。片方だけ出すと、全体の信頼が落ちます。

補助金は特に注意が要る

近年、金額が大きくなりやすい項目です。

確認すべきは、①受給の要件を満たし続ける義務があるか(一定期間の事業継続、報告義務など)、②M&Aが返還事由にあたらないか

補助金によっては、財産の処分や事業の譲渡について、事前の承認が必要とされているものがあります。承認を得ずに譲渡すると、返還を求められる可能性があります。

これは価格以前の問題です。受給している補助金がある場合、交付決定の通知書と交付規程を確認し、事務局に照会してください。

資料の作り方

実務的な整理です。用意するもの。

調整表。各期、各項目、金額、調整の理由。

根拠資料。補助金の交付決定通知、大型案件の契約書と請求書、資産売却の契約書、総勘定元帳の該当箇所。

説明のメモ。なぜ一過性と判断したのか、今後の見込み。

この3点をセットにして、早い段階で開示してください。

企業概要書に載せる段階で入れておくのが理想です。デューデリジェンスで出てくるより、はるかに良い結果になります。

価格への影響を先に理解しておく

最後に、心構えの話です。

調整の結果、期待していた価格より低い水準が示されることがあります。

これを「安く買い叩かれた」と感じるか、「実力どおりに評価された」と受け止めるかで、交渉の進み方が変わります。

自社の実力を、自分で先に計算しておいてください。特需を除いた営業利益がいくらか。そこから逆算して、おおよその評価がどのくらいになるか。

数字を持っていれば、提示された価格が妥当かを判断できます。持っていなければ、感情で判断することになります。正常収益力の作り方も併せてご覧ください。

※ 本稿は一般的な考え方をご紹介するものであり、個別の法務・税務アドバイスではありません。実際の取り扱いは会社の状況や契約の定めによって異なります。専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.一過性の要因があれば、その分は除いて評価されます。買い手が価格を考える基礎は買収後も続く収益であり、一度きりの利益は買った後には入らないためです。値切りではなく正しい評価です。
A.補助金・助成金の収入、大型の単発案件、災害や需給の急変による特需、資産の売却益、引当金の戻入、為替差益です。営業外損益や特別損益にあれば分かりやすいのですが、売上に混ざっていると見えません。
A.デューデリジェンスで必ず原因が調べられ、「なぜ最初に言わなかったのか」という受け取られ方になります。調整で価格が下がるだけでなく、他の数字も疑われます。最初に自分から説明してください。
A.受給の要件を満たし続ける義務があるか、M&Aが返還事由にあたらないかを確認してください。補助金によっては財産の処分や事業の譲渡に事前の承認が必要とされ、承認を得ずに譲渡すると返還を求められる可能性があります。交付決定通知書と交付規程を確認し、事務局に照会してください。
A.できます。大口の貸倒れ、災害による休業、設備の故障、訴訟の和解金などを除けば実力はもっと高い、という主張は正当です。ただし根拠資料が要ります。良い方向と悪い方向の調整を両方出してください。片方だけでは全体の信頼が落ちます。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら