「過去に税務調査で指摘を受けたことがあるのですが、M&Aに影響しますか」。こうしたご質問をいただくことがあります。結論から申し上げると、調査を受けたことや修正申告を行ったことそれ自体が、直ちに取引の障害になるわけではありません。ただし、買い手が確認する観点はあります。本稿では、何がどう見られるのか、売り手としてどう向き合えばよいのかを整理します。なお、税務上の個別の判断については必ず顧問税理士等の専門家にご確認ください。

履歴があること自体は、珍しいことではない

法人に対する税務調査は、事業を長く続けていれば一度ならず経験されるものです。調査が入ったこと、そして何らかの指摘を受けて修正申告を行ったことは、それ自体で特別な意味をもつわけではありません。

買い手も、そうした履歴があることを前提に確認を進めます。むしろ、長年事業を営んでいるのに調査の記録が一度もないという場合のほうが、事情を尋ねられることがあります。

したがって、過去の指摘を伏せる理由はありません。伏せたところで、税務デューデリジェンスの過程で申告書や更正通知が確認されれば、いずれ明らかになります。

むしろ、隠していたと受け取られることのほうが、はるかに大きな影響を及ぼします。

買い手が気にするのは、金額より「性質」

買い手が確かめるのは、指摘された金額の大きさよりも、どういう性質の指摘だったかです。

判断の見解の相違によるもの——たとえば、費用として処理すべきか資産として計上すべきかといった時期の問題、交際費と会議費の区分、役員報酬の相当性など——であれば、処理方針を是正すれば済みます。買い手は、是正後の運用が適切に行われているかを確認します。

一方、事実関係そのものに関わる指摘、たとえば売上の計上漏れや架空の経費といった性質のものであれば、確認の度合いは変わります。決算書の数字全体の信頼性に関わるため、他の項目についても検証の範囲が広がることになります。

また、同種の指摘が複数回にわたって繰り返されている場合は、是正が行われていないと受け取られます。一度目の指摘の後に運用を改めたのかどうかは、重要な確認事項です。

買い手側の調査については「税務デューデリジェンスとは|調査される項目と売り手の準備」で詳しく扱っています。

本稿は一般的な考え方の説明です。会計・税務・法務上の取扱いは個別の事情によって判断が分かれるため、具体的な適用にあたっては公認会計士・税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。

決算書の数字の信頼性への波及

税務上の論点が、なぜ企業価値の話につながるのか。それは、評価の出発点が決算書だからです。

買い手は決算書の数字を基礎として収益力を計算し、資産と負債を実態に置き直して価値を算定します。その出発点となる数字の正確さに疑義が生じれば、算定全体の前提が揺らぎます。

そのため、過去に重大な指摘があった場合、買い手は次のような対応をとることがあります。調査の範囲を広げる、外部の専門家による検証を求める、契約に表明保証条項を詳しく設ける、対価の一部を一定期間留保する、といった形です。

いずれも取引を止めるための対応ではなく、不確実性に備えるための実務です。ただし、これらの条項は売り手にとって負担にもなり得るため、内容をよく理解したうえで合意することが大切です。契約条項の検討にあたっては弁護士等の専門家にご相談ください。

将来の税負担が論点になる場合

もう一つの観点が、未確定の税負担です。過去の申告に関して、今後追加の納税が生じる可能性がある場合、買い手はその見込み額を評価に織り込もうとします。

たとえば、調査が進行中である、更正の請求や不服申立てが係属している、税務上の取扱いについて顧問税理士と見解が分かれている項目がある、といった状況です。これらは簿外の債務に近い性格をもつものとして扱われることがあります。

また、譲渡の後に過去の期間について調査が行われ、追加の納税が生じた場合、その負担を誰が負うのかという問題があります。これは最終契約における表明保証と補償の条項で定められるのが一般的です。

売り手としては、未確定の論点があるならば、その内容と見込み額、顧問税理士の見解を整理しておくことが望まれます。額が確定していなくても、論点の存在を共有しておくことで、後の紛争を避けられます。

事前に整理・開示しておく

準備として、次の資料の所在を確認しておかれることをおすすめします。

  • 直近3〜5期分の法人税・消費税の申告書一式(別表を含む)
  • 税務調査を受けた期の記録(調査の時期、指摘事項、修正申告書、更正通知)
  • 納付した本税・加算税・延滞税の記録
  • 指摘を受けて改めた処理方針と、その後の運用状況
  • 現在も見解が分かれている論点があれば、その内容と顧問税理士の意見

これらを一覧にしておけば、買い手からの質問に即座に答えられます。「どこにあるかわかりません」という状態が続くと、調査は長引き、買い手の不安も大きくなります。

開示の仕方としては、売り手側から先に伝えるのが望ましいと考えます。指摘を受けた経緯、是正した内容、その後の運用を自ら説明できれば、対応の適切さが伝わります。調査で発見されるのとは、受け止められ方がまったく違います。

関連して、譲渡後の税務調査への備えは「M&A後の税務調査|売り手・買い手それぞれが備えること」をご覧ください。

まとめ|過去は変えられないが、扱い方は選べる

過去の税務調査の履歴は、今から変えることはできません。しかし、その扱い方は選べます。

整理すると、買い手が見ているのは次の三点です。

  • 指摘の性質——判断の相違か、事実関係に関わるものか
  • 是正の状況——指摘の後に運用を改めたか、同じ指摘が繰り返されていないか
  • 未確定の論点——今後の税負担につながる可能性があるか

この三点について自ら説明できれば、履歴の存在が取引の障害になることは多くありません。逆に、説明を避ければ、金額の大小にかかわらず不信を招きます。

そして、税務上の論点は専門的な判断を伴います。過去の処理について不安がある場合は、まず顧問税理士にご相談いただき、現状を正確に把握することから始めてください。そのうえで、M&Aの場面でどう伝えるべきかについては、当社でもご一緒に検討いたします。

相談料・着手金・月額報酬は0円です。守秘義務を徹底のうえ、お話を伺います。

よくあるご質問

A.指摘を受けた履歴があること自体で売却ができなくなることは、通常ありません。事業を長く続けていれば調査を受けることは珍しくなく、買い手もそれを前提に確認を進めます。確認されるのは、指摘の性質、是正が行われたか、同種の指摘が繰り返されていないかといった点です。経緯と対応を説明できるよう整理しておくことが大切です。
A.売り手側から先に伝えることをおすすめします。税務デューデリジェンスでは申告書や更正通知が確認されるため、伏せていてもいずれ明らかになります。そのときに「伝えられていなかった」と受け取られると、他の情報についても疑いが生じます。経緯・是正内容・その後の運用をあわせて説明すれば、対応の適切さが伝わります。
A.最終契約における表明保証と補償の条項で定められるのが一般的です。譲渡前の期間に関する税負担について、売り手が一定の範囲で補償する形が多く見られますが、期間や金額の上限を設けるなど、条件は交渉によって決まります。内容は売り手の負担にも直結するため、契約の検討にあたっては弁護士・税理士等の専門家にご相談ください。

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相談料・着手金・月額報酬は0円です。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。ご売却をお決めになる前の情報収集の段階でも構いません。
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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら