M&Aや事業承継には、仲介手数料やデューデリジェンス費用など、まとまった支出が伴います。この負担を軽くする国の支援策として設けられているのが「事業承継・M&A補助金」です。ただし、補助金には申請の時期や手続きのルールがあり、知らずに進めると「対象になったはずの費用が対象外だった」ということも起こり得ます。本稿では、制度の概要、対象になりうる費用の類型、申請の基本的な流れ、そして検討にあたっての注意点を、経営者様の目線で整理してご説明します。

事業承継・M&A補助金とは|制度の概要と位置づけ

事業承継・M&A補助金は、事業承継やM&Aを契機とした中小企業・小規模事業者の挑戦を後押しするために、その取り組みに要する経費の一部を国が補助する制度です。

背景には、経営者の高齢化と後継者不足という構造的な課題があります。帝国データバンクの2025年調査では国内企業の後継者不在率は50.1%にのぼり、一方でレコフデータの集計によれば2025年のM&A件数は5,000件を超えて2年連続で過去最多となりました。承継の受け皿としてM&Aが広がる中、その際に必要となる専門家の活用費用などを支援するのが、この補助金の役割です。

制度は複数の支援類型(枠)で構成されるのが通例で、一般に次のような取り組みが支援の対象とされています。

  • 事業承継を機に、後継者が取り組む設備投資や販路開拓などの経営革新
  • M&Aの際に必要となる仲介手数料・デューデリジェンス費用などの専門家活用
  • M&A成立後の経営統合(PMI)に関する取り組み
  • 事業の引き継ぎに伴って生じる廃業関連の費用

どの枠が使えるか、補助率や上限額がいくらかは公募回ごとに定められるため、具体的な数字は必ず最新の公募要領でご確認ください。

どんな費用が対象になりうるか|専門家費用を中心に

会社の譲渡・譲受を検討されている経営者様にとって特に関心が高いのは、M&Aの専門家活用に係る費用でしょう。一般に、次のような類型の費用が補助対象になりうるとされています。

費用の類型内容の例
仲介・FA費用M&A仲介会社やフィナンシャル・アドバイザーに支払う手数料
デューデリジェンス(DD)費用財務・税務・法務等の調査を専門家に依頼する費用
その他の専門家費用企業価値評価、契約書作成に係る弁護士・税理士等への依頼費用など
経営統合・その他の経費M&A後の統合(PMI)に係る専門家活用費用、廃業を伴う場合の関連費用など

注意したいのは、これらはあくまで「対象になりうる費用の類型」であって、実際に対象となるかどうかは公募回ごとの要件次第だという点です。たとえば、仲介・FA費用については、国の登録制度に登録された支援機関の利用が要件とされる場合があります。また、同じ専門家費用でも、依頼内容や契約のタイミングによって対象外となることがあります。

M&Aの手数料そのものの仕組み(着手金・中間金・成功報酬の違いなど)については、当社の料金体系のページで詳しくご説明しています。費用の全体像を把握したうえで、どの部分が補助の対象になりうるかを確認するのが効率的です。

申請の基本的な流れ|公募から実績報告まで

補助金は、申請すればすぐに受け取れるものではありません。一般的な流れは次のとおりで、補助金の受け取りは取り組みの完了後になります。

  • 公募要領の確認:公募期間・対象要件・補助率・上限額・必要書類を確認する
  • 申請:公募期間内に、事業計画等の必要書類を添えて申請する
  • 採択・交付決定:審査を経て採択され、交付決定を受ける
  • 事業の実施:交付決定後に、対象となる契約・発注・支払いを行う
  • 実績報告:完了後、支出の証憑等を添えて実績を報告する
  • 補助金の受領:検査・確定を経て、補助金が支払われる

ここで押さえておきたいポイントが二つあります。第一に、申請には公募期間という締め切りがあり、いつでも申請できるわけではないこと。第二に、補助金は原則として「後払い」であり、費用はいったん自己資金等で立て替える必要があることです。資金繰りの計画には、この時間差を織り込んでおく必要があります。

注意点|交付決定前の契約と公募回ごとの要件変更

実際の活用にあたって、つまずきやすい注意点を整理します。

交付決定前の契約・支払いは対象外になりうる

補助金の対象となるのは、原則として交付決定後に契約・実施した取り組みです。交付決定を待たずに専門家との契約や支払いを済ませてしまうと、その費用が対象外になるおそれがあります。M&Aの検討を始める段階で補助金の活用も視野に入れるなら、契約のタイミングと公募スケジュールの関係を早めに確認しておくことが大切です。

公募回ごとに要件・補助率・上限額が変わる

事業承継・M&A補助金は、公募回ごとに要件や補助率・上限額、対象経費の範囲が見直されます。過去の公募回の情報やインターネット上の解説記事が、現在の公募にそのまま当てはまるとは限りません。検討の際は、必ず最新の公募要領を一次情報としてご確認ください。

採択されるとは限らない

補助金には審査があり、申請すれば必ず採択されるものではありません。事業計画の内容が問われるため、申請書類の準備には相応の手間と時間がかかることも見込んでおきましょう。

手続き・報告の負担がある

交付決定後も、実績報告や証憑の保管など、事務的な負担が続きます。こうした手続きを支援する専門家もいますので、自社だけで抱え込まず、必要に応じて相談することをおすすめします。

補助金ありきで判断しない|本質はM&A自体の成否

最後に、最も大切な考え方をお伝えします。それは、補助金を「使えたら幸運な追い風」と位置づけ、M&Aの意思決定そのものは補助金と切り離して行う、ということです。

M&Aで動く金額は、会社の譲渡対価を含めて考えれば、補助金の額を大きく上回るのが通常です。良い相手と適正な条件で成約できるかどうかの影響に比べれば、補助金の有無は本質的な差ではありません。にもかかわらず、「次の公募まで待とう」「採択されてから動こう」と考えて時間を費やした結果、有力な買い手候補との縁を逃してしまっては本末転倒です。

M&Aにはタイミングという要素があります。業績の良いうちに、経営者様がお元気なうちに動き始めることが、条件面でも交渉面でも有利に働くのが一般的です。まずはM&A自体の検討——自社の価値の把握、承継方針の整理、信頼できる支援者選び——を軸に進め、スケジュールが合えば補助金の活用も検討する。この優先順位で考えることをおすすめします。M&Aの基本的な進め方は「M&Aとは何か|中小企業のM&Aの基本」を、承継全体の選択肢は「後継者不在の解決策としてのM&A」をご参照ください。

まとめ|最新の公募要領の確認と専門家への相談を

事業承継・M&A補助金は、M&Aや承継に伴う専門家費用等の負担を軽くしてくれる、心強い支援制度です。一方で、公募期間・交付決定前の契約・後払いという制度上のルールを理解せずに進めると、せっかくの制度を活かせないこともあります。

要点をまとめます。

  • 仲介手数料・DD費用などの専門家活用費用が補助対象になりうる
  • 申請は公募期間内に行い、原則として交付決定後の契約・支払いが対象
  • 補助率・上限額・要件は公募回ごとに変わるため、必ず最新の公募要領を確認する
  • 補助金は後払いであり、採択される保証もないため、資金計画は補助金に依存させない
  • 意思決定の軸はあくまでM&A自体の成否に置く

当社プラチナパートナーズでは、M&Aのご相談の中で、補助金の活用可能性やスケジュールとの関係についても一般的な情報をご案内しています(申請手続きの代行は行っておりませんが、必要に応じて専門家との連携をご相談いただけます)。費用のご不安も含めて、まずはお気軽に無料相談をご利用ください。

なお、当社は現在、中小企業庁「M&A支援機関登録制度」への登録手続中です(最新の状況は中小M&Aガイドライン遵守宣言のページに掲載しています)。補助金のご活用をお考えの場合は、その時点での支援機関の登録要件とあわせてご確認ください。申請手続きの代行は行っておりません。

よくあるご質問

A.事業承継やM&Aに取り組む中小企業・小規模事業者を対象に、承継後の挑戦や、M&Aの際に必要となる専門家活用などの費用の一部を国が補助する制度です。公募期間内に申請し、採択・交付決定を受けてから取り組みを実施し、実績報告を経て補助金が支払われるという流れが基本です。要件・補助率・上限額は公募回ごとに見直されるため、必ず最新の公募要領をご確認ください。
A.M&Aの際の専門家活用に係る費用として、仲介手数料やフィナンシャル・アドバイザー費用、デューデリジェンス費用などが補助対象になりうるとされています。ただし、対象となる費用の範囲や要件(登録機関の利用が求められる場合があること、交付決定前に契約・支払いした費用は対象外になりうることなど)は公募回ごとに定められるため、最新の公募要領での確認が不可欠です。
A.おすすめしません。補助金は公募期間や採択の有無に左右されるうえ、支払いは原則として取り組みの完了後です。採択を待つためにM&Aの好機を逃しては本末転倒です。M&A自体の成否を軸に検討を進め、タイミングが合えば補助金の活用も検討する、という優先順位で考えることをおすすめします。
本稿の税務・法務に関する記載は2026年8月時点の制度に基づく一般的な解説です。個別の適用については、必ず税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。

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相談料・着手金・月額報酬は0円です。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。ご相談に費用はかかりません。
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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら