会社を譲渡するとき、経営者にとって金額と並ぶ関心事が個人保証を外せるかどうかです。実務では買い手の借り換えなどで解除に至ることが多いのですが、その過程で税務上の論点が生じる場合があります。本稿では、保証の解除と、それに伴って動く債務の整理について、税務の観点から整理します。解除の実務は「経営者保証は外せるか」をご覧ください。

保証を外すこと自体に、課税は生じるのか

まず結論からいえば、個人保証が解除されただけでは、通常は課税関係は生じません。保証は「万一のときに支払う」という約束であって、解除によって何かを受け取るわけではないからです。

実務では、買い手が金融機関と交渉して借り換えを行い、その際に前経営者の保証を外す形が一般的です。あるいは買い手の代表者が新たに保証に入り、前経営者が抜ける。いずれも、前経営者に金銭が渡るわけではありません。

ただし、保証債務が現実化していた場合は話が変わります。既に保証人として支払う義務が具体化している状態で、その負担を第三者が肩代わりすれば、経済的利益を受けたと評価される余地があります。ここは個別性が高い領域です。

役員借入金がある場合の整理

保証とセットで問題になりやすいのが、役員借入金です。会社が経営者から借りているお金で、中小企業では珍しくありません。

譲渡にあたっては、この債権をどう扱うかを決める必要があります。主に3つの方法があります。

方法内容主な税務論点
返済してもらうクロージング前後に会社から返済返済自体に課税なし。会社の資金繰りに影響
債権を放棄する経営者が債権を放棄し、会社の負債を消す会社に債務免除益(法人税の課税所得)
買い手に譲渡する債権を対価付きで買い手に移す譲渡代金の一部として扱われ得る

とくに2つ目に注意が必要です。債権を放棄すると、会社側に債務免除益が立ちます。繰越欠損金があれば相殺できることもありますが、なければ法人税の負担が生じます。「善意で放棄したのに税金がかかる」という事態は実際に起きます。

どの方法を採るかは、会社の資金余力・繰越欠損金の有無・買い手の意向で決まります。デューデリジェンスの前に方針を決めておくと、交渉が滞りません。金額が大きい場合は、譲渡価格そのものの設計に関わってきます。

役員貸付金がある場合

逆に、会社が経営者に貸している役員貸付金があるケースもあります。買い手は通常、これを残したまま引き継ぐことを嫌います。回収できるか分からない資産だからです。

したがって、クロージングまでに精算するのが一般的です。経営者が現金で返済するのが基本形ですが、返済原資がない場合は、役員退職金と相殺する、譲渡代金から充当するといった設計をとります。

ここで会社が債権を放棄した場合、経営者の側に経済的利益が生じ、給与所得等として課税される可能性があります。金額が大きいと負担も大きくなります。放棄という形を安易に選ばず、税理士と組み立ててください。詳しくは「役員借入金・役員貸付金がある会社の売却」をご覧ください。

担保に入っている個人資産

保証と並んで、経営者個人の不動産が会社の借入の担保に入っていることがあります。自宅が典型です。

譲渡にあたっては、この担保を外すことが交渉の対象になります。買い手が借り換えを行えば同時に外れることが多いのですが、外れない場合、会社を手放したのに自宅の担保だけが残るという状態になりかねません。

担保の解除自体に課税は生じませんが、解除の見込みは譲渡の判断に直結します。最終契約のクロージング条件として、保証・担保の解除を明記するのが確実です。解除が確認できるまで実行しない、という設計です。

あわせて、会社名義になっている個人的な資産の扱いも整理しておきます。社宅、車両、保険。買い手が必要としないものは、譲渡前に個人へ移すか処分するのが一般的です。移す際には時価での取引が原則で、著しく低い価額であれば課税上の問題が生じます。「事業に使っていない資産の扱い」もご覧ください。

経営者保証ガイドラインと、いまの環境

経営者保証をめぐる環境は変わってきています。「経営者保証に関するガイドライン」に沿った対応が金融機関に求められており、金融庁の公表によれば、経営者保証に依存しない新規融資の割合は2024年度上期で52%となっています。

背景には、法人と個人の資産・経理が明確に分離されていること、財務基盤が強化されていること、金融機関に適時適切に情報開示していることといった要件があります。これらは譲渡の準備そのものと重なります。

つまり、保証を外しやすい状態にする取り組みは、そのまま企業価値の説明を強くします。「企業価値を高める磨き上げ」もあわせてご覧ください。

まとめ|お金が動くところに、税務が生じる

要点を整理します。

  • 保証の解除だけなら、通常は課税関係は生じない
  • 役員借入金の債権放棄は、会社に債務免除益が立つ
  • 役員貸付金を会社が放棄すると、経営者側に経済的利益が生じ得る
  • 個人資産の担保解除は、クロージング条件として明記する
  • 保証を外しやすい財務状態は、企業価値の説明も強くする

本稿は一般的な仕組みのご紹介であり、特定の取引に関する税務アドバイスではありません。適用関係は個別の事情によって異なりますので、必ず税理士等の専門家にご確認ください。当社は相談料・着手金・月額報酬0円で、専門家と連携しながらご支援します。

よくあるご質問

A.必ずではありません。買い手が借入を引き継ぐのか借り換えるのか、金融機関がどう判断するかによります。実務では買い手の信用力で借り換えを行い解除に至ることが多いのですが、見込みは案件ごとに異なります。最終契約のクロージング条件に入れておくことをおすすめします。
A.手続きは簡単でも、会社に債務免除益が生じ法人税の対象になります。繰越欠損金の有無、金額の規模によって影響は変わりますので、放棄を選ぶ前に必ず税理士に試算してもらってください。返済または債権譲渡のほうが有利なことも多くあります。
A.おすすめしません。会社を手放した後も、自宅に担保が残る状態が続きます。解除の見込みが立たない場合は、代替の担保を差し入れる、譲渡代金の一部を弁済に充てるなどの手当てを、成約前に決めてください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら