デューデリジェンスの段階になると、買い手は決算書の数字を他の資料と突き合わせて確かめます。この作業を「疑われている」と受け取られる経営者様もいらっしゃいますが、実際には、買い手が投資判断の根拠を自ら確かめるための当然の手続きです。本稿では、どの資料とどう照合されるのか、どこにずれが生じやすいのか、そして意図しないずれが見つかったときにどうすべきかを整理します。

買い手は決算書を疑っているわけではない

まず、この作業の位置づけを整理しておきます。買い手は多くの場合、数億円規模の資金を投じ、その一部を借入によって調達します。金融機関に対しても、社内の意思決定の場でも、判断の根拠を示す責任があります。

そのためには、提出された決算書の数字が他の資料と整合していることを自ら確かめる必要があります。これは対象会社への信頼とは別の話であり、手続きとして必ず行われるものです。

実務では、公認会計士や税理士などの外部専門家が調査にあたります。彼らは限られた期間のなかで、効率よく整合性を確かめるための定型的な手順を持っています。

したがって売り手として必要なのは、身構えることではなく、求められた資料を速やかに出せる状態を整えておくことです。調査全体の流れは「デューデリジェンス(DD)とは|調査項目と売り手の準備」をご覧ください。

突き合わせられる主な資料

決算書の数字は、次のような資料と照合されます。

確認対象突き合わせる資料
現預金預金通帳、残高証明書、当座勘定照合表
売掛金得意先元帳、請求書控、入金の記録、年齢調べ表
棚卸資産実地棚卸表、受払記録、評価の計算資料
固定資産固定資産台帳、取得時の契約書・請求書、登記事項証明書
借入金金銭消費貸借契約書、返済予定表、残高証明書
売上高売上台帳、請求書、契約書、納品の記録
人件費賃金台帳、社会保険の届出、労働者名簿、就業規則
各科目全般総勘定元帳、月次試算表、法人税申告書の別表

このうち、法人税申告書の別表は重要な資料です。決算書と税務申告の関係が示されるため、会計上の処理と税務上の取扱いの違いがここで確認できます。

また、月次試算表と年次決算の整合も確認されます。月次の合計が決算の数字と大きく異なる場合、決算時にまとめて計上している項目があることを意味します。

ずれが生じやすい論点

意図の有無にかかわらず、実務でずれが生じやすい論点があります。代表的なものを挙げます。

売上の計上時期——出荷基準か検収基準か、工事であればどの段階で計上するか。期末をまたぐ取引で、計上の時期が一貫していないことがあります。

在庫の数量と評価——実地棚卸を年1回しか行っていない場合、帳簿上の在庫と実際の在庫にずれが生じます。また、評価方法の適用が一貫していない場合もあります。

経費の期ズレ——請求書の到着が遅れた費用を翌期に計上している、前払いの費用を全額当期に計上している、といったケースです。

人件費と労務管理——賃金台帳と社会保険の届出の不一致、未払残業の存在、雇用形態と実態の乖離などが確認されます。これらは労務の論点でもあり、社会保険労務士等の専門家の確認が必要な領域です。

固定資産の実在——台帳に載っているが現物がない、逆に現物があるが台帳に載っていない、といった状況です。

本稿は一般的な考え方の説明です。会計・税務・法務上の取扱いは個別の事情によって判断が分かれるため、具体的な適用にあたっては公認会計士・税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。

意図しないずれが見つかったとき

調査の過程で、経営者様ご自身が把握していなかったずれが見つかることがあります。長年の運用のなかで積み重なったものや、担当者の交代によって処理が変わったものなどです。

このとき重要なのは、事実を確認し、原因を説明することです。金額の大小より、どういう経緯で生じたのかが問われます。意図的な操作でないことが説明できれば、多くの場合は調整項目として処理されます。

調整の方法としては、価格への反映、契約における表明保証と補償の設定、譲渡までの是正の実施、対価の一部留保などがあります。どの形になるかは、内容と金額によります。

避けたいのは、指摘を受けて初めて事実を認める形になることです。買い手からすれば「他にも把握されていないことがあるのではないか」という疑念につながります。

可能であれば、資料を提出する前に、ご自身で主要な項目を確認しておかれることをおすすめします。「売却前の自社チェックリスト|買い手に見られる観点を自分で点検する」が出発点になります。

早めに自ら開示する意味

M&Aの交渉では、情報の出し方が結果を左右します。同じ内容でも、いつ、誰から伝えられるかで受け止められ方が変わるからです。

売り手側から先に開示された事項は、交渉の前提として扱われます。買い手はその内容を織り込んで条件を検討し、必要な調整を行ったうえで合意に向かいます。

一方、調査で発見された事項は、予定外の発見として扱われます。買い手は条件を見直し、他の項目についても追加の確認を行うことになります。結果として、時間がかかり、条件も厳しくなりやすい傾向があります。

「伝えたら不利になるのではないか」というご心配は自然なものです。しかし実務では、伏せておくことで得られる利益より、後から発見されることで失うもののほうが大きいのが通例です。何をどのタイミングで伝えるべきかは、M&Aアドバイザーとご相談いただければと思います。

まとめ|整合性は、信頼の土台になる

決算書の数字が他の資料と整合していること。これは当たり前のようでいて、実際には準備の差が出る部分です。

整合性が確認できる会社は、調査が早く終わります。調査が早く終われば、交渉に使える時間が増え、買い手の関心も維持されます。逆に、資料の突き合わせに時間がかかると、それだけで買い手の熱が冷めることもあります。

準備としては、次の三点が基本です。

  • 主要な科目について、裏づけとなる資料の所在を把握しておく
  • 月次と年次の整合を確認し、決算時に一括計上している項目を把握しておく
  • 把握しているずれや未整理の論点があれば、早い段階で共有する

これらは、顧問税理士の協力を得ながら進められる作業です。譲渡を具体的に検討される前の段階からでも着手できます。何から手をつければよいかのご相談も承ります。相談料・着手金・月額報酬は0円です。

よくあるご質問

A.総勘定元帳、月次試算表、法人税申告書一式(別表を含む)、預金の残高証明書、得意先元帳、固定資産台帳、実地棚卸表、賃金台帳、主要な契約書などが一般的です。案件の規模や業種によって範囲は変わります。すべてを事前に揃える必要はありませんが、どこに何があるかを把握しておくだけで、調査の進み方が大きく変わります。
A.決算時にまとめて計上している項目があると、月次との差は生じます。在庫の評価、減価償却、賞与引当、未払費用の計上などが典型です。これ自体が不適切というわけではありませんので、どの項目を決算時に処理しているのかを説明できるようにしておいてください。可能であれば月次でも概算計上する運用に切り替えると、説明がしやすくなります。
A.先に伝えることをおすすめします。売り手から開示された事項は交渉の前提として扱われ、必要な調整を行ったうえで合意に向かえます。一方、調査で発見された事項は予定外の発見として扱われ、条件の見直しや追加の確認につながりやすくなります。何をどのタイミングで伝えるかは案件の状況によりますので、M&Aアドバイザーにご相談ください。

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相談料・着手金・月額報酬は0円です。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。ご売却をお決めになる前の情報収集の段階でも構いません。
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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら