「来期の売上はもう見えています」——受注残や継続契約を持つ会社の強みです。買い手にとっても、将来の売上が確からしいことは価格を上げる根拠になります。ただし、持っていることと、評価されることは別です。本稿では、受注残と継続契約が企業価値にどう反映されるのか、そのために何を示せばよいのかを整理します。売上構成の考え方は「売上の構成が評価を変える」もご覧ください。

買い手が将来の売上を見る理由

企業価値の評価では、過去の実績とともに将来の収益力が問われます。買い手が支払う対価は、突き詰めればこれから生み出されるキャッシュに対する対価だからです。

その意味で、受注残や継続契約は「将来のキャッシュが、いまの時点で相当程度見えている」ことの証拠になります。毎年ゼロから受注を積み上げる会社と、期初の時点で年間売上の6割が確定している会社とでは、同じ利益水準でも評価が変わり得ます。

評価手法との関係でいえば、DCF法のように将来キャッシュフローを見積もる方法では、見積もりの確からしさそのものが結果に影響します。「DCF法とは」もご参照ください。

何が「確からしい」とされるか

ただ「受注残があります」では足りません。買い手は中身を見ます。

見られる点評価が上がる状態
契約の形書面の契約がある。口頭・慣行のみは弱い
期間残存期間が長い。自動更新の定めがある
解約解約の予告期間が長い。中途解約に制約がある
相手先分散している。1社への集中が低い
実績過去の更新率・解約率が数字で示せる
価格改定物価や人件費の上昇を転嫁できる条項がある

最後の点は、近年とくに重く見られます。数年にわたる固定価格の契約は、売上が見えている一方でコスト上昇を吸収できないため、利益率が悪化するリスクを抱えます。長期契約が常に有利とは限りません。

減点になる条項|COCとチェンジオブコントロール

継続契約を多く持つ会社で、必ず確認されるのがチェンジオブコントロール(COC)条項です。支配権の異動があった場合に、相手方が契約を解除できる、あるいは事前の承諾を要するという定めです。

この条項があると、せっかくの継続契約が譲渡によって失われる可能性のあるものになります。買い手から見れば、価格の根拠にしていた売上が、成約と同時に消えるかもしれない。当然、価格やクロージング条件に影響します。

主要な契約については、譲渡を検討する段階でCOC条項の有無を確認しておいてください。詳しくは「チェンジオブコントロール(COC)条項とは」で解説しています。

資料としてどう整理するか

買い手に伝わる形は、感覚ではなく一覧です。次のような整理をおすすめします。

  • 契約先ごとに、契約開始日・残存期間・年間金額・更新条件を並べた一覧
  • 直近3〜5年の、契約数と解約数の推移
  • 売上に占めるストック部分とスポット部分の比率(年度推移)
  • 上位取引先の売上構成比(集中度が分かる形で)
  • COC条項・価格改定条項の有無の一覧

こうした資料は、企業概要書(IM)の説得力を大きく変えます。数字で示せるものを言葉で説明すると、買い手は割り引いて受け取ります。逆に、一覧が整っていること自体が管理体制の証拠にもなります。

整理の過程で、自社でも気づいていなかったことが見えることがあります。特定の1社で売上の4割を占めていた、契約の多くが今期末で更新期を迎える、価格改定条項がある契約は全体の2割しかない。買い手に指摘される前に自分で把握しておけば、説明の準備ができます。

受注残が「重り」になる場合

受注残は常に資産とは限りません。次のような場合は、むしろ負担として見られます。

採算が合わない受注が積み上がっている場合です。受注時点の見積もりが現在のコストに合っておらず、こなすほど利益が減る。建設や製造で、資材価格が上がった局面に起こります。

納期の遅延が発生している場合です。残高が大きいのは受注が好調だからではなく、消化できていないから。人員が足りない、設備が追いつかない。この場合、遅延損害や信用の毀損まで見積もる必要があります。

買い手はこの区別をします。売り手としても、受注残の中身を採算と納期で分けて説明できるようにしておいてください。都合の悪い部分を伏せると、デューデリジェンスで判明したときに信頼を失います。

もうひとつ、受注残に含まれる前受金の扱いも確認されます。前受金を受け取っている案件は、キャッシュとしては既に入っている一方で、役務の提供義務が残っています。買い手から見れば、現預金の中に「これから働いて返すもの」が混ざっている状態です。純有利子負債の計算に影響しますので、金額を把握しておいてください。

まとめ|見えている売上を、見える形にする

要点を整理します。

  • 将来のキャッシュが見えていることは、価格を上げる根拠になる
  • 契約の形・期間・解約条件・分散・更新率の実績が問われる
  • 価格改定条項がない長期契約は、コスト上昇のリスクを抱える
  • COC条項があると、譲渡で契約が失われる可能性が価格に影響する
  • 採算割れ・納期遅延の受注残は、資産ではなく負担として見られる

なお、業種別の評価倍率や平均的な譲渡価格といった公表値はありません。受注残がいくらの価値になるかは、その買い手が何を必要としているかで変わります。ご自身の会社の強みがどこで評価されるかは、ご相談の中で具体的にお話しします。ご相談は無料です。

よくあるご質問

A.まったく評価されないわけではありませんが、書面の契約に比べて割り引かれます。長年の取引実績が数字で示せれば補強にはなります。譲渡を見据えるなら、主要な取引先とは書面を交わしておくほうが有利です。
A.慎重な判断が必要です。譲渡の検討段階で外部に伝えれば、情報が広がるリスクがあります。通常は、基本合意の後、相手方と買い手の関係を見ながら時期を計ります。仲介者と相談のうえ進めてください。
A.中身によります。採算が確保されていて納期どおりに消化できる受注残は評価されますが、採算割れや遅延を含むものは負担として見られます。金額の大きさではなく、利益として実現する見込みが問われます。

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御社の「見えている売上」を、伝わる形に整えます。

どの資料をどう整理すれば買い手に伝わるか、具体的にお話しします。ご相談は無料です。
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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら