「返済を待ってもらっている状態で、会社を譲るなんて言い出せない」。そうお考えになるのは自然です。ただ実務では、リスケ中の会社の譲渡は決して珍しくありません。むしろ、体力が残っているうちに相手を探すことが、従業員と取引先を守る現実的な道になることがあります。

リスケ中でも、譲渡はできる

返済条件の変更(リスケジュール)を受けていること自体が、M&Aを妨げるわけではありません。金融機関にとっても、回収不能になるより、引き継いでくれる相手が現れるほうが望ましい展開です。

買い手の立場でも、債務があること自体は必ずしも障害になりません。事業に収益力があり、設備や人材、取引先といった価値があれば、債務を含めて引き受ける判断は十分にあり得ます。買い手が見ているのは、債務の額そのものではなく、事業が生み出すキャッシュで返せるかどうかです。

大切なのは時期です。資金が尽きてから動き出すと、選べる相手がいなくなります。リスケに入った段階、あるいは入りそうだと感じた段階で選択肢を確かめておくほうが、結果ははるかに良くなります。

金融機関に、いつ、どう話すか

もっとも多いご質問です。結論から申し上げると、早い段階で、方針として相談しておくことをお勧めしています。

リスケ中は経営改善計画の履行状況を共有している関係にあります。その関係の中で、譲渡という選択肢を検討していると伝えることは、むしろ自然です。黙って進め、最終契約の直前に伝えると、金融機関は「聞いていない」という立場から入ることになり、同意を得るまでに余計な時間がかかります。

伝える内容は、相手を特定する前の段階では「事業を継続するための選択肢として第三者への譲渡を検討している」という方針で構いません。相手が決まる前でも、方針の共有はできます。この一手間が、後半の交渉を大きく楽にします。

債務をどう扱うか — 三つの型

実務でとられる形は、大きく三つに分かれます。

一つめは、株式譲渡で債務ごと引き継ぐ形です。会社はそのまま残るため、借入も契約もそのまま続きます。買い手の信用で借り換えが行われることもあります。もっとも手続きが軽い形です。

二つめは、事業譲渡で、事業と必要な資産だけを移す形です。譲渡代金を債務の返済に充て、残った会社を清算します。買い手が過去の債務を引き受けなくて済むため、買い手が見つかりやすくなる一方、債権者との調整が必要になります。

三つめが、第二会社方式です。採算の取れる事業を新会社に移し、旧会社に債務を残して整理する方法で、中小企業の再生局面で用いられます。金融機関の同意が前提であり、専門家の関与が不可欠です。

経営者保証はどうなるか

オーナーが個人保証を差し入れている場合、譲渡によって自動的に外れるわけではありません。保証契約は、オーナーと金融機関の間の契約だからです。

実務では、買い手が新たに保証を差し入れる、あるいは借り換えを行うことで、旧オーナーの保証を解除してもらう交渉を行います。ここは最終契約の条件に組み込んでおくべき論点です。

なお、経営者保証に関するガイドラインの運用は広がっており、金融庁の集計では、経営者保証に依存しない融資の割合は2024年度上期で52%に達しています。保証を外す交渉の環境は、以前よりも整ってきています。個人保証の扱いも併せてご覧ください。

買い手に何を見せるか

リスケ中の会社を検討する買い手が知りたいのは、なぜそうなったのかと、今どうなっているのかです。

過去の特定の失敗(大口取引先の倒産、設備投資の失敗、一時的な受注減)が原因で、現在は営業段階では黒字に戻っているのであれば、それは明確に説明できる材料です。逆に、構造的に赤字が続いているのであれば、そこを隠しても始まりません。

用意すべきは、直近3期の決算書、試算表、資金繰り表、借入金の一覧と返済条件、経営改善計画とその履行状況です。整っていない状態で相談に来ていただいても構いません。何を揃えるかから一緒に考えます。

時間が、いちばん重要な資源になる

リスケ中の案件で決定的なのは時間です。資金が続く期間が、そのまま交渉できる期間になります。

資金繰り表を月次で作り、いつまでに何が決まっていなければならないかを逆算します。買い手探し、面談、デューデリジェンス、契約、クロージング。それぞれに必要な期間を置いていくと、動き出すべき時期が見えてきます。

「もう少し業績が戻ってから」と待つ判断が、結果として選択肢を狭めることがあります。業績が戻る見込みに根拠があるなら待つべきですが、根拠のない期待で時間を使うのは避けたいところです。

従業員と取引先を守るという観点

最後に、判断の軸について申し上げます。リスケ中の会社が力尽きた場合、失われるのはオーナーの財産だけではありません。従業員の雇用、取引先の売掛金、地域の仕事が一緒になくなります。

譲渡によって事業が続けば、雇用は守られ、取引も続きます。オーナー個人が得るものは少ないかもしれませんが、守れるものの範囲はまったく違います

これは経営者にとって重い判断です。だからこそ、判断するための材料を早めに揃えておくことをお勧めしています。動くかどうかは、材料が揃ってから決めれば十分です。

※ 本稿は一般的な考え方をご紹介するものであり、個別の法務・税務アドバイスではありません。実際の手続や課税関係は、会社の状況や契約の定めによって異なります。弁護士・税理士等の専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.隠せません。デューデリジェンスで借入条件は必ず確認されます。隠していたことが後から分かると、破談か、大幅な条件の見直しになります。最初から開示し、経緯と現状の説明を用意しておくほうが、結果的に良い条件につながります。
A.株式譲渡の場合、借入契約にチェンジオブコントロール条項があれば、株主の変更に金融機関の承諾が必要になることがあります。条項がなくても、実務上は事前に相談するのが通例です。事業譲渡や第二会社方式では、債務の扱いに直接関わるため同意が前提になります。
A.事業に収益力があれば、見つかることがあります。買い手が見ているのは純資産の額ではなく、事業が生み出すキャッシュと、引き継ぐ価値のある資産や取引関係です。ただし、選べる相手の数は減るため、早い段階で動くことが重要になります。
A.自動的には外れません。買い手が新たに保証を差し入れる、借り換えを行うといった方法で、金融機関に解除を求める交渉が必要です。最終契約の条件として明記しておくべき論点です。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら